2014 Fiscal Year Annual Research Report
砂丘堆積物を用いた中世以降の東アジア冬季モンスーン変動の検出
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24680088
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
田村 亨 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報研究部門, 主任研究員 (10392630)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | モンスーン / アジア / 砂丘 / 海岸 / 小氷期 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,鳥取県弓ヶ浜半島海岸砂丘での現地調査と年代測定,青森県屏風山砂丘とベトナムMuiNe砂丘での年代測定作業,一部成果の学会発表と論文とりまとめを行った. 弓ヶ浜半島では,4月と5月に下見調査を行い,6月に本調査(地中レーダ探査,オーガーボーリングによる年代測定試料の掘削,標高測量)を行った. この弓ヶ浜半島と屏風山の採取試料について,石英の光ルミネッセンス(OSL)の特性を調べた結果,年代測定に不適切な成分が強く十分な精度が得られないことが明らかになった.そこで石英ではなくカリ長石を抽出し,赤外光ルミネッセンス(IRSL)年代を得た.弓ヶ浜半島で6個,屏風山砂丘で9個の年代値を得たが,弓ヶ浜半島では1000年前よりも古いものが多く,過去1000年間の現象を把握するには,追加の試料採取が必要であることが明らかになった.屏風山では,鳥取砂丘において中世の温暖期以前の活動期である10~13世紀に大きな活動期があったことが明らかになった他,小氷期の約200年前の活動期もあったことが明らかになった. ベトナムMui Ne砂丘では,前年度までに得られた24個の年代値に加え,今年度新たに12個の年代値を得た.OSL年代の測定データから,粒子が堆積前に完全に露光されていない試料が多く,単粒子でのOSL年代測定が必要であることが示唆された.これまでに小氷期と中世の温暖期のコントラストを示すようなデータは出ていないが,単粒子OSL年代を再検討することにより,そのような現象が検出される可能性がある. 論文は,これまでに得た鳥取砂丘の年代と地中探査レーダの記録に加え,最近公表された台湾と中国福建省の砂丘の堆積年代との比較から,小氷期における冬季モンスーンの強まりの可能性についてとりまとめた. 9月の日本第四紀学会ではMuiNe砂丘の地中探査レーダとOSL年代測定結果の一部について発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ここまで,予定通り,南シナ海の海岸砂丘(Mui Ne)と,日本海側の砂丘(屏風山,弓ヶ浜半島,鳥取)について,地中探査レーダ調査,オーガーボーリングによる年代測定試料採取,OSL(IRSL)年代測定,を行ってきた.当初の予測とは異なったのは,Mui Neでは中世の温暖期と小氷期とのコントラストをとらえるには,砂丘の年代が若すぎること,また,日本海側の砂丘では,不適切なOSL特性を示す石英が多くみられたことである.しかし,Mui Neでは地中レーダとOSL年代から砂丘の移動方向や移動速度が明らかになり,南シナ海において冬季モンスーンが堆積物の運搬と海岸地形の形成に非常に重要な役割を示していることがあきらかになった.また,日本海側でも,カリ長石のIRSL年代測定を試みることにより,屏風山では鳥取砂丘と共通する砂丘の活動期が認められた.昨年度とりまとめた鳥取砂丘の論文で示したように,中国福建省や台湾でも砂丘活動が同時的であることが示唆されている.以上を総合すると,3年間の研究の進捗により,1) 東アジア~東南アジアの広い範囲のいて,海岸砂丘は冬季モンスーンに強く影響を受け,2) 過去の活動期は同時的であり,中世の温暖期における砂丘活動の弱まり,小氷期における砂丘活動の強まり,という仮説がより支持されるようになってきた.これらのことから,本研究課題は,おおむね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
3年間の研究の成果をうけ,4年目は,これまで得られた成果のフォローアップととりまとめを行っていく. (フォローアップ)弓ヶ浜半島では,これまで採取した堆積物の大半が1000年前よりも古い年代値のため,より新しい堆積物の採取を行い,高分解能で堆積物供給速度,海岸線変化を復元する.屏風山砂丘では,これまで南部の1露頭と五月萢遺跡の2露頭のみでの調査結果であったが,あと数箇所の露頭において記載と試料採取を行い,砂丘活動の同時性を検証する.また,砂丘砂に挟まる有機質の土壌層のC-14年代測定も行い,IRSL年代の妥当性を検証する.Mui Neでは新たな試料採取は行わないが,調査を行った乾季と,雨季では地形が大きく異なる可能性があり,それが地中レーダ断面でどのように反映されるかを検討するために,雨季の間に短い現地調査を行う.既に採取した試料に対しては,特に露光状況の悪い試料に対して,単粒子OSL年代測定と,少量試料のOSL測定および測定データの統計処理を行い,年代精度を高める. (とりまとめ)弓ヶ浜半島,屏風山,Mui Ne砂丘において,地中探査レーダや露頭柱状図,年代結果を総合した砂丘地形発達の論文をそれぞれとりまとめる.また,屏風山や弓ヶ浜半島において明らかになった不適切な石英のOSL特性についても,これらの論文の一部か,別の論文としてとりまとめる.さらに,全ての結果を総合した上で,東~東南アジアの海岸地形発達における冬季モンスーンの役割と,その古環境記録に関する論文をとりまとめる.これらの成果は論文の他,7月に行われるINQUA(国際第四紀学会),11月に行われるAPLED(アジア太平洋ルミネッセンス・ESR年代測定会議)で発表する予定である.
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Causes of Carryover |
ベトナムMuiNe砂丘で予定していた現地調査が共同研究者との日程調整がつかず延期されたため.また,試料処理数が少なく,作業補助者の雇用が必要な期間が短かったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ベトナムMuiNe砂丘における現地調査を行う.また,7月末の国際第四紀学会(INQUA)に合わせ,共同研究者のMark Bateman(イギリス・Sheffield大学)と,Ta Thi Kim Oanh(ベトナム科学アカデミー)を招聘し,共同研究発表を行うとともに,成果の論文化にむけた入念な打ち合わせを行う.
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Research Products
(1 results)