2012 Fiscal Year Research-status Report
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24700302
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
塚田 祐基 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80580000)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 探索行動 |
Research Abstract |
本研究では、探索行動を実現させている情報処理の仕組みを調べるために、神経回路の接続地図が完全に明らかになっている線虫C. elegansをモデルとし、温度に依存した探索行動(温度走性)についての定量的な実験データを数理的な行動戦略モデルと比較することで解明を目指している。本年度は、これまでに開発したトラッキング装置とカルシウムイメージング装置を使い、温度走性中の温度勾配、温度受容神経細胞AFDの活動、そして線虫の行動軌跡を同時に記録することで、AFD神経細胞が温度入力を受けた時系列と、そのときの実際のAFDの活動、そして行動出力について定量的に評価することを行った。えさ条件、飼育温度条件を変えて実験を行った結果、AFDの温度に対する応答は飼育温度によって変化するが、えさ条件を変えても変化しないことが示された。さらに行動を解析すると、AFDの活動と方向転換の頻度の関係は、えさ条件を変えると変化することが示された。このとき、AFDの活動と行動出力である方向転換は一対一の関係ではなく、AFDの活動により方向転換の頻度が変化することが示された。これらのことから、温度受容神経細胞AFD自体は飼育温度依存的に応答特性が変化するが、AFDの活動と行動の関係はえさ条件により変化することが示唆された。また、AFD神経細胞のシグナルはそのまま行動へと反映されるわけではなく、方向転換頻度の制御という形へ情報が変換されることが示唆された。さらに、AFDの動的な応答特性を評価するために、温度入力に対する神経活動を応答関数として推定した。データの直感的な理解を反映し、飼育温度依存的な応答関数の変化を得る事ができ、応答の変化を定量的に解析することを可能にした。この解析方法により理解しにくい神経細胞の応答変化を客観的に評価することができるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的達成のため、まず感覚入力(温度)、神経活動、行動についての定量的なデータ取得を行い、その後に数理モデルを構築し、解析を進めるという計画を設定した。24年度中は温度勾配上を自由に動く線虫に対して、温度入力とAFD神経細胞の活動、そして行動を同時に計測することを進め、さらに飼育条件を変えて実験することにより、生体内で起こっている変化がどのようにデータとして取得できるかということを解析した。信頼性のある定量的なデータを得ることは数理モデルと比較する解析の段階で非常に重要であり、この段階は本研究中でも重要な位置を占める。行動中のデータを取得することは、動く物を対象とするため非常に難しく、プログラムの開発や機器の調整など自動化を進めながらデータ取得方法を開発する必要があるため一つの山場であったが、これまで開発した機器を改良することで効率よくデータの自動取得方法を開発し、同時取得する性質の違ったデータに対して効率よく記録できるシステムを設立することができた。改良を進めることでデータの信頼性も高まり、目標を達成するための基盤を築く事ができた。また、異なる実験条件でデータ取得することで入出力関係の変化が観測できたため、仮説を立てやすい状況となり、検証実験も計画しやすくなった。さらに、25年度への布石として定量的なデータ解析もある程度進めることができたため、計画を概ね達成できたと判断した。これらの結果を踏まえて、25年度は数理モデルの構築と今年度で得られたデータとの比較を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は主に数理モデルの構築とデータ解析を進め、モデルと実験データの定量的な比較を行う。これまでの研究で温度入力に対する温度受容神経細胞の応答特性が同定できたため、個体が温度環境をどのように認識しているかについて数理モデルを構築することができる。また、温度勾配などの環境を探索しているときに、認識された温度情報を基にどのような探索方策をとれば効率が良くなるか、行動についての数理モデルも立てシミュレーションを行うことで評価する。さらに実際の線虫がどの程度効率的な探索を行っているか、実験データと比較することで評価する。その際に行動の諸要素、つまり方向転換の頻度や速度変化などがどのように変化しているか調べることで、感覚入力に対してどのような行動制御が行われているか定量する。行動のモデルについては自由度が高いため、いくつかの仮定を想定する必要があるが、先行研究により示唆されているバイアスドランダムウォークに基づいてモデルを構築し、実際の実験結果と比較しながら修正を進める。実験データからは飼育条件の変化により温度受容神経細胞の応答特性が変化することが分かったので、この変化にのみ依存して探索行動が変化するのか、それとも温度入力と行動の関係性自体が変化するのか詳細を調べる。数理モデルの構築は理論研究者との議論を積極的に行い進め、必要に応じて実験データも引き続き取得することで提案モデルの改良を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
数理モデルの構築に際しては計算機によるシミュレーション実験などを行うため、matlabのライセンス料など計算機に関わる研究費の使用が引き続き計上される。さらに解析に基づいて検証実験を重ねる必要もあるため、トラッキングやカルシウムイメージング実験を初めとした線虫を用いた行動実験も引き続き重ねる予定である。今年度は特に最終年度であるため、研究成果の発表や情報収集のための学会、研究会の参加も必要である。
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