2013 Fiscal Year Annual Research Report
多様性と共生の知恵を育む中東・北アフリカ地域の都市計画史
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24686067
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
松原 康介 筑波大学, システム情報系, 准教授 (00548084)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アルジェ / ベイルート / 国際協力 / ダマスカス |
Research Abstract |
本科研費申請時における平成25年度の計画の実施成果の第一は、審査付き学術論文「Japanese Cooperation for Urban Planning in the Old Capital of Damascus」である。これはダマスカスの旧市街の形成過程を踏まえた保全計画のあり方を、JICAで実施したカスル・ハッジャージュ通りのファサード改善事業を事例として考察したもので、画一的でない、よりダマスカスの歴史的空間に即した保全手法の提起に重要性がある。これにより当初の計画であるダマスカス都市計画史研究を完遂した。第二にアルジェ研究として、24年度に前倒しで実施したフィールドワークと新たな資料分析より、筑波大学北アフリカ研究センター主催のチュニス国際会議で発表した。番匠谷の進化型住宅のコンセプトが日本からアルジェへ継承されたことが証明され、今後の計画分析の重要な仮説を得た。第三にベイルートについては、それまでの調査をまとめて建築学会と都市計画学会(審査付き学術論文)で発表した。これは筆者らが開発した「中東都市多層ベースマップシステム」により空間変容を通事的に解明した点で重要である。ベイルート中東研究日本センターにおける国際会議「中東都市社会における人間移動と多民族・多宗派の共存(第二期)」(代表:黒木英充東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授)での再発表を経て、松本裕大阪産業大学准教授の協力を得て都市組織の実態調査を行った。更に、中東・北アフリカ都市計画研究の基礎を固める見地から、本科研費で実施してきた筆者の博士論文の仏語訳が進捗をみ、『Conservation et Modernisation de la ville historique de Fès, Maroc』がAA研叢書として1,000部出版され、世界中の有力図書館に配本を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の計画は、以下の通りであった。 ダマスカスについて、豊富な既往研究と、番匠谷による基本計画(1968年)等の史資料を元に実施して、歴史研究を完遂する。次いでアルジェ及びベイルートのフィールド研究に着手する。アルジェにおいては、番匠谷らによる住宅地計画の実現実績と現在の空間利用のあり方を解明する。ベイルートにおいては、番匠谷らによる旧市街整備計画(1963年)について、特に都市保全の視点から計画の実績を解明し、後のダマスカス及びアレッポの旧市街計画との比較に備える。更に、ダマスカス及びアレッポに関して現在入手済みのフィールド調査結果(2006年~2011年にかけ採取しながら、今日まで分析に手が回っていないもの)を再整理し、分析する。これでハマーを除く全都市のフィールド研究を完遂する。成果は先年度同様に報告、投稿する。 実際、本年度は、ダマスカスに歴史研究について国際誌に審査付き論文を掲載した。また、アルジェ及びベイルートについての査読付き論文及び国際会議発表を行った。さらに、フィールドワークの成果の再整理を行って、次年度の分析の準備をおこなった。 ここまでを計画通りとすれば、フランス語学術書籍の出版は、計画以上の特筆すべき成果と位置づけられる。そこで今年度は当初の計画以上の進展をみせたと報告したい。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度の研究計画は、アラブ革命の終息を想定し、ハマーのフィールド研究を完遂するというものであった。しかし、現時点で見る限り、シリアの内戦に収束の気配は見られないというのが正直なところである。そこで、ハマーのフィールドワークについては見送ることが現実的と考えている。 一方、本科研費の計画書作成時点において未定だった事項として、アレッポ大学より一名のシリア人学生を修士課程に、またシリア地方自治省のキャリア都市計画官僚で博士号をもつ研究者一名を外国人特別研究員として、迎える予定である。そこで今年度は、ハマーも含め、ダマスカスおよびアレッポのシリア人学生・研究者を通じた情報収集を行っていきたい。 ここで重要なのが、共同研究員として東外大AA研で開発した『中東都市多層ベースマップシステム』である。これは、Googleマップをベースとし、歴史的地図および都市計画図をスケール調整機能をもたせながら重層化した一種のGISシステムである(http://asp.netmap.jp/mebasemap/index.html)。インターネットベースであることで、当然ながらシリアを初めとする現地との現在進行形の情報交換が可能となる。上述の留学生を通じて、このシステムをフル活用することで、長引く内戦に伴う研究の停滞を防ぐこととしたい。 さらに、2014年度より、挑戦的萌芽研究として、「アレッポの戦災状況調査と戦災復興都市計画原案の策定」(26570003)を採択頂いた。本科研費若手A、および挑戦的萌芽の両輪体制で、中東・北アフリカ地域の都市計画史研究と実務還元を引き続き実施する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
3月に実施した研究協力者への出張精算が、手続き上どうしても間に合わなかったため。 計画通り、未使用額の全額が同協力者へ振り込まれる(既に手続きは完了している)
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Research Products
(9 results)