2012 Fiscal Year Research-status Report
書籍のアクセシビリティとデータ提供システムの国際比較研究
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24700243
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
青木 千帆子 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 研究員 (00584062)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交換 ドイツ / 国際情報交換 アメリカ |
Research Abstract |
本研究の目的は、次にあげる3点である。①国内外において書籍へのアクセシビリティがいかに確保されているのかという観点から諸問題を整理し、課題を明らかにする。②既に存在している書籍アクセシビリティを確保するための支援技術、制度、道具をむすび効果的な活用をめざす。③出版社・福祉団体・図書館・教育機関の連携のあり方を模索し、迅速なデータ提供体制を構築する。 以上の目的のため、①国内外の電子書籍および書籍アクセシビリティに関する情報を集積した。また、アメリカ、ドイツにて実態調査をした。②既存の支援技術、主に音声読み上げ技術が、日本においてどのように活用されているのかを調査した。③視覚障害者向け情報誌を通読し、書籍のアクセシビリティを確保するためにこれまでどのような連携のあり方が模索されてきたのかを確認した。 ①の調査からは、障害者の読書の問題は、国連やWIPOといった国際機関において共通の課題として論じられている一方、各国の現状では市場の拡大が優先されていることが明らかになった。また、米国National Federation of Blindのような視覚障害者らによる精力的な活動がみられない国においては、電子書籍をめぐる話題において視覚障害者、上肢等に不自由のある人といった人々の存在は不可視化されていることが分かった。 ②の調査からは、日本において個別の技術はすでに活用可能な水準に到達しているにもかかわらず、その組み合わせが不適切な状況が発生していることが明らかになった。このことは、①で指摘した読書に困難を持つ人々の存在が不可視化されていることを如実に反映している。 ③の調査からは、視覚障害者の間では読書の問題が明治時代から一貫して課題であり続けたにもかかわらず、出版社・福祉団体・図書館・教育機関が相互に意見を交換し、情報を共有する仕組みが存在しないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的に対し、今年度の実施した取り組みは、以下の通りである。 1)生存学創成拠点HPにおける関連情報のアーカイブ(http://www.arsvi.com/d/eb2012.htm)。2)関連する研究会・学習会などへの参加。3)ドイツ、アメリカでの書籍アクセシビリティ実態調査(7月25日~8月23日、2月26日~3月6日)。4)対出版社アンケート調査。5)電子書籍デバイスおよびフォーマットのアクセシビリティ実証実験。6)学会での報告 4件(2012年3月「IT、電子書籍、Webの活用とアクセシビリティに対する質問と討議」,平成24年度障害者サービス担当職員向け講座、2012年11月「視覚障害者の読書を可能にする技術と社会」、2012年10月「ドイツにおける電子書籍のアクセシビリティをめぐる現状と課題」、2012年9月「視覚障害者の読書を可能にする技術とエージェンシー」)。7)論文執筆 2本(山口翔・青木千帆子・植村要「視覚障害者向け音声読み上げ機能の評価――電子書籍の普及を見据えて」『情報通信学会誌』、山口翔・青木千帆子・植村要・松原洋子「電子書籍アクセシビリティに関する出版社アンケート」『国際公共経済研究』)。 以上の取り組みから、読書障害者の存在を不可視化し、書籍にアクセスする努力を読書障害者側の特別な問題とすることで、脱政治化、つまり社会的な問題を個人的な問題へと矮小化し、悪循環を生み出しているという構図の存在が浮き彫りになった。このことは、2013年度の研究の大きな手掛かりであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、「著作権」という法的事態を人間の相互行為という観点からとらえなおし、著作権問題と視覚障害者の読書の問題にある関係(の非対称性)について検討したい。このため、これまで実施してきた取り組み――(1)書籍のアクセシビリティに関する取り組みの国際比較、(2)支援技術の活用に関する社会・文化・制度的側面からの分析、(3)合意しうる書籍アクセシビリティ向上のための仕組みの模索――を継続することで、①~③に挙げた個別の問題の解決を図り、書籍アクセシビリティの向上を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)電子書籍普及に伴う書籍アクセシビリティ確保に関する国際比較 次年度は、DRMフリー化とオープンソースに関する文献収集に研究費を用いる。また、アメリカとドイツにて現地調査を実施する。アメリカでは、5月29~30日にニューヨーク市Javits Centerで開催される、International Digital Publishing Forum Conferenceに参加し情報収集する。同時に、National Federation of Blindを訪問し、アメリカにおける市民運動と著作権者団体との関係について調査する。ドイツでは、7月後半~8月の上旬にドルトムンド工科大学を訪問し、視覚障害を有する学生の情報保障のための大学間連携について調査をする。 (2)支援技術の活用に関する社会・文化・制度的側面からの分析 次年度は国内で読書障害当事者、支援技術の開発に携わった技術者、販売普及を担ってきた企業担当者、点字図書・音声図書を制作する作業に関わってきた支援者にインタビューし、昨年の文献調査を補足する。このための国内旅費に研究費を使用する。 (3)書籍のアクセシビリティ向上のための仕組みの提言 書籍アクセシビリティを確保するための合法的かつ合意しうる形式・手段を模索するため、(1)(2)に列挙した調査による知見を随時まとめ、出版社・福祉団体・図書館・教育機関関係者と議論の場を設け議論する。このような場の設定、関係者招聘のために研究費を使用する。
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