2013 Fiscal Year Research-status Report
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24700382
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
多田 敬典 横浜市立大学, 医学部, 助教 (20464993)
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Keywords | 養育環境 / アクチン / AMPA受容体 / Cofilin |
Research Abstract |
児童虐待が起こる背景や原因には、子育てに対する不安・ストレス、経済的不安などさまざまな問題が複合的に絡み合っている。また親自身が虐待された経験を持つことも大きな要因である。実際、虐待などの不適切な養育が認められる母親は、子ども時代に自分自身も実親からの不適切な養育を経験していることが数多く報告されている。げっ歯類でも養育行動の低い親ラットに育てられた仔ラットが親になると、世代間を超えて同様の低養育行動を示す。この養育行動低下における世代間連鎖は、非遺伝的に行われており、良好な養育環境下で育った仔ラットでも、養育行動の低い親ラットに育てられると、親になったときに養育行動が低下することが知られている。 申請者らは、幼若期の社会的隔離による低養育環境が脳内神経ネットワーク形成にどのような影響を与えるか研究を行ってきた。幼若期に社会的隔離されたラットでは、グルココルチコイドホルモンの血中濃度の上昇により、生後14日目のバレル皮質神経細胞のシナプスにおいてアクチン繊維の流動性が低下し、AMPA受容体を介したシナプス伝達が妨げられ、神経ネットワーク構築に異常を来すことをあきらかにしてきた。 本研究では、社会的隔離など低養育環境下で育てられたラットの養育中枢神経細胞においても脳内アクチン繊維流動性低下によるシナプス応答の減少が起こり、さらに低養育環境下で育てられた経験を持つ親ラットに育てられた仔ラット脳内でも、世代を超えて同様な変化が生じているか検討する。これら一連の低養育行動による脳内共通の分子メカニズムを解明することにより、虐待連鎖の発症機序をあきらかにすることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに社会的隔離されたラットにおけるバレル皮質神経細胞スパイン内部でのアクチン流動性低下のメカニズムをあきらかにするために、アクチン分子の重合・脱重合システムに着目し、それぞれの分子のタンパク質発現、活性を調べた。その中で、アクチン脱重合制御分子の一つであるコフィリン分子のリン酸化が上昇し活性化が失われていることを発見した。また社会的隔離によるコフィリンのリン酸化上昇は、グルココルチコイド受容体のアンタゴニストであるRU486投与により回復することができた。さらに社会的隔離によるコフィリン分子の不活性化は、上流分子であるLIMK, Rac1が活性化することによりコフィリン分子の活性に対して抑制的に働いていることをあきらかにした。 またコフィリンの恒常的活性化型であるS3Aを、バレル皮質にエレクトロポーレーション法により強制発現させると、社会的隔離による低養育環境下で育てられたラットにおいて、アクチン繊維の流動性、AMPA受容体を介したシナプス応答が正常個体レベルまで回復することを確認した。 さらにこのコフィリン不活性化によるアクチンの流動性の低下、AMPA受容体のシナプス移行の障害は、社会的隔離直後の生後14日目のバレル皮質のみならず、生後4週目の成体ラット前頭前野に置いても同様に低下することを明らかにしている。これにより幼若期に経験した社会的隔離による劣悪な養育環境の影響が、脳内で長期的に残り続けることを分子・細胞レベルからあきらかにすることができた。さらに幼若期の社会的隔離は、養育行動の一端を担う前頭前野においても、コフィリン不活性化を初めとした共通メカニズムによる影響が確認できたことから、今後社会的隔離をされたラットの養育行動を含めた成体ラットの行動に影響することが示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに社会的隔離による低養育環境が脳内に影響を及ぼす分子メカニズムとしてRac1,LIMK,Cofilinの活性化が深く関与している。今後は、これら分子の発現、活性を脳内のバイオマーカーとして、様々な脳領域で解析を行う予定である。特に養育中枢として考えられている海馬、視床下部内側視索前野(MPOA)、扁桃体中心核(CeA)など様々な領域でのタンパク質発現量、活性化を比較検討する。活性化に差が見られる部位では、FRAP(光褪色後蛍光回復法)解析によるアクチン流動性の変化、電気生理学解析によるAMPA受容体を介したシナプス伝達の応答変化をさらに解析し、分子活性との相関性を調べる。 またそれぞれのタンパク質活性変異体をレンチウィルスの系を用いて、特異的にそれぞれのラット脳領域に導入を行う。同ラットを用いて養育行動変化を解析することにより、社会的隔離による低養育環境が影響する養育中枢の同定を試みる。養育行動判定には、生後1日目から5日目までの仔ラットに対する母性行動を計測する。母性行動は次の各項目について+2, +1, 0 のスコアをつけることで評価する。1)仔ラットの身体をなめる等の行動(licking/grooming)、 2)仔ラットを巣に連れ帰る行動(pup-retrieval)、 3)仔ラットのために巣を作る行動(nesting)、 4) 子ラットに覆い被さる行動(crouching)。 また上記手法により、社会的隔離と低養育行動の関係性があきらかにされた場合、社会的隔離された経験を持つ親ラットに育てられた仔ラット脳内においても、親ラット同様にコフィリン分子の不活性化、アクチン流動性の低下、AMPA受容体を介したシナプス応答の低下が同様に生じているか検討し、世代間を超えた共通分子メカニズムの解明を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に使用する哺乳動物を50腹として計上していたが、予定していた動物数より少数の動物で実験結果を得られることができたため。 養育行動を制御するためのウィルス作製のための消耗品、手術器具などの購入を計画している。
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Research Products
(6 results)