2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒトを含む霊長類における同調行動と自己・他者表象に関する研究
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24700260
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
服部 裕子 京都大学, 霊長類研究所, 研究員 (60621670)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 同調行動 / 社会性 / 霊長類 / 進化 / 比較認知科学 |
Research Abstract |
本年度は、個体間に起こる同調の性質を明らかにするため、様々な物理的・社会的刺激のリズムが、個体の反復運動のリズムにどのような影響を与えるのかについて実験的に検討した。具体的には、一定期間電子キーボードへのタッピングを行う間に、光や音、他者のタッピング行動を提示し、個体のタッピンングのリズムが外部の刺激に対してどのように引き込まれるのかについて調べた。その結果、ヒトと同様にチンパンジーも外部の音のリズムに同調したタッピングが見られることが確認された。視聴覚刺激だけでなく、聴覚刺激のみでもリズムを認識してそれに合わせて体の動きを調整することは、これまでヒト以外の動物では、複雑な音声コミュニケーションを行う動物でのみ確認されてきたが、本研究の結果から、こうした音のリズムに対する同調傾向は、音声コミュニケーションの能力の有無にかかわらず、少なくともチンパンジーにも共通してみられる傾向だということが明らかになった。自発的なタッピングの速度に近い外部刺激により同調していたことから、外部刺激への同調傾向は、各個体の自発的な運動速度と外部のリズムの速さが近いほど、起きやすくなるということも示唆された。また、視覚刺激のリズムに関しては、フラッシュの点滅といった、動きを喚起させないリズムに対しては、ヒトもチンパンジーもあまり影響をうけないことがわかった。これらの結果は、次年度予定している社会性と個体間の同調の関係性や、身体同調の進化的基盤を探る上で重要な手掛かりになると考えられる。また、実際の個体間コミュニケーションで観察される同調現象を調べる上でも、重要な示唆を与えることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ヒトを含めた霊長類における同調行動と社会的親和性の関係を明らかにするためにかかげた4つの目的のうち、2つについて大きな進展があった。まず、外部のリズムに対して起こる同調行動(研究目的の①)については、「研究実績の概要」でも記したとおり、チンパンジーとヒトのタッピング時における外部リズムの影響を明らかにした。複雑な音声コミュニケーションを行わないチンパンジーも音のリズムを認識し、自己の体の動きをリズムに合わせることを初めて示し、国内学会および国際学術誌への発表も行った。ヒト以外の霊長類では、タッピングといった反復運動が外部環境にどような影響を受けるのかほとんど明らかにされておらず、また、霊長類の同調傾向を探る上でも重要な知見であると思われる。さらに本年度は、自他表象と同調の関係性を明らかにした(研究目的の②)点でも、大きな示唆が得られた。具体的には、電子キーボードをタッピングしている間に、タッピングのフィードバック音に近い音階と遠い音階を、妨害刺激として提示したところ、自己のフィードバック音に近い刺激の方が大きな影響が見られた。また、視覚刺激についても、光のフラッシュといった動きを喚起させない刺激よりも、メトロノームの針などのように動きを喚起させる刺激の方が大きな効果が見られた。これらの結果から、同調行動は、反復運動を行っている自己表象に近い刺激ほど大きな影響を与えることが示唆された。また今後、さらに自己・他者表象と親和的関係形成の関係を明らかにする上でも大きな手がかりになることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、ヒトを含めた霊長類の同調行動について、その基盤となる様々な外部刺激への傾向を明らかにすることができた。これらの結果に基づき、今後は研究対象を、社会的なコミュニケーション場面に移行し、どのような関係性で同調が起こりやすいのか、また実験的に提示した同調現象によって親和性がどのように変容するのかについて、明らかにする予定である。また、ヒトおよびヒト以外の霊長類を比較することにより、ヒトのもつ同調を基盤にした親和的関係形成の進化的基盤についても考察する。 今後は、実験に使用する刺激も、音や光といった物理的刺激だけでなく、実験者や同種他個体といった社会的刺激を使用し、また実験場面についても実験室内だけでなく、チンパンジーやヒト以外の霊長類の日常的な社会交渉場面での観察も予定している。そのため、分析方法もこれまで用いてきたものを超えた新しい手法が必要とされる。そのため、霊長類の認知研究の分野を超えた広い範囲での資料収集や技術構築も行う予定である。本年度に行った研究成果を学術誌に発表したことにより、海外の様々な分野の研究者から反響を得ることができた。今後は、学会やシンポジウムでそうした研究者と知識交換や資料収集種を行うことにより、ヒトを含めた霊長類の同調を基盤とした親和性研究のための、研究基盤を構築する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(5 results)