2013 Fiscal Year Research-status Report
利他・協力行動の進化にかんする、野外観察と実験によるボノボ・チンパンジー比較研究
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24700259
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
山本 真也 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (40585767)
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Keywords | 利他行動 / 協力行動 / 食物分配 / 集団協力 / 道具使用 / ボノボ / チンパンジー / 比較認知科学 |
Research Abstract |
コンゴ民主共和国ワンバ村での野生ボノボの観察と、京都大学熊本サンクチュアリの飼育チンパンジー・ボノボを対象とした実験・観察研究をおこなった。 野生ボノボの調査では、集団協力行動をはじめとする社会行動に注目してデータを収集した。集団協力行動は、これまでヒトに特有の協力行動であると考えられてきたが、近年チンパンジーでも道渡り時に集団で協力することが示唆されている。25年度はボノボの道渡り行動のデータ収集に注力し、チンパンジーとの比較を試みた。ボノボの道渡りを観察するのは非常に困難であるが、すでに15例以上を詳細に記録することができている。これまでの分析から、①道渡り時の集団協力行動はボノボにくらべチンパンジーでよりみられる、②チンパンジーはオスが他個体を守るのに対し、ボノボではメスがその役割を果たすことが示唆された。集団間関係が平和的なボノボよりも敵対的なチンパンジーで集団内協力が強いということであれば、戦争と協力行動が共進化するという仮説を支持する結果が実証研究より得られることになる。来年度も引き続きデータ数の増加に努め、さらに精度の高い定量的分析をおこなう予定である。 飼育チンパンジーを対象とした研究では、京都大学熊本サンクチュアリにて計61個体のチンパンジーを対象に実験・観察をおこなった。ジュース飲み場面において道具使用テクニックを調べたところ、個体間で道具加工の程度が違うといった個体差を見出している。さらには、この道具加工の巧い個体ほど、ひとつの道具を持ち運びながら長く使うことが分析から明らかとなった。この個体差は、個体ごとに異なる得意分野・不得意分野を生みだすきっかけとなり、ひいては個体間に交換・互恵といった協力行動を生み出す基盤となる。ヒトに特徴的な行動として注目される道具使用と協力行動、この二つを融合させた斬新な視点から新たな人類進化論を展開できると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでほとんど研究されてこなかった集団協力行動について、道渡りという行動に注目することによって、野生チンパンジー・ボノボの双方から定量的なデータを収集することに成功している。とくにボノボにかんしては、月に数回おこるかどうかという非常に低頻度かつ記録が難しい行動であるが、試行錯誤の末にビデオカメラで記録する方法を確立した。論文としてまとめるにはもう少しデータを増やす必要があるが、26年度の調査で十分に収集できるめどがついている。 また食物分配にかんしてもデータを増やした。独立個体間の分配だけでこれまでに計150例以上収集することができ、未だかつてない定量的な分析が可能となっている。また、ふんだんに実り個々人が容易に手に入れることのできる果実を分配する、異集団の個体とも果実を分配するといった、チンパンジーでは報告のない分配行動も観察された。このような定量的分析を基に、チンパンジーの肉分配とは異なる分配メカニズムが明らかになってきている。これらの成果を現在3本の英語原著論文としてまとめている。さらに自身が共同編集者を務める英文学術書籍にも総説を寄稿する予定で進めている。 飼育個体を対象とした研究でも、計画以上の成果を上げることができた。年度途中で大学を移ることになったが、それまでの研究を滞りなく継続することができている。すでに論文2本分に相当する実験データを収集することに成功した。また、これまで取り組んできた「協力・利他行動」と「道具使用場面における社会交渉」のふたつを結びつけるトピックを見つけることにも成功し、新たな研究の展開が開けている。質・量ともに当初の計画を上回るペースで進展しており、最終年度のまとめに向けた道筋を明確にすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きアフリカの野生個体を対象としたフィールドワークと飼育個体を対象とした実験研究の両方をおこない、協力行動の進化について多角的に検討する。野生チンパンジー・ボノボの観察については、まだ世界的に研究の進んでいない集団協力行動に焦点をあてたデータ収集に注力する。飼育個体を対象とした研究では、新たに導入された飼育ボノボでの実験研究に特に力を注ぎたい。ここでも、「集団」を対象とした協力行動実験を実施する。これまでにおこなった研究から、実験下の固定された2個体間では互恵的協力行動の成立が難しいことがチンパンジーで示唆された。集団を対象とした実験をおこなうメリットは、協力する相手をチンパンジー自身が選ぶことができ、関係に流動性を持たせることができる点にある。協力行動における「集団」の役割・重要性について新たな知見が得られるだろう。これら集団を対象とした研究を世界に先駆けておこなうことで、個体に還元できない「社会の中で発揮される認知能力」を探る。さらには、これらをチンパンジーとボノボで比較することによって、協力が進化してきた道筋をより広い視点から明らかにすることができると期待できる。 野外観察研究と比較認知実験研究を相互に密に連携させることで重層的な理解を深め、社会心理学・行動生態学・比較認知科学などを融合させることでヒトの本質を包括的に理解したい。これは研究成果をまとめる際の方略としても意識している。具体的には、「ボノボ」をテーマとし、さまざまな研究手法・分野の知見を結集させた本を出版する。オックスフォード大学出版会からの出版が決まっており、共同編集者かつ執筆者として中心的な役割を担っている。ボノボとチンパンジー、フィールドと実験室という世界で唯一の極めてユニークな2×2研究を自身で推進するとともに、世界を巻き込んだ新たな研究分野の確立に努めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度途中(10月)に京都大学から神戸大学に異動した。そのため、当初予定していた海外調査を短縮・延期する必要が生じ、そのための旅費分を次年度に使用することにした。 26年度にも海外調査を計画している。また、飼育チンパンジー・ボノボを対象とした実験研究をおこなっている京都大学熊本サンクチュアリまでの旅費が必要になってくるため、そのための財源にも充てたい。
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Research Products
(12 results)