2012 Fiscal Year Annual Research Report
有機分子薄膜の電子状態計測―分子軌道からバンド形成にいたるまでの描像―
Project/Area Number |
24685004
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (A)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山田 剛司 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90432468)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 2光子光電子分光 / 走査トンネル顕微鏡 / 有機分子薄膜 / 局所分光 / 非占有準位 / バンド構造 |
Research Abstract |
2光子光電子分光法(2PPE)は占有・非占有準位を同時に計測することが可能であり、顕微化によりマイクロメートルスケールで電子状態を可視化できる。一方、高い空間分解能を有する走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて局所分光を行うと、原子・分子レベルにおいて吸着分子の電子状態を計測できる。本研究ではこれらの二つの分光手法を組み合わせ、ナノメートル(nm)から巨視的領域(μm)に至るまでの広範な空間スケールにおいて有機分子吸着表面の電子状態を計測することを目的とする。トップダウン方式によってマクロスケールでみた平均的な情報(2PPE)と、ボトムアップ的に原子・分子レベルでみた微視的な情報(STM局所分光)との相関が明らかとなれば、吸着有機分子のアイランドサイズに依存した電子状態が得られる。この結果、分子軌道的な描像とバンド描像とが交錯する空間領域で電子状態が理解できるようになることが期待される。 STMを用いた局所分光を推進させるため、24年度後半には新しいSTM制御用コントローラを導入し、調整を行った。これにより、既存の装置以上に自由度をもって局所分光を行うことが可能になった。現在STS/zV分光など、各種局所分光の試験測定を行っている段階である。また、フタロシアニン吸着系に関して、基板の温度変化によって吸着構造が変化する興味深い系が見つかった。具体的には、表面に出現した有機分子による規則構造/ランダム構造を基板温度や分子蒸着量を制御することで適宜作り分けられることが判明した。この系に関して、マクロスケールで電子状態を計測する顕微・角度分解2PPE分光実験を行った。非占有準位の一つである鏡像準位に着目すると、ランダム配置では鏡像準位に励起された電子が散乱される様子が捉えられた。一方、分子が凝集し、表面上で規則構造を作った際の鏡像準位は自由電子的に振る舞うことが分かり、この空間領域では分子由来の占有・非占有準位に関してはバンド描像が成り立つ可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
STMを用いた局所分光を実施するため、24年度後半に新しいSTM制御用コントローラを購入し、画像取得や調整などを行った。現在STS/zV分光など、各種局所分光の試験測定を行っている段階である。年度前半のSTM実験により、基板の温度変化によって吸着構造が変化する興味深い系が見つかった。この系に関して、マクロスケールで電子状態を計測する顕微・角度分解2PPE分光について実験を行った。単分子で存在していた吸着子が凝集し、表面上で規則構造を作りつつ、バンドを形成する際の電子状態について、具体的な描像が得られつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
局所分光に関して、引き続きSTMを用いた分光実験(zV分光)を継続する。さらにzV分光をSTM画像上の各点で行うdz/dVマッピング法を開発し有機薄膜に適用する。dz/dVマッピングでは、特定の電子準位における空間マッピングが非破壊で出来る。空間的に不均一成長する有機薄膜の場合、探針による表面の破壊を防ぐため、STM実験時のトンネル電流値は数十pAのオーダーに抑える必要がある。zV分光は低トンネル電流で電子状態計測が可能である利点がある。2PPEに関しては、引き続き角度分解測定を行うことで、バンド描像が成り立つ空間領域での電子状態や、電子散乱過程が理解できるようになると考えている。上述のdz/dVマッピングの結果と併せて議論し、分子軌道的な描像とバンド描像とが交錯する空間領域での電子状態を理解できるようになることを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度当初は真空ポンプや、半導体レーザーダイオードの寿命を考えたのち、消耗を見込んで予算計上した。実際に故障が起こらなかったり、運よく他の助成金でカバーすることができたため、予算に残余が生じた。今年度は残余分を設備備品費用の拡充に充てる予定である。具体的には、STMに低速電子線回折装置(LEED)の導入を試みることを計画している。LEEDではSTMによる局所構造解析にとどまず、マクロ領域での構造解析が行える利点がある。また、ガス状吸着した吸着子の平均分子間距離なども見積もることができたり、STMでは評価の難しい非整数次・整合相を観測することができるため、STMと併用することで強力な構造解析手段となる。両者の併用は表面上で規則構造を作りつつ、バンドを形成する描像を理解するに当たり強力な手段となりうる。
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Research Products
(14 results)