2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24681050
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 弓 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特任准教授 (50466819)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 記憶 / 日中戦争 / オーラルヒストリー / 中国近現代史 / 迷信 / 雨乞い / コミュニティ |
Research Abstract |
5月の連休を利用して、論文「山西省農村における雨乞い――農民の視点から「迷信」を捉える」(『中国研究月報』2012年6月号掲載)を執筆。山西省農村の雨乞いが、日中戦争及び「破除迷信」運動を通して如何に変化し、また変化しなかったのか、改革開放後どのように復活したのかを実態調査及び農民たちの語り(順口溜)より論じた。また、雨乞いの際に生じる神の「移動」を通じて如何にコミュニティが形成されてきたのかを考察した。 夏季休暇中には、8月に山西省盂県での聞き取り調査を進めた。また、9月にはアルゼンチンブエノスアイレスで開催された国際オーラルヒストリー学会(International Oral history Association)に参加し、世界の多様な地域におけるオーラルヒストリー研究の現状について情報収集を行った。ただし、日中間で尖閣諸島の領有問題が発生し、北京での反日デモが激化したため、安全を考慮して本年度における北京での聞き取り調査は回避せざるを得なかった。 3月には山西省農村を再訪し、夏季の聞き取りで明らかになった「破除迷信」運動を経ても保存された「大王爺」(雨乞いの神)の追跡と、その保護にまつわる地域住民の行動について4村で聞き取り調査を行った。また、「大王爺」(春秋時代の「趙氏孤児」を祭ったもの)を祭る本山である「蔵山」と、第二の本山とされる「小蔵山」へ赴き、現地調査を行った。 日本学術振興会平成二十四年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の交付を得て、博士論文を大幅に加筆・修正した著書『記憶としての日中戦争――インタビューによる他者理解の可能性』(研文出版、2013年2月28日初版)を出版した。 2013年10月開催予定のOral History Association(Oklahoma, USA)での発表を準備、申請し、通貨の連絡を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画(山西省での調査、国際オーラルヒストリー学会への参加、論文執筆、著書の公刊)を全て実施(北京での聞き取りは国際情勢の変化のため回避したが、これはやむを得ない事情である)した。研究内容では、「雨乞い」という風俗習慣の禁止と復活の過程から、調査地域において近代化がどのように受容或いは排除されたかを考えることを通して、記憶という現象に迫る方法に大まかな道筋をつけることができた。これは、これまで戦争記憶よりも更に広範で長期間に及ぶ記憶の需要や変容を対象とする膨大な試みへの着手であり、本研究の目的達成のための基礎を、初年度においてある程度確立したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の調査結果より、上僕頭の「大王廟」ではなく、南社村を中心とする「小蔵山」と呼ばれる地域の廟会及び雨乞いの活動、そして「小蔵山」と「神親」関係にある宴村(現地から100キロ以上離れている)を訪れ、大王を介した南社及びその周辺の村々とのつながりの歴史や雨乞いの意味について調査を進める。調査史料を検討し随時研究ノートや論文を執筆していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「小蔵山」と宴村を巡る関係から、山西省全域にわたるコミュニティのあり方について調査検討を進める。国外のオーラルヒストリーの研究状況を把握し、聞き取りという研究手法についても考察を進める。
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