2012 Fiscal Year Research-status Report
嚥下障害治療法としての反復経頭蓋磁気刺激と集中的リハビリテーション併用療法の確立
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24700560
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
百崎 良 東京慈恵会医科大学, 医学部, 助教 (70439800)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 嚥下障害 / 磁気刺激 / 脳卒中 / リハビリテーション |
Research Abstract |
近年、経頭蓋磁気刺激:transcranial magnetic stimulation(TMS)が脳の可塑性を引き起こし様々な機能障害を回復させることが明らかとなり、麻痺や認知機能に対するTMS介入について報告がなされるようになった。しかし嚥下障害に対するTMSの報告は少数の予備的研究に留まっており、適応となるべき疾患や病態、リハや薬物療法との併用療法の効果などについてはまったく知られていない。嚥下障害に対するTMS療法がどのような嚥下障害に有効であるのかを検討することは学問的に意義深いことであり、臨床現場で応用可能な治療法としてこの手法を確立することは社会にも大きな貢献になると考え、本研究を行うこととした。 当該年度は入院での集中的嚥下リハとTMSの併用療法に関するプロトコルを施行し、その安全性について検討した。対象は嚥下障害にて食形態調整が必要となってから6ヶ月以上経過している脳卒中患者4人で本研究の説明を受け同意した者とした。意識レベルが一桁で無い者、呼吸状態の安定していない者、脳波検査で異常所見が確認された者は除外した。入院は慈恵第三病院にて6日間とした。入院に先立って嚥下造影検査を行い、詳細な嚥下評価を行い、入院後にカテーテル電極を用い喉咽頭部の運動誘発電位が最大になる部位を決定、嚥下体操などの個別嚥下リハとTMSを連日で行なった。そして退院日に入院前と同様に嚥下機能を評価し、嚥下機能改善の程度とその安全性について検討した。 結果、6日間の併用療法はけいれんなどの副作用や神経症状の悪化、肺炎などをみることなく完遂された。TMS施行中に、咽頭部を内視鏡で観察したところ嚥下様運動の出現が観察された。嚥下機能の変化としては嚥下反射速度に改善傾向がみられ、増悪のみられたものはいなかった。実際の食事場面でも経口摂取能力の改善も認められ、むせこみの減少などが認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を行うための機器や病棟やリハスタッフの体制は整っており問題ない。しかし本研究は慢性期の嚥下障害者を主な対象としており、慢性期の場合在宅生活者が多くリハビリのためだけに入院してくれるという患者をなかなか集めることが困難であった。そのためケースシリーズ止まりであり、今後さらに症例を集めて比較試験を行う必要であると考えられる。症例を集めることができれば、より効果のある脳卒中の病型や重症度、発症から時期の検討も今後可能であると考えられる。さらに効果のある嚥下障害の病態を明らかにすることでより適切なリハプログラムを検討することも可能であると考えられる。 今後、rTMSと嚥下リハの併用療法を臨床応用することで嚥下リハの質を向上させることができればと考えている。従来のリハに比べ、本手法は直接食物を使う必要がないため安全に経口摂取困難な患者にも介入可能である。また今回十分検討できなかったが咽頭収縮力の改善効果や夜間の唾液誤嚥の減少による誤嚥性肺炎予防効果、刺激部位によっては舌圧の向上や咀嚼の協調性、胃食道逆流改善効果などにも有効な可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
対象としては嚥下障害にて食形態調整が必要となってから6ヶ月以上経過している球麻痺、仮性球麻痺、パーキンソン病、高齢誤嚥性肺炎後廃用患者を各5~10名集める。実施場所は東京慈恵医科大学附属第三病院のリハ科病棟である。入院に先立って嚥下造影検査などの嚥下評価を行う。入院後、カテーテル電極を用い喉咽頭部の運動誘発電位が最大になる部位を決定する。各疾患患者に対し、最も適切と判断された磁気刺激プロトコルを用い入院での集中嚥下リハとの併用療法を実施、退院日に入院前と同様に嚥下機能を評価する。各疾患群間で嚥下機能改善の程度を比較・検討し有効である疾患を判定、また嚥下障害の病態(咀嚼・食塊形成障害、喉頭挙上、嚥下反射遅延、咽頭残留、喉頭感覚、不顕性誤嚥、輪状咽頭筋弛緩不全)とその重症度による効果の違いについても検討する。上記の結果よりrTMSが有効な病態に効果があると考えられるリハ(頭部挙上訓練、舌筋力増強訓練、嚥下筋に対する神経筋電気刺激治療など)や薬物(半夏厚朴湯、アマンタジンなど)を絞り込み、それらの併用療法を再度集めたrTMSが有効な疾患を幾つかの群にわけ、これまでと同様のやり方にサブスタンスP検査(嚥下反射惹起に関連性が報告されている)や脳血流代謝検査などを必要に応じ加えながら総合的に嚥下機能改善の程度を比較・検討する。最も有効であったプロトコルと適応疾患・病態、併用療法について決定し、本治療に対する適応規準・除外基準を作成、国内外での学会発表や邦文誌、欧文誌への論文投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
サブスタンスP検査にかかる費用や嚥下動態評価のための嚥下運動解析装置、またはより深部を刺激するのに必要な磁気刺激コイルの購入費として使用する。 また、国内外での学会発表や邦文誌、欧文誌への論文投稿にかかる費用(学会参加費、旅費、宿泊費、成果発表等)としても使用する。
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