2012 Fiscal Year Research-status Report
『バビロン(天文)日誌』未発表資料の所蔵状況調査、断片の結合と解読
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24700245
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三津間 康幸 東京大学, 総合文化研究科, 研究員 (00568280)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | バビロン天文日誌 / 楔形文字 / アッカド語 / 大英博物館 / イスタンブール / 天文学 / 史学 / パルティア |
Research Abstract |
平成24年4月、そして平成24年10月から25年3月にかけて、ロンドン、大英博物館において『バビロン天文日誌』未発表粘土板の調査を行なった。同館には『バビロン天文日誌』の粘土板のほとんどが所蔵されている。日誌は前8世紀半ばから前1世紀半ばにかけて、ティグリス・ユーフラテス両河地方の主要都市バビロンで、アッカド語、楔形文字を用いて継続的に作成された記録文書である。記録内容は天文事象、天体の位置、天候、河川の水位、農畜産物の価格、歴史的事件と多岐にわたる。記録内容の年代が明らかになった日誌は1980年代から1990年代にかけて刊行された。しかし、年代が判明しなかった日誌が、断片を含めて約1000点、未発表のままである。 今年度の調査では未発表粘土板をデジタルカメラで撮影し、各粘土板の大きさを測定し、形状を把握した。状態が悪いなどの理由で調査が認められなかったものを除き、ほぼ撮影、測定、形状把握を終えている。いくつかの断片については他の断片と結合することを確認し、大英博物館側に報告した。現在、博物館側で実際に粘土板を接着する作業が行われている。また、特に保存状態の良い粘土板1点について、写真をトレースしたコピー(模写)、楔形文字をアルファベット化した翻字、そしてテクストの英語訳を作成し、欧文学術誌に論文として投稿した。 平成24年7月にはライデンで行われた第58回国際アッシリア学会で発表し、日誌が3段階の過程を経て編集されたことを明らかにし、各過程で作られる資料をそれぞれ基礎日誌、短期日誌、長期日誌と呼ぶべきことを主張した。先述の投稿論文ではこの発表に基づいて問題の粘土板を基礎日誌に分類している。 また平成25年1月にはイスタンブール考古学博物館を訪問し、日誌の未発表粘土板1点とその関連資料とを調査し、写真撮影、計測、形状把握を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
未発表日誌の粘土板断片を他の断片、あるいは欠損部分がある粘土板と結合させるため、大英博物館では既発表の日誌粘土板も調査している。また、単に「天文文書」と呼ばれている未発表粘土板についても日誌である可能性は排除できない。それゆえ、こういった粘土板もできる限り調査している。このような調査のなかでいくつかの発見をしており、その成果は近日中に刊行される学術雑誌や書籍の中に発表される。 たとえば前133/132年の日誌の中に出てくる供犠の記述は大幅に欠損しており、これまで儀式挙行の目的が明らかになっていなかった。この記述を別の日誌の記述(これもまた断片的に残ったもの)と照合することにより、供犠の目的を、当時バビロンを支配していたアルシャク朝(パルティア)の王族であり、摂政を務めたバガヤシャの息災祈願と結論づけた。この成果については欧文学術誌に論文を投稿し、既に掲載が認められている。また、未発表の天文文書の中には、練習用粘土板とみられる円形のものが少なくとも1点ある。この粘土板については近日中に刊行予定の書籍への寄稿の中で、写真と内容の解説を発表する。 このように既発表の日誌の新解釈や、未発表天文文書の解読といった成果が挙がっている点で、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年8月までロンドンに滞在し、大英博物館における調査を行う。その中では、平成24年度に借り出せなかった日誌粘土板をできる限り閲覧し、撮影、計測、形状把握を行う。 また、これと並行して未発表日誌の解読を進めていく。この作業は9月以降も継続する。基本的に所蔵番号の若いものから順に、現物を閲覧しながら、あるいは既に撮影した写真を参照して、楔形文字をアルファベット化した翻字を作成する。所蔵番号が若い粘土板については、写真の精度が低いものがある。これは初期に写真撮影を行なったため、後の写真における照明の当て方や機材の改善が反映されていないためである。このような粘土板については、現物を閲覧できる8月までに解読を行い、場合によっては写真を撮り直して、9月以降の研究にも支障がないようにする。また、9月以降はもっぱら写真を参照しながら翻字の作成を進める。この作業によって未発表日誌の記述内容をできる限り明らかにする。 翻字の作成が一段落したところで、明らかになった記述内容を手がかりとして、各粘土板(断片)と既発表、未発表の他の粘土板(断片)との結合の有無を調べる。また特に重要な内容を含む粘土板、あるいは記述内容の年代が確定できる粘土板について、コピーと英訳を作成し、欧文学術雑誌等に解読結果を発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年7月には、楔形文字研究(アッシリア学)についての情報交換のため、ベルギーのゲントで行われる第59回国際アッシリア学会に出席する。この費用を15万円程度と見込んでいる。 この他、本研究に密接に関わる研究書や学術雑誌を購入するため、25万円程度の使用を見込んでいる。
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