2014 Fiscal Year Annual Research Report
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24687028
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
高岡 勝吉 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (90551044)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 染色体分配 / ヒストン修飾 / 受精 / イメージング / 母性因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの卵生動物では卵母細胞由来の母性因子が受精後の胚発生のパターニングにおいて重要な役割を果たしている。例えば、ショウジョウバエの卵子では母性因子ビコイドのmRNA が胚の前後軸を決めている。これに対し、マウスなどの哺乳類の胚発生では、ホメオスタシス関連因子の報告がある一方で、胚のパターニングに関係するような母性因子は報告されていないこと、桑実胚期までにほとんどの卵子由来のタンパクやmRNAは分解することから、哺乳類胚発生のパターニングにおいては母性因子は関係ないと考えられてきた。また、申請者のこれまでの報告より、マウス胚は少なくとも胚盤胞期において、将来の体軸のパターニングを決める能力を潜在的に備えていることが明らかになっている マウス胚は卵割期を経て、モルラ期のそれぞれの割球の位置情報を元にHippoシグナルが活性化し、胚の内-外のパターニングが起こる。この内-外のパターニングに沿って、胚盤胞期の内部細胞塊(Inner cell mass, ICM)と栄養外胚葉(Troph ectoderm, TE)が細胞分化する。その後、ICMは胚体部分に、TEは胎盤部分に分化する。 代表者はSmad2が母性因子として発生期に機能しているのではないかという仮説をたてた。この仮説を検証するために、卵子特異的なSmad2のコンディショナルノックアウトを行った。結果、卵子特異的ZP3-Creを用いてSmad2をノックアウトした♀マウス由来の受精卵では胚盤胞期で胚発生を停止していた。さらに、モルラ期でNanog(ICM標識遺伝子)とCdx2(TE標識遺伝子)で免疫染色を行ったところ、マターナルノックアウト胚では異常になっていた。また、1細胞期より経時観察を行ったところ、染色体分配が異常になっていること、免疫染色によりヒストン修飾マーカーが異常になっていることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
母性因子Smad2が胚発生の染色体分配やヒストン修飾に関連しているという予想外の結果を得た。本研究の完了により、初期発生分野において母性因子という新たな概念を打ちたて、新たな分野を切り開くという点で、哺乳類初期発生分野の学術的理解が進む。 また、Smad2のマターナルノックアウト胚では将来胚体となるべきICM細胞の特性である多能性が失われており、ES細胞やiPS細胞の多能性維持/獲得機構に関する研究と結びつく可能性が高い。ES細胞やiPS細胞の研究を通じて、将来の再生医療に発展する可能性がある。 さらに、本研究で明らかになる母性因子による胚のパターニング形成機構は、卵生動物のとる発生ストラテジーと哺乳類胚発生ストラテジーでどのような違いがあるかを比較する。これにより、哺乳類の胚発生がどのように進化してきたかという進化論に関する研究にも新たな展開を与える。そして、本研究で新たに明らかになる「哺乳類胚の母性因子による胚のパターニング」のメカニズムは、ヒトの不妊治療の一助となる可能性も秘めている。具体的には、母体を事前診断することで早期診断が可能になる。加えて、母体を治療するという新たな不妊治療法も開発される可能性も秘めている。さらに、本研究は着床前胚を主に扱うため、研究を遂行する過程で開発された技術は、将来の再生医療の現場や不妊治療など臨床の現場へ応用されることは間違いない。 以上の理由ように、当初の予定通り多方面へのインパクトが期待でき、順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
卵子由来のSmad2タンパクが受精卵発生のどの時期まで残存しているのか、そして接合子由来のSmad2がいつから発現を開始しているか、を明らかにするために、 Smad2のmRNAに対しても同様に、in situ hybridization法を用いて、各発生ステージでのSmad2のmRNA量と細胞内局在の変化を明らかにする。 Smad2の上流リガンドを明らかにするために、TGF-βスーパーファミリーを上流リガンドの候補とする。胚発生の各ステージの胚、卵巣/卵管におけるTGF-βスーパーファミリーのリガンドの発現パターンを免疫染色で明らかにする。そして、発現が見られた候補リガンドに対して、適切なCreマウスを用いてマターナルノックアウトし、マターナルノックアウト胚の形態や遺伝子レベルの異常について解析し、Smad2マターナルノックアウト胚の表現型と同様の表現型であるか比較する。上記の実験から明らかになったSmad2が働く発生ステージ/割球に対して、マイクロアレイにより、Smad2マターナルノックアウト胚と野生型のノックアウト胚で遺伝子発現量の差を比較する。候補の遺伝子に対して、shRNAを作成し、ノックダウンすることで、Smad2マターナルノックアウト胚と同様の表現型がでるか比較する。同様の表現型であれば、Smad2の上流リガンドと示唆される。
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Causes of Carryover |
H26年度に作製予定だった遺伝子組み換えマウスが、組み換え遺伝子の設計ミスにより、再度作製しなければいけなくなり、作製期間がH27年度に延長になったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H26年度中に組み換え遺伝子の設計と遺伝子組み換えマウスの作製を終える予定だったが、H27年度に遺伝子組み換えマウスの作製が延期になった。
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Research Products
(6 results)