2012 Fiscal Year Annual Research Report
磁性強誘電体デバイスの高速動作に向けた磁気誘電ドメイン壁動力学の解明
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24684020
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
賀川 史敬 東京大学, 大学院・工学系研究科, 講師 (30598983)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | マルチフェロイック / ドメイン壁 / 誘電スペクトロスコピー / ペロブスカイト / 有機導体 / 電荷秩序 |
Research Abstract |
磁気秩序と強誘電性が共存する磁性誘電体(または、マルチフェロイックスと呼ぶ)におけるドメイン壁ダイナミクスを解明すべく、典型的なマルチフェロイックスであるDyMnO_3において誘電スペクトロスコピーを実施した。この物質においてはマルチフェロイックドメイン壁の緩和挙動が巨大磁気誘電応答を生むことが先行研究から明らかになっていたものの、そのクリープ挙動の観測は未だ報告例がなく、この観測がH24年度の最大の目標であった。本実験により、誘電率スペクトルに周波数のべき乗で記述されるような挙動が観測され、また、この挙動は分極と電場が平行な配置でのみ観測されたことから、マルチフェロイックドメイン壁のクリープ挙動の観測に初めて成功したと言える。また、三角波の電場を低速で印加(1Hz)した場合は、通常の形のP-Eヒステリシスループが観測されるのに対し、高速で印加(1kHz)で印加した場合はいわゆる二重履歴のループが得られることが分かった。ドメイン壁を高速動作させると、低速で動作させた場合と比べて、定性的に異なった挙動を示すというのは、予期していなかった発見である。 電荷秩序と強誘電性が共存する、広義のマルチフェロイックスも近年同様に注目を浴びている。電荷秩序を示す典型的な物質群の1つに有機導体が挙げられるが、電荷秩序の前駆現象について未解明な点が多く、そのため電荷秩序と誘電応答についても詳細な議論が難しい状況であった。我々は、電荷秩序転移を示す有機導体θ-(ET)_2RbZn(SCN)_4において、電気抵抗の揺らぎをスペクトラムアナライザを用いて解析し、さらにx線の散漫散乱実験も実施した結果、10から20ナノメートル程度の微小な電荷秩序ドメインが数Hzから100kHz程度の速さで揺らいでいることがわかった。揺らいでいる電荷秩序ドメインの存在が明らかになったことで、電荷秩序誘起の誘電性解明に向けて、重要な基盤が築けたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標に掲げていた、マルチフェロイックドメイン壁のクリープ挙動の観測に成功したのみならず、(1)ドメイン壁を高速動作させると質的に新しい動的挙動が現れることを発見、(2)有機導体における微小な電荷秩序ドメインのダイナミクスの解明、といった成果が得られた。上記(1)、(2)の成果は当初の計画以上のものと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
マルチフェロイック物質における磁気構造(例えばスカーミオンと呼ばれる磁気渦構造)のGHz駆動及びそれに伴う新奇機能性の開拓、電荷秩序ドメインのダイナミクスの解明、マルチフェロイックにおける強誘電ドメインの可視化を主に推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
直接経費次年度使用額が発生した主な理由は、予定していた国際会議参加を、翌年度に行うことにしたためである。翌年度の、国内・国際会議参加の際の旅費に主に充てる予定である。
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