2012 Fiscal Year Research-status Report
広汎性発達障害児童における認知制御機能の実験調査研究
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24700256
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
坪見 博之 富山大学, 人文学部, 准教授 (70447986)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ワーキングメモリ / 認知制御 / アスペルガー症候群 |
Research Abstract |
広汎性発達障害の一症候群に、アスペルガー症候群がある。児童は知的には障害がないにもかかわらず社会場面で特異性が見られるため、これまでの症例研究や調査研究においては、心の社会的機能に原因があると考えられてきた。しかし、一見社会的な機能に見えても基礎的な認知機能が深く関わっていると考えられる。その背景の下、本研究では、アスペルガー症候群が、一時的に情報を記憶し操作するワーキングメモリ機能に特異的に障害を受けている可能性を実験調査的に検討することを目的とする。 本年度は、ワーキングメモリにおける認知制御を定量化することを目的として、アスペルガー症候群児童10名を対象に検討した。その結果、単純な保持だけを見ると、定型発達児よりもワーキングメモリ容量が高い傾向があった。しかしながら、記憶中に妨害刺激が提示されると定型発達児よりもむしろワーキングメモリ容量が低くなる傾向が見られため、アスペルガー症候群児童が認知制御に特異的に障害を受けている可能性が示唆された。この結果は、アスペルガー症候群児童の認知的な困難さの原因を特定できた点において意義が大きいと考えている。 これらの結果と、これまでに検討してきた定型発達児における認知制御機能の発達を合わせて、日本教育心理学会で口頭発表し、イタリアで開催されたEuropean Conference on Visual Perceptionでもポスター発表を行い、同領域の研究者と意見交換した。今後は対象児童を増やして検討を続けることで、統計的にも信頼のある結論を導きたい。また、本研究課題で焦点を当てている認知制御について、神経注意学という書籍の一章を分担執筆し、児童への調査実験に先立って行った成人の認知制御機能を定量評価する研究成果をVision Science Societyでポスター発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度途中で、准教授のポストを得て東京大学から富山大学へと転出したが、上記の実績欄で述べたように、アスペルガー症候群の認知機能を評価する調査研究は概ね順調に進んでいる。予定通りに、認知制御機能を評価する調査実験を10名に実施し、予備実験の傾向を強化する結果を得た。また、この結果について、イタリアで行われた国際学会と、沖縄で行われた国内学会で発表し、同領域の研究者と意見交換も行った。これらの研究者からの評価は概ね良好であったことから、今後もこれまでの共同研究体制を維持し、可能な限り多くの児童に対して検討を続けることで、科学的に信頼性のある結論を導きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
アスペルガー症候群児童における認知制御について実験調査的に検討する計画は、概ね順調に進展しているため、今後も調査対象被験児を増やして研究を続けたい。対象児童は東京都に多く、また研究協力者も東京に居るが、去年度の途中で富山大学に転出したため、今後は出張を重ね研究協力者との連携も強くすることでスムーズなデータ取得を目指したいと考えている。申請時における25年度の計画は、24年度に行った実験について同領域の研究者とディスカッションをした結果を反映させ、必要に応じて実験を修正し調査検討を続けることであった。実際にディスカッションをおこなった結果では、特に修正を行う必要がないと考えられたので、データを重ねることで、科学的に妥当性のある結論が得られると想定される。データ取得を継続し、また結果が確定次第、論文執筆も始め、年度内に国際誌へ投稿することを目指したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度(25年度)へは約10万円の繰り越しとなった。本研究が対象とするアスペルガー症候群児童は、東京都内で実験調査を行う予定であるが、24年度途中に東京大学から富山大学へと転出したため、実験調査の継続のためには出張が必要となる。そのため、主に旅費(700千円)に組み入れることで、研究の進行が遅れないよう措置をとりたい。その他の、物品費(300千円)・人件費・謝金(100千円)・その他(100千円)の使用計画については当初の予定通りである。
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