2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24700346
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
牧野 祐一 独立行政法人理化学研究所, 神経回路・行動生理学研究チーム, 基礎科学特別研究員 (30619854)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 神経科学 / 電気生理学 / マウス / 記憶 / 恐怖記憶 / 海馬 / 扁桃体 / 前頭前野 |
Research Abstract |
状況恐怖記憶(contextual fear memory)とは、我々が以前に恐怖の感情を喚起する経験をした環境・状況に置かれたときに再び感じる恐怖感情の記憶である。状況恐怖記憶には多くの脳部位が関わるが、その中でも特に海馬と扁桃体が重要な役割を果たすことが知られている。さらに、状況恐怖記憶の長期的な貯蔵(remote memory)には前頭前野が必要であることもわかっている。しかし、これらの脳部位がそれぞれどのような情報処理をし、また部位間でどのような相互作用が起こって、短期的・長期的な状況恐怖記憶を実現しているかは知られていない。そこで本研究ではマウスを用いて、短期的・長期的な状況恐怖記憶の想起によって引き起こされる海馬、扁桃体そして前頭前野での神経活動及びその相互作用を電気生理学的に記録することにより、状況恐怖記憶の神経メカニズムを解明することを目的とした。 この目的を達成するため、本年度は自由行動下のマウスにおいて海馬・扁桃体・前頭前野の3つの脳部位から同時に神経活動を記録する方法を確立した。具体的には、それぞれの部位に調節可能な複数の電極を同時に埋め込むことにより、神経活動の集合体である局所細胞外電位(LFP)を各領域から記録し、また個々の神経細胞の活動(活動電位)を多数の細胞から同時に記録することを実現した。そして、マウスに恐怖条件付けを行った後さまざまなタイミング(1日~1か月)で、恐怖記憶を想起している最中にこの3領域同時記録を行うことにより、短期的・長期的な状況恐怖記憶を実現する各領域での神経活動および領域間の相互作用を調べることが可能になった。今後、これらの神経活動・相互作用を解析することにより、状況恐怖記憶の神経基盤を明らかにしていく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、状況恐怖記憶における海馬-扁桃体経路の役割を調べることが目的であるため、海馬と扁桃体の活動を自由行動下で同時に記録する実験系が必要不可欠となる。このような実験系を立ち上げることは技術的にとても難しく、これまではさまざまな条件を試して記録を成功させることにほとんどの時間を費やした。その結果、実際に状況恐怖記憶を想起しているときに、海馬と扁桃体のみならず、恐怖記憶の長期的な維持に必要とされる前頭前野を含めた3か所から神経活動を同時記録することが可能となった。これは技術的にも大きなブレークスルーであり、今後の研究がスムーズに進むことを約束するものである。そのため、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果により、状況恐怖記憶の想起により引き起こされる海馬・扁桃体・前頭前野での神経活動を、個々の細胞及び細胞集団という2つのレベルで同時記録することが可能となった。今後はこのシステムを用いて実際に記録を行い、以下の項目について調べる予定である。 (1)記憶想起時に各脳部位で、個々の細胞に特徴的な活動パターンが見られるか。例えば活動電位の発火頻度の増加・減少や、周期的発火があるか。また記憶想起時における個々の細胞の神経活動に、脳部位間で相関が見られるか、すなわち同期的活動はあるか。 (2)記憶想起時に各脳部位で、どのような集団活動(LFP)が見られるか。シータ波やガンマ波などの周期的振動は見られるか。またこのような周期的振動に脳部位間で相関があるか。 (3)上記のような活動パターン・相互相関は、記憶が形成されてからの経過時間により変化があるか。 これらの解析により、状況恐怖記憶をコードする神経活動を明らかにしていく予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は当初予定していた学会発表を行わなかったため、40万円弱の未使用額が生じた。 次年度は主にマウスでの自由行動下電気生理記録を行う予定であるため、まず記録に用いるマウスの購入費(2000円×100体=20万円を予定)・維持費(合計20万円を予定)が必要である。また、記録に用いるマイクロドライブを作成するため、ドライブ本体・インターフェース基盤・電極などの多数の消耗品(10000円×100セット=100万円を予定)が必要となる。さらに、得られた研究結果を発表するために国内・国外の学会にそれぞれ1回ずつ参加する予定である(合計40万円を予定)。したがって、総計すると本年度未使用額と次年度請求額の合計である約180万円が必要となる予定である。
|