2013 Fiscal Year Research-status Report
「個人の歴史経験」と「学校歴史」に着目した児童の歴史理解に関する実証的研究
Project/Area Number |
24683033
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
田口 紘子 鹿児島大学, 教育学部, 准教授 (10551707)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 歴史理解 / 国際情報交換 / 歴史教育 |
Research Abstract |
本研究は児童の歴史理解の形成や変容の原因を、「学校歴史(授業で習得がめざされる歴史)」と「個人の歴史経験(個人が保持している歴史)」に着目して解明し、児童の歴史理解を促進する学校歴史教育のあり方を考察するものであった。本年度はまず前年度に引き続き文献調査を行い、子どもの歴史理解に関する調査研究の体系化を行っている米国のリンダ・レヴスティック教授とキース・バートン教授の共著“Common Good”の翻訳を他の研究者とともに手がけ、分析の際の参考にすることにした。特に偉人等の伝記に慣れ親しんだ子どもは、歴史的社会変化は偉人一個人の思いや努力によって引き起こされたと考える傾向が強いことは、日本の子どもにも当てはまると考えられ、本書は日本におけるデータを解釈する際の参考になると思われる。 文献調査と同時並行でA小学校5・6年複式学級における歴史授業およびB小学校学年別複式学級6年の歴史授業の参観と予備の授業分析を行った。両授業とも児童が教科書や資料集の記述をそのまま発言や記入する様子が見られ、授業参観による児童の発言や記入の分析だけでは個人の歴史理解は明確にならないことがはっきりした。しかしながら奈良時代に聖武天皇が大仏を作った理由について、当時の社会情勢等を無視して「聖武天皇は大仏を作りたかったから作った」といった個人の願いだけを国家事業の要因にする発言も確認できた。 また小学4年生40名に対し歴史理解について尋ねる面接法も試みた。「学校歴史」としてはほとんど学ぶことのない「お金の誕生」について、「遠い昔の時代ではお金は必要とされていませんでした。それはなぜでしょうか」や「必要な物や欲しい物を交換することは難しいことです。それはなぜでしょうか」などを問いかけた。ここでもやはり「自分の気に入った物は手放したくない」など自己の感情にとらわれ、時代背景が軽視される傾向が確認できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度における予備的な授業分析および面接においては、授業参観における児童の発言と記述だけでは、児童が理解した歴史が明確にならないこと、面接による一問一答的なやりとりでは児童の歴史理解の変容可能性が明確にならないことがはっきりとした。教科書や資料集の記述にとらわれず、児童が自己の歴史理解を示す機会は、個人面接において、資料等を用いながら歴史の理解について尋ねていくことを仮説とし、来年度の再度の予備調査にのぞみたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は文献調査を進めながら、再度、予備的調査を行う。資料等を用いて、子どもの歴史理解がどの程度変容するのかを探るために、学校歴史では取り扱わない調査問題の開発を行い、誤答についてはその要因について児童にインタビューを行う。「個人の歴史経験」が要因となる場合を確定していく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究成果報告を行う予定であったが、他の学会発表と重なり発表することができなかった。それにともない、データ入力や分析を進めていない箇所もあり、謝金や物品費、旅費の予算一部を執行できなかった。 来年度は本年度の研究成果を学会発表するために全データの入力を行い、学会発表のための旅費や物品費予算を執行する。また今年度は面接法による調査を複数回行う。短時間で同時に面接を行うことができるようアルバイトを雇用し、アルバイトの旅費も負担する必要がある。当初の見積もりよりも支出が増える可能性が予想されるため、当該年度の残金を有効に活用できると考える。
|