2012 Fiscal Year Research-status Report
音のパターンを記憶・想起する聴覚野メカニズム:二光子顕微鏡による解析
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24700320
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
塚野 浩明 新潟大学, 脳研究所, 助教 (90624338)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 大脳聴覚野 / 脳機能イメージング / 二光子イメージング / フラビン蛋白蛍光イメージング / 可塑性 / マウス |
Research Abstract |
本年度は、聴覚野の複雑な研究を行う上で必要となる基礎的な知見を得ることに成功した。フラビン蛋白蛍光イメージングでC57BL/6マウス一次聴覚野(AI)を観察すると、20 kHz以上の音に応ずる高周波領域が腹側・背側の2つの亜領域に分離されることが判った。ある種の生化学的マーカーを用いてこの2つの高周波亜領域と低周波領域を染色すると、腹側領域とAI 5 kHz領域の細胞構築像が同じ像を示し、背側部が全く異なる像を示した。この事は背側部に新たな亜領域が存在することを示している。この亜領域も後腹側から前背側にかけてトノトピー構造があることが二光子イメージングを用いて判った。一方、AIのトノトピーは後背側から前腹側にかけて存在することも判った。マウス聴覚野が再編されることは、正しい聴覚機能を得る基盤を整えることに繋がるものである。 さらに、聴覚野内神経回路を可視化する予備的実験で、内側膝状体(MG)と聴覚野の詳細な投射構造を明らかにした。聴覚野には、主要な領域として前聴覚野(AAF)とAIが存在する。C57BL/6マウスのそれぞれにbiotinylated dextran amine(BDA)を電気的に微量注入した所、AAFに投射する視床核はMG腹側核内の内側部であり、AIに投射する部位はMG腹側核の外側部であり、2つのコンパートメント構造になっていることが判った。AAFとAIは音の高さによって活動する部位が異なるトノトピー構造を有する。MG腹側核内のそれぞれのコンパートメント構造内のトノトピー軸を可視化するため、AAFとAIのトノトピーに沿ってBDAを複数個所注入した所、腹側核内側部では内側から外側に向かって、腹側核外側部では背側から腹側に向かってトノトピーがあることが判った。この事実は、聴覚野亜領域が独立した視床入力を受けていることを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は一次聴覚野(AI)において二光子イメージングを行い、複合音依存的神経回路を研究する予定である。このためには、AIの正しい位置は基礎的かつ極めて重要な知識である。本年度に行った実験により、これまで考えられてきたマウスAIの地図を大幅に見直す必要があることが判った。即ち、これまでAI高周波領域と考えられてきた部位は、AIでない異なる亜領域であることが判った。マウスは多細胞機能イメージングを行う上で必要不可欠な動物であり、今後もマウス聴覚野を用いて多くの神経回路研究がおこなわれるはずである。しかし間違った聴覚野地図の知識の上に実験を行っても、聴覚野機能の正しい知見が得られるはずがない。その意味で、本年度に得られた知見は、今後の聴覚野研究の基礎となるものである。得られた正しい聴覚野地図を用いて、本課題を遂行していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
一次聴覚野(AI)は音の高さごとに応答する領域が並んだ構造を有する。しかし20+25 kHzの和音を聞かせると、5 kHzの音が含まれていないにも関わらず5 kHz領域にも神経活動が及ぶことを、フラビン蛋白蛍光イメージングを用いた以前の研究で発見した。本研究ではAIの個々のニューロンがどのような結合をして、5 kHz領域に活動が及ぶのかを検討する。その為「仮説1:5 kHzニューロンに20、25 kHzニューロンからの投射が収束する」、「仮説2:5 kHz、20 kHz、25 kHzニューロンから複合音に応ずるニューロンに投射が収束する」、「仮説3:抑制性ニューロンの側方抑制が解除される」という3つの作業仮説を挙げた。 まず、「仮説1」が誤りであることを証明する。予備的実験により、「仮説1」の様に20、25 kHzニューロンから5 kHzニューロンに収束している可能性は低いことが示されている。この結果の再現性を確かめ、「仮説1」が誤りであることを確定させる。 次に、「仮説2」に関し、聴覚野ニューロンの自発活動解析から、結合の有無を推定する。どのニューロン同士の相関が高いかは、音刺激に対するON反応の解析だけではわからないため、自発的カルシウムスパイクによる各ニューロンペアの相関解析、順序解析を行う。視覚野では相関が高いニューロン同士は結合が高いことが示唆されている。これをもとにハーモニーニューロンと各周波数ニューロンの結合を推定する。 次に、「仮説3」に関して、抑制性ニューロンネットワークを解析する。二光子イメージングを用いると興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの両方を同時に記録出来る。抑制性ニューロンに特異的にGFPを発現するマウス系統に相関解析を応用し、抑制性ニューロンの結合様式とその役割を解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に計上した、設備備品費は、研究遂行に必要な知識を得るための関連図書・文献を購入するために必要である。 消耗品費に関しては、二光子イメージングを行うために日常的にカルシウム指示薬・ウイルスベクター・蛍光トレーサーなど高価な試薬を購入したり、実験用マウスを購入飼育維持することに必要である。 旅費等に関しては、国内外の関連学会で研究発表をするための旅費が必要である。また、まとめの年でもあるので、論文投稿に必要な経費も含まれている。
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