2012 Fiscal Year Research-status Report
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24700340
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
坂口 昌徳 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 研究員 (60407088)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 記憶 |
Research Abstract |
概要 申請者は、記憶の転送メカニズムを光遺伝学により明らかにすることを目的としている。H24年度からの研究期間中、特に光遺伝学を用いた記憶の操作技術について、成果を上げることができた。例えば、光をマウス脳内に照射し海馬の機能を抑制させることで、実際にマウスの恐怖記憶の想起が抑制できることを示した。また、種々のセミナーでの研究発表、学会への参加(データについては未発表)、論文投稿等、精力的に研究活動を行った。来年度も継続して研究費の援助をいただけることで、本研究はさらに促進できることができると考えられる。 具体的内容等 本研究期間中に申請者は当研究に必須な要素技術の一つを完成させた。具体的には、神経活動を光により抑制可能な分子ArchTを脳内に発現するトランスジェニックマウス(ArchTマウス)を用いることで、恐怖記憶を一時的に消去することに成功した。このために、まずArchTマウスを文脈依存性恐怖条件付け課題(CFC)にて学習を行わせた。恐怖記憶の強さについては、標準的な基準であるマウスのすくみ運動を定量した。具体的には、文脈刺激となる箱にマウスを入れ、電気ショックを与えた。その24時間後にArchTが感受性のある光を、マウスの脳内に照射したまま、電気ショックを与えたのと同一の箱にマウスを戻した。通常、学習後に、電気ショックを与えた箱に戻すと、マウスはすくみ運動を示す。しかし、光を照射すると、このすくみ運動が起こらなかった。さらに24時間後に、同じマウスを光照射せずに同様に箱に戻した。すると、マウスはすくみ行動を示した。このことから、光刺激により恐怖記憶を一時的に消去できる、ということが示せた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の必須要素として、神経結合部(シナプス)を超えて目的分子の発現を制御するシステムが必要となる。当初WGA-CREおよびTTC-CREを用いるシステムを、先行論文(Gradinaru et al., Cell, 2010,v141,p154)の方法とともに、さらに様々な改良を加えて検証したが、先行論文が示した結果を再現できなかった。そこで、別の方法として最近発表された(Beier et al., PNAS, v108,p15414, erratum PNAS, v109,p9219)、VSVという種のウイルスの組み換えウイルスを用いる方法を採用することとした。本方法は、多少システムが複雑であるが、より確実に目的遺伝子を、対象となる神経細胞に一回だけシナプス結合をまたいで輸送できるという大きな利点がある。申請者は、組み換えVSVの作成で世界的に有名な、東京大学の河岡義裕教授に協力を得ることに成功し、本研究において組み換えVSVを利用するための技術移管を行っている。 H24年度に、筑波大学へ移動となり、新しい研究室のセットアップのために時間を要しているが、セットアップが完了次第テスト用のVSVをマウス脳内に摂取することで、上記システムの実行可能性を検証する。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年2月より、筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構に異動し、現在も申請した研究を完遂すべく、研究課題を継続して行っている。 海馬にて、記憶を貯蔵する神経回路を遺伝学的に標識する方法として、最近c-fos-tTAマウスを使う方法が報告された(Liu et al.,Nature,2012,vol484,p381)。この方法では、申請者が当初計画していたc-fos promoterを用いて、活性化した神経をマーキングする、という原理は同じで有り、しかもマウスが市販されている。そこで、申請者は、新しいマウスを作製するという当初の予定を変更し、Liuらが報告した方法で、記憶を貯蔵する海馬の神経細胞を遺伝学的に標識する方法に変更する。 本年度は、前記の通り、VSVベクターを用いた、経シナプス性Cre酵素の発現システムの導入を確立する。既に河岡教授を始め、国内外の研究者よりVSV作製のためのパッケージング細胞やプラスミドを入手している。これらの実験材料を用い、まずはCreを発現するVSVベクターが、実際に経シナプス移行をするかを検証する。その後、ASLV/A/TVA-Rを使ったシステムで実際に、記憶を貯蔵する神経回路をターゲットに感染実験を行う。 本研究は、PTSDなどのヒト疾患に応用することで、社会的に重要な意義を与えることができる。現在、PTSD研究の先駆者である東京農業大学の喜田聡教授、国立精神・神経センター精神保健研究所室長の中島聡美博士に協力を得、本研究の精神科領域への応用可能性を模索中である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度、当初の研究費使用計画から17万円の繰越金が生じた。これは、本研究計画期間中に、理研から筑波大学への異動が有り、この異動が研究計画立案時点では予測できなかったためである。筑波大学への異動後も、必要な大型の設備は移動先に整備されているため、本年度の研究費は、消耗品費:67万円、薬品費:70万円、旅費:50万円とする。
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