2012 Fiscal Year Research-status Report
時空間統計・量子統計における高次元モデルのベイズ予測理論
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24700273
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 冬彦 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (90456161)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 数理工学 / 統計数学 / 情報工学 / 量子コンピュータ / 応用数学 |
Research Abstract |
本年は、当初の予定に比べて量子統計モデルの研究にかなり重点を置くこととなった。そのため、時系列モデルの研究は、現在、情報収集といった段階にとどまっている。当初予定していた人件費もおさえることになった。 ベイズ推定量は許容的な推定量になるという一般論が知られている。一方でパラメータ空間が非コンパクトな場合には、群共変的な推定量であっても非許容的になる。これらの議論は無情報事前分布の選び方を考える上でも重要であり、この点について、平易な量子統計モデルを用いて学生に数値計算で詳しく調べてもらった。ベイズの意味で最適な測定方法の構成と関連付けて、さらに深く調べる必要がある。 また、有限次元ヒルベルト空間の量子統計モデルで測定値が有限の場合に、KomakiによるLatent Information priorが拡張されることを示した。このような事前分布を用いれば、必ず、量子ベイズ予測密度作用素はミニマックス推定量になる。上の仮定は量子トモグラフィでは典型的な状況であるため、実験応用上の有効性が大きく期待される。 上記の結果は本質的に正則条件を利用している。一方で、量子統計モデルでは非正則なモデルも自然に現れる。本研究では純粋状態とよばれるクラスについて量子統計モデルを考える際に、ある種のゲーム論的な考察から無情報事前分布を定義できることを示した。MDP 事前分布とここでは呼ぶ。無限次元ヒルベルト空間上の一般のパラメータ族(離散でもよい)に対して、コンパクトな場合にはMDP事前分布が存在し、ミニマックス定理が成立することが示された。 このような例としては、例えば未知パラメータをもつ波動関数が挙げられるが、直観的にわかりづらい。そこで、本研究では、2次元ヒルベルト空間の場合に球面上の施設配置問題と等価になることを示し、ORの観点から理解できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画とは順番が違って、時系列モデルに関しては、情報収集とこれまでの結果の発表が主である。しかしながら、量子統計モデルに関しては、物理サイドの研究者を交えた研究集会や交流の機会がかなり多かった。これらに関しては、私自身の科研費以外からのサポートも複数あり、それぞれ極めて有効に使われた。 本来は、H25・H27年度に計画していた物理研究者との議論や波動関数の推定の問題などは、ベースとなる論文を改訂して掲載できただけでなく、H24年10月末に開催のRIMS研究集会では講究録という形でこれまで得られた知見をまとめることもできた。したがって、H24年度の時系列モデルに関する計画部分の代わりに、H25, H27年度の研究計画の一部を先に実施できたことになる。 ただし、議論と新たな研究成果の素地を築いたという段階のため、実際には原稿執筆や各集会での発表で、かなり多くの作業量をこなしたものの「順調に進展している」という、やや控えめな見積りにした。特に研究発表では、統計の専門家以外に物理系の研究者を対象とするもの統計以外の数学系の研究者を対象とするものなどがあり通常の研究者に比べて発表準備の負担が大きいことも付記しておく。
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Strategy for Future Research Activity |
時系列モデルに関してはH24年度の計画をそのまま進める。量子統計モデルに関しては、本年度は重点的に取り組む形となり、H25,H27年度の内容の一部が実施された。したがって、H25年度の残っている部分やH26年度の課題に取り組む。 また、次年度以降もRIMS研究集会で物理サイドとの議論の場を設ける予定である。これらの取り組みは継続的に行うことが重要であり次年度後半にはまた申請も行う。(開催年ごとにフォーカスするテーマも変えているため、必ずしも数理研での開催にこだわらない。) さらに、当初の予定とは少し違う方向でいろいろな成果も出始めている。研究目的には沿っているため、これらの内容も深く掘り下げる。例えば上で述べたように、本年の研究成果として、量子純粋状態モデル上の無情報事前分布の問題をORの問題やゲーム理論的な話題と関連付けることができた。これらは当初の研究計画では想定していなかったことである。 この点に関してはやや柔軟に対応する。すなわち、必要に応じて、ORやゲーム理論に詳しい研究者と交流したり、あるいは、これまでとは違うタイプの研究集会で情報収集を行う必要もあるだろう。現状、予算が極めて限定的であるため、場合によっては、別の形で独立した研究課題として他の研究資金に申請することも検討したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年は、当初の予定に比べて量子統計モデルの研究にかなり重点を置くこととなった。そのため、時系列モデルの研究に関しては当初予定していた人件費もおさえることになった。現状は情報収集といった段階にとどまっている。 また、研究者との議論や研究集会発表、情報収集のための旅費は、本年は、別のリソースをかなり利用することができた。こういった事情から未使用分は25年度に繰り越している。 本年度着手できなかったものとして、ホームページの作成と、そこでのバイト募集が挙げられる。ただし、バイトといっても優れた人材が見つかる保証はないため、必要に応じて育てる。その進捗状況によっては補助的作業を伴う研究は予定が変わる可能性も残る。 また、研究集会での発表と情報収集に関しては、本年度に様々なリソースを利用することができたためやはり前倒しで進めてきた。次年度の前半は発表をおさえて、じっくりと研究テーマに取り組む。その分、後半に研究集会等に赴く予定である。 研究成果の発表という点では、既に投稿中の論文や、投稿準備中の論文もあるため、研究成果としての論文掲載に向けて鋭意、努力する。統計の理論全般において、概念的な説明や機微を伝えるのはなかなか難しく、必要に応じて英文校正なども利用する。
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Research Products
(9 results)