2012 Fiscal Year Research-status Report
非侵襲刺激により誘導される脊髄の可塑性~脊髄損傷者の運動機能回復を目指して~
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24700520
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小幡 博基 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (70455377)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 電気生理学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、脳において実証されているシナプスの学習則(シナプス前細胞からの興奮性入力とシナプス後細胞が興奮する時間的前後関係に応じてそのシナプスの伝達効率が増強または減弱する)が、脊髄内のニューロンとそこに収束する神経経路のシナプス結合において成り立つかのを明らかにすることである。本研究では、脳への経頭蓋磁気刺激や末梢神経への電気刺激といった手法を用い、脊髄神経回路の可塑性に皮質脊髄路を介した入力がどのように影響を与えるかに着目して研究を行っている。 研究期間の1年目にあたる今年度は、ヒラメ筋運動ニューロンの活動を抑制する抑制性介在ニューロンに投射する総腓骨神経と前脛骨筋を支配する運動野を介した皮質脊髄路の2つの経路を対象に、両経路への刺激を対にした介入刺激(ペア刺激)が、総腓骨神経-Ia介在ニューロンを経由して起こるヒラメ筋運動ニューロンの抑制の程度を変化させるか調べた。介入刺激は0.2Hzの頻度で15分間行った。ペア刺激の間隔は、抑制性介在ニューロンに到達する時間が、総腓骨神経を介した経路の方が皮質脊髄路よりも数ミリ秒先行するように設定した。その結果、介入刺激の10分後において、総腓骨神経を条件刺激として与えた後に得られるヒラメ筋H反射応答が5名中4名において減少した。このことは、本実験で用いた介入刺激が、総腓骨神経-Ia介在ニューロンを経由して起こるヒラメ筋運動ニューロンの抑制を増大させたことを表している。 本研究の結果は、脊髄の抑制性介在ニューロンに収束する神経経路のうち皮質脊髄路以外の経路に短期的な可塑性を誘発することが可能であることを示唆している。また、本研究で短期的な可塑性を誘発した経路は、主働筋が活動する際の拮抗筋の抑制に重要な経路であり、脳卒中患者や脊髄損傷者に認められる不随意の主働筋と拮抗筋の共収縮の改善に応用できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、大腿神経-ヒラメ筋運動ニューロン間のシナプス結合について、シナプスの学習則に基づき脊髄運動ニューロンプールに可塑性が誘発できるのか検討する予定であった。しかしながら、予備実験において大腿神経を条件刺激した際のヒラメ筋H反射応答を観察したところ、条件刺激後のH反射応答の変化量が安定しておらず、介入刺激の効果が期待できないことが予想された。そのため,実験内容の一部を変更し、脊髄の抑制性介在ニューロンに収束する神経経路を対象に研究を行ったところ、研究実績の概要に記載した結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は昨年度行った研究を引き続き行い、様々な電気生理学的手法を用いることで背景にある神経機序を明らかにする。また、H25年度の研究実施計画に従い、末梢神経への電気刺激や脳への磁気刺激等の非侵襲刺激による介入が、脊髄反射や随意運動に与える影響について検討する。研究遂行の状況に応じて、他の経路についても同様な手法で短期的な可塑性を誘発できるか調べる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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