2012 Fiscal Year Research-status Report
神経発生における遺伝子発現モードによる神経分化制御機構の解明
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24700354
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
下條 博美 京都大学, ウイルス研究所, 研究員 (40512306)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 遺伝子発現ダイナミクス |
Research Abstract |
私たちのこれまでの研究から哺乳類の神経発生過程において、神経前駆細胞ではNotchシグナルのエフェクターであるHes1の発現が振動し、これによって下流因子であるプロニューラル遺伝子が発現振動すること、ニューロンが分化する過程においてHes1の発現が低下しプロニューラル遺伝子が持続発現することが明らかとされた。すなわち、神経分化を誘導するプロニューラル遺伝子は前駆細胞では発現振動し、分化する細胞においては持続発現するという異なる発現ダイナミクスを示すことが明らかとなり、この発現モードの違いが細胞の運命決定に関与している可能性が示唆された。そこで本研究ではニューロン分化において、プロニューラル遺伝子およびその下流因子の発現動態に着目し、異なる発現動態が細胞の運命決定に果たす役割を明らかにすることを目的としている。 まず培養細胞を用いてプロニューラル遺伝子Neurogenin2(Ngn2)の下流遺伝子の、Ngn2に対する反応性を調べたところ、下流因子群はNgn2に対して異なる反応性を示すことが分かった。次に、マウス終脳の神経前駆細胞において、プロニューラル遺伝子およびその下流因子群の発現をsingle cell levelにおいて可視化し定量を行うと下流因子群の発現は転写レベルで、様々な発現ダイナミクスを示すことが明らかとなった。また、それぞれの下流因子は異なるタンパク安定性を示し、タンパクの発現ダイナミクスも多様性を示すことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までに、以下の項目について検討を行った。 まず培養細胞を用いてNgn2の下流因子のNgn2に対する反応性の違いを検討すると、Ngn2が発現し始めてからすぐに誘導されてくるものと、Ngn2を発現させた後しばらくたたないと発現が誘導されないものとがあることが分かり、下流因子によってその反応性には多様性があることが明らかとなった。 次に、マウス終脳の神経前駆細胞においてNgn2およびその下流因子の発現の可視化、定量化を行った。遺伝子の発現は転写活性レベルおよびタンパク発現レベルで、それぞれの因子の発現をモニターするルシフェラーゼを用いたレポーターを作成し、レポーターを神経前駆細胞に導入して測定を行った。マウス終脳の神経前駆細胞においてプロニューラル遺伝子Ngn2とその標的遺伝子であるDelta-like1, Tbr2, Neurod4, Neurod1, Neurod6の発現を転写レベルおよびタンパクレベルにおいて単一細胞レベルで可視化、定量をおこなった。これらの可視化によって、Ngn2の下流因子群の発現モードには多様性があること、転写レベルとタンパクレベルではその発現動態が異なることが明らかとされた。 さらに異なる波長の光を発するルシフェラーゼを2種類もちいたデュアルレポーターシステムを用いて、Ngn2と下流因子の同時モニターや同一因子の転写レベルとタンパクレベルの同時モニターを行った。これによって、Ngn2の発現と下流因子の発現モードの相関や、転写活性とタンパクレベルとの相関を調べた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの成果から、プロニューラル遺伝子Ngn2の下流因子群の発現はNgn2の発現によって様々に誘導され、転写レベルならびにタンパクレベルでその発現動態には多様性がうまれることが明らかとされた。この多様性は上流であるNgn2が発現振動や持続発現といった異なる発現モードを併せ持つことと、下流因子のNgn2に対する反応性に違いがあること、また下流因子の遺伝子産物であるタンパク質の安定性などに起因する。今後はこのような多様な発現動態が細胞増殖や細胞分化といった細胞動態にどのように寄与しているのかを明らかにする。神経前駆細胞においてNgn2が発現振動しているフェーズにおいて、Ngn2を持続的に発現させた場合に、下流因子群の発現誘導ならびに発現ダイナミクスにどのような違いがもたらされ、それによって細胞の運命決定や細胞増殖にどのような変化が起こるのか調べる。これによって、細胞分化において遺伝子の発現モードという新しい制御機構の概念を導入できると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
遺伝子改変マウス作製費ならびに維持費、試薬、消耗品、マウスの購入に使用する予定である。また、成果をまとめて論文投稿費、学会参加のための旅費等に使用する予定である。
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