2012 Fiscal Year Research-status Report
運動制御を担う大脳新皮質出力回路を遺伝子マーカーで切り分ける
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24700344
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
鶴野 瞬 独立行政法人理化学研究所, 局所神経回路研究チーム, 研究員 (80548991)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 大脳皮質 / 運動制御 / 皮質外投射神経細胞 |
Research Abstract |
3つの研究目的のうち、当該年度に実施予定だった2つについて記載する。 研究目的1:SCPN の遺伝子マーカーと投射先の関係【内容】マウス大脳皮質運動野の第 5B 層の皮質下投射神経細胞(SCPN)が発現する遺伝子マーカーと投射する部位の関係を明らかにするため、逆行性トレーサーの投与と免疫染色法を実施した。すると、SCPNは遺伝子XまたはYを発現したが、その中でも脊髄まで投射する細胞は遺伝子Xの発現が少なく、遺伝子Yの発現が強かった。この結果から、2つの遺伝子発現の差によって、投射先を高い精度で予測することが可能となった。【意義、重要性】運動野第5B層のSCPNにおいて、遺伝子発現プロファイルと投射先が密接に関係していることを明らかにした。 運動指令を脊髄に送る主要な経路には、 大脳から橋と小脳を介するものと、大脳から直接送るものがある。今後、XとYの遺伝子の発現パターンを利用することにより、一方の経路を担う特定の大脳の出力細胞のみに遺伝子を導入できると期待される。これによって、経路によって運ばれる情報がどのように異なるかということを明らかにしたり、運動疾患の治療に応用したりという可能性が考えられる。 研究目的2:SCPNの遺伝子マーカーと入力層の関係【内容】上記遺伝子Yを発現した第5B層の細胞に第2/3層から入る入力をマッピングすることに成功した。また、全層からの入力を同時にマッピングするための実験装置を組み立てている。【意義、重要性】SCPN は第5B層の上部と中・下部の間で異なる皮質内回路から入力を受けることが知られている。遺伝子XとYは各々上部と中・下部で発現が強いので、これらの発現強度の違いによってSCPNは異なる回路から入力を受ける可能性が考えられる。この可能性を検証する上で、上記の結果は重要な第一歩であるが、Xの発現が強いSCPNへの入力もマッピングする必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1. SCPN の遺伝子マーカーと投射先の関係: 95% マウス運動野SCPNにおいて橋と脊髄という主要な投射先と関連の深い遺伝子X, Yを見出した。これらの発現量の差によって高精度で投射先が予測できるため、「SCPN の遺伝子マーカーと投射先の関係を明らかにする」という 当初の目的はほぼ完遂できた。ただし、研究目的3でこれらの遺伝子の発現パターンを利用するので、Yの遺伝子座にCre遺伝子を導入した遺伝子改変マウスを入手することと、Xの遺伝子の発現制御因子(プロモーターやエンハンサー)を同定することが必要である。Yのプロモーターはすでに見出している。 2. SCPNの遺伝子マーカーと入力層の関係: 20% 大脳皮質の急性スライス標本において第2/3層から遺伝子Yを発現する第5B層SCPNへの入力をマッピングできているが、その細胞における遺伝子Xの発現量は定量できていない。そのため、その入力をマッピングした細胞が脊髄まで投射しているのか、明瞭ではない。また、第5B層からの入力はまだマッピングできていない。ただし、これらのマッピング実験を効率よく実施するための実験装置がほぼ完成しており、スピードアップする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、「SCPN の遺伝子マーカーと入力層の関係を明らかにする」という 研究目的2を進める。すでに大脳皮質の第2/3層にチャネルロドプシン(ChR2)を発現させ、そこから遺伝子Yを発現する第5B層細胞への入力をマッピングすることに成功したので、もう一つの主要な入力源である第5B層からの入力も同様の手法でマッピングする。また、遺伝子X陽性細胞への入力もマッピングする。 また、マッピングをスピードアップするため、ケージドグルタミン酸を用いた光刺激も実施する。これは大脳皮質全層からの入力を1回の実験で調べられるため高速であり、同時に入力の強さを層間で比べられるというメリットも持つ。そのための装置を組み立てている。当初の予算では新規の高価なレーザーが必要だと計上したが、現行装置の光路を組み替えることで当初計画より高速に実現できることが判明したので、実現を急いでいる。 また、「特異的な入出力回路を持った SCPN が運動に果たす役割を明らかにする」という研究目的3にも取り組む。当初の予定では、目的1で見出した遺伝子のプロモーターを同定する計画のみ立てていたが、2つの遺伝子発現量の差が重要だとわかったので、 Yの発現が低くXの発現が高いSCPN,すなわち前肢支配部から橋を介して脊髄まで間接的に投射するSCPNの出力を特異的に抑制する系を立ち上げる。そのために、 Yの遺伝子座にCre遺伝子を導入したマウスと、シナプス伝達を阻害するテタヌス毒素を tTA タンパク質依存的 に発現するトランスジェニックマウス(TeTX マウス)を入手し、掛け合わせる。さらにXのプロモーターの下流でCre依存的にtTAの発現が止まるプラスミドを運動野前肢支配部に導入することで目的を達成できる。このマウスの運動能力を測定し、間接経路が運動制御に果たす役割を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究目的2:【要旨】当該年度から繰越分の433,729円を、ケージドグルタミン酸の購入に充てる。【詳細】当該年度備品費で上記の実験装置の部品を購入し、組み立てている。しかし、当該年度中に消耗品として計上していた電気生理学試薬分が繰り越されている。この繰越分を用いてケージドグルタミン酸を購入し、SCPNへの入力を高速にマッピングする実験を実施する。 研究目的3:【要旨】当初の予定の通り、マウス運動能力測定装置に50万円、実験用動物の入手に30万円を充てる。【詳細】まず、上記の「研究の推進方策」にも記載したように、Yの遺伝子座にCre遺伝子を導入した遺伝子改変マウスを入手することを試みる。このマウスは米国GENSATレポジトリより入手可能である。このマウスをTeTXマウスと掛けあわせ、遺伝子Xのプロモーターの下流でCre依存的にtTAの発現が止まるプラスミドを、運動野前肢支配部に導入する。これにより、運動野から間接的に脊髄に投射する経路を薬剤依存的に阻害したマウスを作製できる。このマウスの運動能力を経路阻害の前後で比較し、間接経路が運動制御に果たす役割を明らかにする。そのために運動能力測定装置が必要である。
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