2012 Fiscal Year Research-status Report
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24700255
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
中村 哲之 千葉大学, 先進科学センター, 特任助教 (10623465)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 比較認知 / ハト / ヒト / 運動情報処理 / 知覚的体制化 / 拡大運動・縮小運動の知覚 / 視覚探索 |
Research Abstract |
動物は生存していく上で,環境内の重要な標的(捕食者,獲物,同種他個体など)がもつ運動情報に対して,迅速かつ正確に注意を向けることが必要である。本研究では,運動情報の知覚的体制化が環境認識にどのように影響するのか,その生態学的な意義について検討するために,「運動による事物の認識」「観察者に対する事物の接近・離反の認識」の2つの観点から,視覚探索課題を用いた比較実験を,生態的に大きな違いのある鳥類(ハト)とヒトに対して行うことを目的とした。 本年度は,「観察者に対する事物の接近・離反の認識」を検討するために,拡大・縮小運動と奥行き運動の知覚に関する研究を行った。我々の先行研究から,回転方向の違いにより拡大または縮小運動が生じる対数螺旋刺激に対し,縮小する刺激のなかから拡大する刺激を探すほうがその逆を行うよりも容易であるという探索非対称性が,ハトでも生じることが示唆されているが,これは群間比較による実験結果であり,個体差の可能性を排除することができなかった。本実験では,それまでの標的刺激と妨害刺激を逆転するテストにより,個体内での比較を行った。その結果,個体内においても,縮小探索に比べて拡大探索のほうが標的に反応するまでの時間が有意に短くなることが示された。 さらに,ヒトに対してハトと同じ実験手続きでテストしたところ,ハトと同様の結果が得られることを確認した。 3次元空間において観察者に接近する物体は網膜像上では拡大運動するため,こうした拡大運動への高い感受性は,ヒトの視知覚における接近する物体への適応的なメカニズムに由来すると考えられてきた。本実験結果は,ヒトと同様に優れた視覚を有し,運動情報の高速処理が求められる鳥類においても,ヒトと類似したメカニズムが発達してきたこと,すなわち収斂進化の可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では,運動情報の知覚的体制化が環境認識にどのように影響するのか,その生態学的な意義について検討するために,「運動による事物の認識」「観察者に対する事物の接近・離反の認識」の2つの観点から,視覚探索課題を用いた比較実験を,生態的に大きな違いのある鳥類(ハト)とヒトに対して行うことが目的であったが,そのうちの一つである,「観察者に対する事物の接近・離反の認識」について,きちんとした検討をすることができた。ハトにおける視覚探索課題を用いた運動情報処理の検討に関する実験は,重要性が高いにもかかわらず,これまで国内外でもほとんどおこなわれてこなかったが,本実験では,厳密に統制された計画に基づいて実施された結果,個体差の少ない非常にきれいなデータを得ることができた。それは我々の先行研究から得られた知見を強力に支持するものであり,ハトとヒトで類似したメカニズムが発達してきたこと,すなわち収斂進化の可能性を示唆するものであった。 また,本年度は3本の学術論文(英語)を発表し,2件の学会発表をおこなった。さらに,英文学術著書のチャプターを1冊,日本語の著書(単著)を1冊(2013年4月発行予定)を発表した。 以上に記したように,本研究の目的は確実に達成されており,かつ今年度の業績も極めて順調であると考えられたため,上に示したような自己点検評価をつけた。
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Strategy for Future Research Activity |
運動情報の知覚的体制化が環境認識にどのように影響するのか,その生態学的な意義について検討するために,「運動による事物の認識」「観察者に対する事物の接近・離反の認識」の2つの観点から,視覚探索課題を用いた比較実験を,生態的に大きな違いのある鳥類(ハト)とヒトに対して行うことが本研究の目的であるが,本年度検討した「観察者に対する事物の接近・離反の認識」について,より詳細な検討を行うと同時に,「運動による事物の認識」を検討する実験も行う予定である。 さらに,研究のとりまとめとして,運動情報の知覚的体制化が環境認識にどのように影響するのか,その生態学的意義について検討する。静止刺激を用いた知覚的体制化の先行研究との関連を考察することで,運動情報処理と体制化を切り分けた検討をおこなう。至近要因の解明に努めてきたヒトを対象にした先行研究に対して,視知覚系の進化の過程という点からの意義づけを目指す。哺乳類・霊長類の脳研究との比較を視野に入れた,鳥類における知覚機能に関連した神経解剖学的研究における成果(Nguyen et al., 2004 など)と照らし合わせ,脳機能メカニズムとの関連についても考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度分の研究費は全て使用したため,平成25年度への繰越はありません。
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