2012 Fiscal Year Research-status Report
利他・協力行動の進化にかんする、野外観察と実験によるボノボ・チンパンジー比較研究
Project/Area Number |
24700259
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 真也 京都大学, 霊長類研究所, 助教 (40585767)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 比較認知科学 / チンパンジー / ボノボ / 協力 / 互恵性 / 利他性 / 実験心理学 / フィールドワーク |
Research Abstract |
コンゴ民主共和国ワンバ村での野生ボノボの観察と、京都大学熊本サンクチュアリの飼育チンパンジーを対象とした実験・観察研究をおこなった。 野生ボノボの調査では、食物分配・集団協力行動をはじめとする社会行動に注目してデータを収集した。食物分配にかんして計約200事例を分析した結果、ボノボは果実を平和的に分配するが、分配-被分配者の間には互恵的な関係がみられないことが示唆された。食物分配が生起するメカニズムとしては、これまでに「互恵的分配」と「圧力下での分配」という2つの説明が主になされてきた。しかし、これらの説明は狩猟採集民やチンパンジーの肉分配を基にしている。ボノボの果実分配では別のメカニズムが働いている可能性が考えられる。また、ふんだんに実り個々人が容易に手に入れることのできる果実を分配する、異集団の個体とも果実を分配するといった、チンパンジーでは報告のない分配行動も観察された。これらの成果を国際霊長類学会(ボノボのシンポジウムをDuke大のBrian Hare博士と共同企画)で発表し、現在論文を執筆している。 飼育チンパンジーを対象とした研究では、京都大学熊本サンクチュアリにて計61個体のチンパンジーを対象に実験・観察をおこなった。ジュース飲み場面における道具使用テクニックを調べたところ、個体間で道具加工の程度が違うといった個体差を見出した。この個体差は、個体ごとに異なる得意分野・不得意分野を生みだすきっかけとなり、ひいては個体間に交換・互恵といった協力行動を生み出す基盤となることが考えられる。ヒトに特徴的な行動として注目される道具使用と協力行動、この二つを結びつけるという斬新な視点から新たな人類進化についての知見が得られると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
協力・利他行動のカギとなる食物分配について、質・量ともに十分なデータを収集することに成功した。食物分配は果実が生る季節の影響も大きく、場合によっては、1か月観察しても数例しか見られないこともあり得る。実際、個体間の関係がわかっているボノボ集団を対象に100事例以上の食物分配を分析した先行研究はほとんどない。事前に十分な予備調査をおこなうことにより、2年かけて集める予定だったデータ量を最初の1年でほぼ集めることができた。これまでに集めた定量的なデータを基に、現在3本の英語論文を査読付き学術雑誌に投稿すべく準備中であり、さらに自身が共同編集者を務める英文学術書籍にも総説を寄稿する予定で進めている。国際学会での発表も多数の聴衆を集め、高い評価を得た。 飼育個体を対象とした研究でも、計画以上の成果を上げることができた。今年度から移った新しい研究環境のため、実験のセットアップ・個体の馴致に最初の1年はかかることを予想していたが、これまでの経験を活かすことで、すでに論文1本分に相当する実験データを収集することに成功した。また、これまで取り組んできた「協力・利他行動」と「道具使用場面における社会交渉」のふたつを結びつけるトピックを見つけることにも成功し、新たな研究の展開が開けている。「道具使用技法の社会学習」についての論文をPLoS ONE誌に掲載することもでき、新聞・テレビをはじめとするメディアにも大きく取り上げられた。 これらの成果は、当初の計画以上のものであるが、ここで完結するものではなく、新たな研究を切り拓くための第一ステップである。初年度の実績を基に、研究のアイデアがよりふくらみを増し、今後の研究への道筋が明確になってきている。その意味でも、本研究課題の初年度としては、十分な成果が上げられたと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
2個体間での協力・利他行動にかんしては計画以上にデータ収集・分析・発表をおこなえている。今後は、まだ世界的に研究の進んでいない集団協力行動に焦点をあてた研究により力を注ぐ。初年度と同様、アフリカの野生個体を対象としたフィールドワークと飼育個体を対象とした実験研究の両方をチンパンジー・ボノボでおこない、協力行動の進化について多角的に検討する。 具体的な研究案としては、まず、野生チンパンジー・ボノボが危険な道を渡るときにみせる集団での協力行動の分析があげられる。集団協力行動はこれまでヒトに特有の協力行動であると考えられてきた。本研究では、新たに開発した分析法を用いてチンパンジーとボノボの集団協力行動を調べ、その進化的起源を探る。これまでの予備調査から、道渡り時の集団協力行動はボノボにくらべチンパンジーでよりみられることが予測された。この予測が正しければ、集団間関係が平和的なボノボよりも敵対的なチンパンジーで集団内協力が強いということになり、戦争と協力行動が共進化するという仮説を支持する結果が実証研究より得られることになる。本研究では20事例以上をチンパンジー・ボノボそれぞれで収集し、定量的ばデータ分析にかける計画である。 また、飼育個体を対象とした研究では、「個体」ではなく「集団」を対象とした協力行動実験を実施する。これまでにおこなった研究から、実験下の固定された2個体間では互恵的協力行動の成立が難しいことがチンパンジーで示唆された。集団を対象とした実験をおこなうメリットは、協力する相手をチンパンジー自身が選ぶことができ、関係に流動性を持たせることができる点にある。協力行動における「集団」の役割・重要性について新たな知見が得られるだろう。 これら集団を対象とした研究を世界に先駆けておこなうことで、個体に還元できない「社会の中で発揮される認知能力」を探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(21 results)