2012 Fiscal Year Research-status Report
全自動実験進化システムによる多剤耐性菌の創出と進化プロセスの解析
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24700305
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
鈴木 真吾 独立行政法人理化学研究所, 多階層生命動態研究チーム, 研究員 (60379154)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 実験進化 / 大腸菌 / 薬剤耐性 / 多剤耐性 / 進化プロセス / 細胞壁合成阻害剤 / タンパク質合成阻害剤 / 核酸合成阻害剤 |
Research Abstract |
生物の特徴である安定かつ柔軟な進化プロセスを実現する新たな進化理論を導き出すことを目指し、本研究では、大きな社会問題となっている多剤耐性菌を対象に、その進化プロセス―どのような環境で、どのような変化を伴って多剤耐性化したのか―を解明することを具体的な目的としている。 薬剤耐性菌の研究を推進していく上で一般的な手法は、臨床現場から得られた耐性菌の表現型・遺伝型を解析していくというものである。しかしながらこのような手法では、耐性化プロセスにおける経時的な変化を追跡することができない。そこで本研究では、臨床現場から得られる薬剤耐性菌にこだわらずに、薬剤耐性能をもたない大腸菌野生株を対象に実験進化的手法を用いることで複数系列の耐性菌を創出するという構成的アプローチを選択した。 大腸菌野生株を多剤耐性大腸菌へと進化させるため、本年度は細胞壁合成阻害剤セフィキシム、タンパク質合成阻害剤アミカシン、クロラムフェニコール、核酸複製阻害剤エノキサシンの作用機序の異なる計4種の薬剤を用いて、ある単独薬剤に対し進化実験を行った後に他の薬剤に入れ替える、2種の薬剤を同時添加または1日周期で変化させるなどの条件下で進化実験を行った。およそ1ヶ月間の実験進化を行ったところ、ほとんどの組み合わせにおいて単独進化させた際の耐性能の向上とほぼ同様の挙動を示したが、アミカシンとクロラムフェニコールの組み合わせにおいては耐性能がほとんど向上しないという結果が得られた。また、クロラムフェニコールとエノキサシンの組み合わせでは、逆にそれぞれを単独で添加した際よりもその耐性能の向上速度が上昇するという現象が観察された。これらの結果は、臨床における他剤併用療法の改善に有用な知見となるとともに、次年度計画のゲノム変異解析および同定された変異の耐性能への寄与の評価により多剤耐性菌への複雑な進化プロセスの解明が可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全自動実験進化システムの不具合により進化実験が途中で停止してしまうという問題が生じたため、本年度中に完了予定であった多剤耐性菌の実験進化的創出が完了していない。しかしながら、いくつかのステップは実験者自身が手動で行わなければならないのだが、自動分注ロボットを用いた簡便かつ高精度な進化実験手法の開発に成功し、現在、およそ1ヶ月程度の多剤耐性化過程の経時データを取得できている。 また、平成24年度に新学術領域研究「ゲノム支援」の支援課題に採択され、最終進化株にて同定された変異がその進化過程において、いつどのような順番で導入されたのか、次世代シーケンサを用いて網羅的に同定する手法の開発を行った。この研究手法を本研究課題にも摘要することにより、予定していた実験期間を大幅に短縮することが可能となる。 これらのことから、現状では多少の遅れが生じているものの本年度中に当初計画を完了することは十分可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き自動分注ロボットを用いた実験進化的手法により大腸菌の多剤耐性化を行う。申請時には最大で6ヶ月程度の実験進化を行う予定であったが、これまでに得られた結果からおよそ3ヶ月の実験進化にて薬剤耐性化がなされることが判明したので、本研究においても3ヶ月を目処に実験進化を継続する。 つづいて得られた多剤耐性大腸菌のゲノム変異解析を次世代シーケンサにより行い、どのような機能を持つ遺伝子群のコード領域に変異の導入がなされたのか、また、非コード領域に導入された変異に関しては、特にプロモーター領域に導入されたものであるのか等についてまとめる。さらに、同定された変異がいつどのような順番で導入されたのか、先述のゲノム支援により開発された網羅的手法を用いて簡便かつ高速に決定する。 上記遺伝型解析にて同定された変異を実験進化させていない元株に同定された順番通りに導入した変異体ライブラリーを作製し、各薬剤の最小増殖阻止濃度を求めることで、それぞれの変異の耐性能への寄与を定量する。その際、対象となる変異を組み込んだ株と1つ前までの変異を組み込んだ株とを比較し、耐性能の向上が見られれば適応的な変異、耐性能に変化が無ければ中立的な変異と判断する。さらに、同定された変異を個別に組み込んだライブラリーの作製およびその耐性能への寄与も定量する。単独変異による耐性能の向上量の合計と順番通りに組み込んだ際の耐性能の向上量を比較し、顕著な差があれば非加算的な変異間の相互作用(エピスタシス)が存在すると判断する。 最終的に、エピスタシスの有無や適応変異の寄与の度合いを薬剤の添加方法の差異や複数の進化系列間において比較することで、個別の耐性の積み重ねだけではない複雑な多剤耐性菌の進化プロセスの記述を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記のように本年度中に完了予定であった多剤耐性菌の実験進化的創出が完了していないため、それにつづく次世代シーケンサを用いた多剤耐性大腸菌のゲノム変異解析および同定された変異の導入順序の解析が出来ていない。そのためこれらの研究費を25年度に繰り越すこととした。以下に25年度の研究費使用計画を述べる。 得られた多剤耐性大腸菌のゲノム変異解析について当初はRoche製GS FLXシステムを想定していたが、得られるデータ量、サンプル調製の簡便性およびコストの安さからIllumina社製Hi-seqへと変更する。最も耐性能が進化した薬剤の組み合わせに関して、4種類の異なる添加方法および各4系列の計16株のゲノム変異解析を行うとして、我々の先行研究の見積もりから1/2スライドが必要となるので、多剤耐性菌のゲノム変異解析を行う次世代シーケンサ代として80万円を計上する。また、同定されるゲノム変異の個数にも依存するが、それらの導入された順番を解析するためのシーケンス費用として、50万円を予定している。 その他消耗品としては、大腸菌培養関連試薬・消耗品、チップ等プラスチック製品、分子生物学試薬が必要である。また、情報収集および成果報告のための学会参加費、学術論文発表のための英文校正費・投稿費を計上する。
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Research Products
(3 results)