2012 Fiscal Year Research-status Report
ミトコンドリア酸化障害による酸化ストレス関連疾患の発症・悪化機序の解明
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24700434
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
坂井 隆浩 高崎健康福祉大学, 薬学部, 助教 (10418618)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 酸化ストレス / ミトコンドリア / 活性酸素 / ・OH / 疾患モデルマウス / 抗酸化剤 |
Research Abstract |
酸化ストレスは、細胞内における活性酸素種(ROS)の生成と消去のバランスが崩れ、ROSが過剰産生することによって生じる。ROSによって酸化障害された細胞は、機能不全を引き起こし、様々な疾患の発症・悪化に関与すると考えられている。生体内の90%以上のROSは、ミトコンドリアの電子伝達系において、酸化的リン酸化によるATP産生過程で生じる。ミトコンドリアで生成されるROSの中でも・OHは酸化力が最も強力である。このことから、・OHがミトコンドリアの酸化障害に多大な影響を及ぼすと考えられるが、未だに不明瞭な点が多い。本研究では、ミトコンドリアの・OHを選択的に消去する抗酸化剤を開発し、これを種々の酸化ストレス関連疾患モデルマウスに用いることにより、・OHによるミトコンドリア酸化障害が疾患に及ぼす影響を明らかにすることを目的にしている。 本年度は、ミトコンドリアROS誘導細胞を用い、ミトコンドリア・OHに対するミトコンドリア・OH標的抗酸化剤の薬理効果を検討した。その結果、ミトコンドリア・OH標的抗酸化剤はミトコンドリア・OHを効果的に消去し、ミトコンドリアの酸化障害を抑制した。現在、・OHによって酸化障害されたミトコンドリアに対する保護・防御および恒常性維持機構に着目し、詳細な解析を行っている。一方、in vivoにおいては、酸化ストレス関連疾患モデルマウスに対するミトコンドリア・OH標的抗酸化剤の薬理効果を調べた。その結果、これらの多くのモデルマウスでは薬理効果が認められ、さらに・OHによる生体内酸化の亢進を抑制することが明らかになった。今後、・OHによるミトコンドリア酸化障害と、これらの酸化ストレス関連疾患モデルマウスの疾患の発症・悪化との関連性を分子レベルの解析によって解明する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではこれまでに、ミトコンドリアROS誘導細胞を新規ミトコンドリア・OH標的抗酸化剤に用いた検討から、・OHがミトコンドリアの脂質成分であるミトコンドリア膜の酸化障害に多大な影響を及ぼすことを明らかにした。また、ミトコンドリアの挙動解析から・OHによってミトコンドリアが酸化障害を受けると、ミトコンドリアは断片化を引き起こし、ミトコンドリア膜の融合を制御するOPA1の発現パターンが異常を示すことにより融合不全を引き起こすことが明らかになった。さらに、これらによってマイトファジーが誘導されることも明らかになった。これまでに、・OHによるミトコンドリアの酸化が細胞に及ぼす影響や、・OHによるミトコンドリアの酸化障害とミトコンドリア品質管理機構についての知見は皆無であり、マイトファジーの誘導機構についての知見もほとんど無かった。これらのことから、本研究の第一目標であった・OHによるミトコンドリアの酸化障害がミトコンドリア品質管理機構に及ぼす影響を明らかにした点は、当初予定していた研究計画を達成出来たと考える。 また、種々の酸化ストレス関連疾患モデルマウスにミトコンドリア・OH標的抗酸化剤を投与し、生体内酸化状態の定量と薬理効果を検討した。これまでに、in vitroの実験で明らかになった・OHによるミトコンドリアの酸化障害に対するミトコンドリア品質管理機構と酸化ストレス関連疾患の関連性は未だに解明できていない点があるが、現在、分子レベルの解析を進めており、本研究は着実に進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、新規ミトコンドリア・OH標的抗酸化剤を種々の酸化ストレス関連疾患モデルマウスに用い、生体内酸化状態の定量および薬理効果の検討を行っている。これまでの研究結果から、いくつかの酸化ストレス関連疾患モデルマウスでは、生体内酸化の抑制と著しい薬理効果が認められている。その一方で、このミトコンドリア・OH標的抗酸化剤を投与しても生体内酸化の抑制および薬理効果が認められない酸化ストレス関連疾患モデルマウスが現れることが分かった。また、これらのマウスの疾患に関与する臓器では・OHの亢進が認められ、さらにこれらの臓器を構成する細胞では、ミトコンドリアではなく細胞質の・OHが亢進している興味深い結果を得ている。そこで、新たに細胞質・OH標的抗酸化剤を開発し、これらのマウスにこの抗酸化剤を投与した結果、これらの生体内酸化を抑制すると共に、著しい薬理効果が認められた。これらのことは、ミトコンドリア・OHによるミトコンドリア酸化障害に起因する酸化ストレスと、細胞質・OHによる細胞質酸化に起因する酸化ストレスが存在する可能性があることを示唆する結果と考えられる。この結果は想定外であり、当初予想していた研究の方向性とは異なる一方で、酸化ストレス関連疾患の解明につながる極めて重要な知見になりうると考える。今後、ミトコンドリア・OHだけでなく、細胞質・OHにも着目し、これらが酸化ストレス関連疾患の発症・悪化に、どのような影響を及ぼすのか分子レベルでの解明を目指し、本研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
L-Band ESR法により、マウスの生体内における酸化状態の測定・定量に関する試薬、消耗品などの費用、およびX-Band ESRによって臓器特異的・OHの検出・定量に関する試薬、消耗品などの費用を計上する。さらに、分子レベルの解析を行うための試薬、消耗品等の費用を計上する。また、研究成果の発表ならびに情報収集を行うための学会や研究会等の参加に関する費用を計上する。 なお、本年度に導入予定であったKeap1-Nrf2システムに基づく酸化ストレス可視化Tgマウスが年度内に導入できなかった。そのため、次年度にこのマウスを導入する費用、このマウスを用いたin vivoイメージングを行う費用および、このマウスから単離した細胞を用いたルシフェラーゼアセイを行う費用を繰り越した。
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