2012 Fiscal Year Research-status Report
末梢血由来幹細胞を用いた造精機能障害新規治療方法の開発
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24700436
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
本杉 奈美 東海大学, 実験動物センター, 特定研究員 (70465251)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 遺伝子改変マウス / 雄性不妊 / 系統維持 |
Research Abstract |
本研究は、マウスを用いて、末梢血という容易に採取することができる材料を元に末梢血由来精子幹細胞の樹立を試み、造精機能障害の新規治療方法の開発を目指した。 末梢血を採取するドナーマウスには、白血球でも蛍光観察が可能なβ-actinプロモータEGFPが導入されたGFP陽性マウスを用い、これらGFPマウスから採取した末梢血から比重遠心法により単核球を単離し、さらにFACSでGFP陽性細胞の存在比率を測定した。その結果、測定した細胞の約90%でGFPの発現が認められた。単離したGFP陽性単核球は、10%ウシ血清添加DMEM培地、胚性幹細胞(ES細胞)培養培地、10%ウシ血清添加αMEM培地、10%ウシ血清添加RPMI1640培地を用いて細胞増殖試験を行い、生存率および増殖能の検討を行った。その結果、10%ウシ血清添加αMEM培地での培養が他と比べて好成績であった。そこで、抗MHCクラスII抗体であるCR3/43モノクローナル抗体処理によりES細胞様幹細胞の樹立やES細胞から生殖細胞への分化誘導実験などの報告を元に、10%ウシ血清添加αMEM培地に抗マウスMHCクラスII抗体(3.5μg/mL)を添加し、どのように培養細胞が変化するか観察を行った。培養細胞は、核型解析、アルカリフォスファターゼ染色、浮遊培養による胚様体形成、免疫不全マウスへの移植による三胚葉混合の奇形腫形成などを行い、ES細胞と同等な未分化性を維持しているのか確認を進めているが、残念ながら現時点では、未分化能を示すような細胞は得られていない。そこで、既出の報告にある様々な因子を培養培地に添加し、始原生殖細胞様の細胞へ分化誘導できないかを試みている。また、各培養により得られた細胞を生殖巣へ移植する予定のため、薬剤(Busulfan)投与により内在性の精子幹細胞が除去され、かつ移植した細胞が定着することの確認も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、造精機能障害により雄性不妊を示し系統維持が不可能となる遺伝子改変マウスの有効な解決方法の確立を目的とし、マウスを例に、採取が容易な末梢血を用いて精子幹細胞の樹立を目指している。 本年度は、観察や細胞移植後の動態を追跡しやすくするためにβ-actin プロモータにEGFPが導入されたGFP陽性マウスから採取した末梢血より単核球を比重遠心法で単離し培養したのち、抗マウスMHCクラス II 抗体を培地に加えることで単核球に逆分化を起こさせることで精子幹細胞の樹立を試みた。逆分化とは、分化した細胞を用いて胚性幹細胞のような多能性幹細胞の作出を意味する。この方法はAbuljadayel IS.らにより報告済みのものであったが、それを研究室の培養システムで再現させることができず、現時点では報告と同様の結果は得られていない。そこでiPS細胞樹立の報告以降、盛んに研究がなされ報告のある幹細胞樹立、または皮膚細胞から肝臓細胞や神経細胞へ誘導するダイレクトリプログラミングの方法を参考に、分化誘導に有効であると考えられる因子の再検討を行っているため、予定していた研究計画と比べて後れを取っている。再検討した添加因子の多くは、計画段階で候補に挙げていた因子であり、それらを用いて引き続き末梢血由来精子幹細胞の樹立を試みている。雄性ホルモンを分泌するライディッヒ細胞および種々のタンパク質の分泌や栄養補給などをするセルトリ細胞など雄性生殖細胞への分化誘導に有効であると考えられる精巣内細胞との共培養現在も組み合わせ、添加する因子の濃度や時期、培養期間なども合わせて観察を行い、適時、それらの細胞をマーカーで染色し、未分化能の維持を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、24年度に引き続き、マウス末梢血からの精子幹細胞の樹立を目指す。 近年の報告では、分化抑制作用のある白血病抑制因子であるLIFや、精子形成の促進をするアクチビン、精原細胞の増殖に関与するBMPの添加により幹細胞の樹立を試みた報告が多くなされ、添加する因子は、当初に予測したものと同様であった。しかし、それら因子の添加濃度、培養期間に違いがあったので、既出報告を参考に培養条件の再検討を行う。また、他にも候補の添加因子を考えていたが、それら複数を用いての組み合わせなども検討内容とするのは、樹立までの培養期間は長期にわたりることなどから補助事業期間内での実施は困難であるため、上記した三種類に絞り至適条件の探索を行う。また、適時、得られた細胞を未分化マーカーなどにより観察を行っているが、それだけでは分化状況の把握が困難なため、幹細胞もしくは始原生殖細胞に特異的に発現している遺伝子の発現を観察する必要があり、それらの計画を準備しているところである。至適条件の探索により得られた細胞は、マウス雄性生殖器に細胞移植し、移植した細胞の増殖や分化などの様子を追跡し観察を行う。造精機能障害の機能回復が目的であるので、自然交配により移植した細胞由来の正常な産仔が得られるかを交配試験を行い確認する。 本研究で得られる知見は造精機能障害の新規治療方法となるだけではなく、がんや精巣腫瘍の化学療法後の造精機能の回復や、幹細胞や生殖細胞の 分子メカニズムの解明、分化誘導後の細胞を用いた創薬のための薬理、毒性試験への利用、不妊治療への応用などに大きく貢献できると期待し、最終的には造精機能回復への目標到達を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究を実施するにあたり、マウスの飼育、動物実験および細胞の培養は、私立大学戦略的研究基盤形成支援事業による学内施設、遺伝子工学実験動物研究センターにて行い、当センターには細胞培養、マウス初期胚操作に必要な機器および備品が完備されている。 また組織科学標本の作製、FACS による細胞の分離に必要な機器は、東海大学、教育・研究支援センターに共同利用が可能な機器があり、経費の主は、細胞培養に必要な試薬や培地およびプラスチック用品などの消耗品、実験用動物の購入および飼育・維持に充てる。
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