2013 Fiscal Year Annual Research Report
聴覚・視覚・体性感覚を統合した周辺刺激捕捉過程の解明
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24683026
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
宮内 良太 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 助教 (30455852)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マルチモーダル感覚統合 / 周辺空間知覚 / 知覚と運動 / 選択的注意 / 時空間統合 |
Research Abstract |
本研究では,ヒトを取り巻く三次元空間について,視覚・聴覚・体性感覚の有機的連携に基づく知覚空間の形成過程と注意の捕捉過程を明らかにする。そのために,周辺に呈示された事象がどのように知覚され,それによって注意がどのように捕捉されるのかを解明し,聴覚・視覚・体性感覚が有機的に連携していることを示す。 1. 周辺に呈示された視聴覚刺激の空間知覚表象の解明:前年度から引き続き正中面方向で生じる視聴覚定位不斉について検討し,視聴者の定位能力が実験結果に影響を与えることを明らかにした。さらに視聴覚定位不斉の生起条件について,刺激の種類や測定方法をかえて測定し,視聴覚定位不斉の恒常性を示すことができた。これは,視線や身体を静止した条件において周辺刺激に対する知覚空間が強固なことを示しており,身体運動を加味して考える際に,この結果を基盤としても問題ないことを保証する知見である。 2. 視聴覚刺激を捕捉する際の視線や頭,身体の移動パターンの測定:まずは視線の影響を見るために,視聴者の視線方向を制御した際の視聴覚定位方向を測定した。その結果,視線を向けた方向から離れるに従って視聴覚刺激の定位位置にずれが生じることが分かった。これは,同じ方向から呈示された聴覚刺激による入力は視線の位置を変えても同一であるにも関わらず,視線方向を変えることで,聴覚刺激の知覚位置が変化することを示している。この結果は,視聴覚空間の統合は,注視点を中心に体制化されることを示唆している。 3. 呈示する刺激に関する検討:これまで,視聴覚刺激には単純なクリック音やフラッシュを用いてきた。しかし,周辺刺激の捕捉過程には注意の影響が大きく関わっており,視覚的,聴覚的注意をコントロールする必要がある。そこで,音刺激の注意に与える要因について検討し,振幅包絡の制御で,注意や音に含まれる情報をコントロールできることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画書に記載した実験についてはおおむね終了し,成果が得られている。また,これまでに得られた成果をまとめた論文化も進んできた。しかし,事前に想定していた実験装置が購入できず,急遽導入した装置の時空間同期精度に問題があり,身体・頭部運動の同時計測データの取得が遅れている。そのため,達成度を一つ下げて,おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画にある研究については,次年度以降もこれまで通り研究を進める。さらに,申請者が代表者を務めて 24 年度から 25 年度にかけて実施した挑戦的萌芽研究において,若手研究 A にも資すると考えられる成果が得られた。 これまで,聴覚的注意は客観的に測定することが難しいと考えられてきた。一方で,視覚的注意は視線方向によって観察が可能であるため,本研究では,聴覚的注意がどの方向を向いているのかを,視線や身体運動との関連から推測できる可能性を視野に入れて研究を進めてきた。一方,挑戦的萌芽研究において,耳音響放射という耳から自発的に放射される音が聴覚的注意によって影響をうけることが分かってきた。ただし,挑戦的萌芽研究の目的は,注意による遠心性フィードバックが聴覚末梢系における能動性に与える影響を明らかにすることであり,音の方向といった空間情報に着目した研究ではない。そのため,現時点では,注意方向の測定に拡張できるかどうかは定かではない。しかし,聴覚的注意の客観的な測定手法が確立できれば,本研究の当初の目的にも資するものと考える。そこで,次年度以降は,視線や身体運動に加えて,この耳音響放射の測定も視野に入れて研究を進めることで,注意の影響も加味した空間知覚特性について明らかにできると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25 年度にパベック電子の AD コンバータを導入予定としていた。この AD コンバータは非常にノイズ耐性が強く,複数チャンネルの信号の同期精度も高いため,複数センサからの微弱な信号を精密に測定する本研究での使用機器として最適であった。しかし,パベック電子での取り扱いが終了しており,同等の機能を持つ AD コンバータの選定に時間を要したため H25 年度内の導入ができなかった。また,データ分析のために実験補助者を雇用予定であったが,上記の理由からデータの収集が遅れたため雇用できなかった。 AD コンバータを他の機器で代用し,簡易測定を行ったところ,サンプリングおよび時間同期については許容範囲内であったが,ノイズの影響が大きく精密測定には向かないことが分かった。そのため,前年度未使用資金を使って H26 年度初頭に多チャンネルのモジュール組み込みフィルタを導入し,測定精度の向上を図る。この装置の構築によってデータの収集も進むと思われるため,得られたデータの分析のための実験補助者を雇用する資金とする。
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