2013 Fiscal Year Annual Research Report
有機分子薄膜の電子状態計測―分子軌道からバンド形成にいたるまでの描像―
Project/Area Number |
24685004
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山田 剛司 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90432468)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 2光子光電子分光 / 走査トンネル顕微鏡 / 局所分光 / 非占有準位 / 有機半導体薄膜 / バンド分散 |
Research Abstract |
2光子光電子分光法(2PPE)は占有・非占有準位を同時に計測することが可能であり、顕微化によりマイクロメートルスケールで電子状態を可視化できる。一方、高い空間分解能を有する走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて局所分光を行うと、原子・分子レベルにおいて吸着分子の電子状態を計測できる。本研究ではこれらの二つの分光手法を組み合わせ、ナノメートル(nm)から巨視的領域(μm)に至るまでの広範な空間スケールで有機分子吸着表面の電子状態を計測する。 本年度は前年度に導入したSTMコントローラの調整を行った後、局所分光に特に力点を置いて分光実験を行った。計測対象としてグラファイト上のルブレン薄膜を用いたところ、単分子層以下および多層膜で鏡像準位の電子状態変化が見られた。具体的には、単層膜以下の膜厚では非占有準位と鏡像準位が相互作用し、共鳴強度が増大する現象が知られている。これらはマクロスケールでの電子分光(2PPE)で得られた結果とも整合しており、構造と電子状態で1対1対応がついたといえる。 年度後半は低速電子線回折(MCP-LEED)を用い、マクロスケールでの情報を構造解析に使用して実験を行った。計測試料として、グラファイト基板上に蒸着した鉛フタロシアニン薄膜を用いた。室温・単分子層以下の超薄膜では、分子が表面分散する回折像が捉えられた。局所効果・観測者効果の大きいSTMだけでは構造に決定的な結論を下せないが、LEEDを併用することで分子の分散状態について明確な描像が得られた。角度分解2PPEでは、分子の凝集によりLUMO+2準位のバンド負分散が観測でき、分子凝集状態においてバンド描像が成り立つことを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初に予定していた低速電子線回折装置をSTMに導入し、分子軌道的な描像とバンド描像とが交錯する空間領域の定義を行うことができた。一見、走査トンネル顕微鏡(STM)で整然と分子が整列した膜においても、広域で見るとモアレパタンが生じ、point-on-lineと呼ばれる非整数次の整合構造をとることがある。基板とのわずかな整合・部分整合構造においても電子状態が異なることが予想されるため、これらの微細な構造差にも注目して解析していくことが大切である。特に2光子光電子分光で見る鏡像準位は分子欠陥や膜の誘電率によって大きく左右されるため、測定自体はマクロスケールで見ていると考えてもミクロな構造情報を有していることがある。今後も鏡像準位の挙動に注目して実験を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、2光子光電子分光、低速電子線回折、走査トンネル顕微鏡をもちいた構造解析を続けていく。低速電子線回折においては、有機分子薄膜を対象に用いているのでプローブ電子線の影響を極限まで下げる必要がある。このためにマイクロチャンネルプレートを用いたMCP-LEEDを用いている。MCP-LEEDは半円形蛍光スクリーンと平面プレートを用いているため、本来あるべき像からのゆがみを避けられない。構造解析に当たっては基準試料を用いて補正を行ったうえでゆがみを的確に除去する必要があるため、歪み除去を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学術研究助成基金助成金における残金(\21,490)は当初予算全体の額から比較すると些少であり、ほぼ当初計画の通りに研究費を使用することができたと考えている。 次年度の物品費に組み入れて使用する予定である。
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Research Products
(10 results)