2012 Fiscal Year Research-status Report
運動制限を有する患者に対するストレッチと熱刺激を併用した筋萎縮治療戦略の確立
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24700567
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Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
土田 和可子 日本福祉大学, 健康科学部実習教育センター, 実習教育講師 (90610014)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 筋萎縮 / ストレッチ / 熱刺激 / メカニカルストレス / 骨格筋 / heat shock protein / FOXO / NF-κB |
Research Abstract |
積極的な身体運動は,廃用症候群やサルコペニアの主症状の一つである筋萎縮の改善や予防に有効であるが,臨床で遭遇する患者の中には整形外科疾患や心循環器疾患を合併している者も多く存在するため,その代償となる治療法の早期開発が求められている。そこで本研究では,メカニカルストレスや熱などの物理的刺激に対する筋細胞応答に着目し,ストレッチまたは熱刺激が筋萎縮の進行過程に及ぼす影響とその作用機序の解明を行い,臨床応用に向けた科学的エビデンスを集積するとともに,ストレッチと熱刺激を組み合わせた治療介入が,タンパク質の合成能と分解能を相加的に改善することでより効果的かつ効率的に筋萎縮の進行を抑制するのではないかといった仮説を培養骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)と筋萎縮モデル動物を用いて検証することが目的である。 ストレッチ効果を検証した実験では,(1)ストレッチにより筋管細胞の肥大が生じるが,(2)その肥大はインテグリンβ1/β3阻害薬(echistatin)により抑制されることを明らかにした。熱刺激効果を検証した実験では,(3)糖質コルチコイド投与により筋管細胞の萎縮が誘導されるが,(4)その萎縮進行はheat shock protein(Hsp)72やHsp25/27発現量を増加させる熱刺激により抑制されること,および(5)タンパク質分解系を制御するforkhead box-containing protein O(FOXO)やnuclear factor-kappa B(NF-κB)の活性化も熱刺激により抑制されることを明らかにした。 今後は,ストレッチと熱刺激を組み合わせて行うことで加算効果が得られるかどうかを検討していく。また,培養細胞実験で得られた結果を基礎資料として,筋萎縮モデル動物を用い,ストレッチ,熱刺激,またはそれらの併用による治療介入を行い,その効果検証を進めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,ストレッチまたは熱刺激が筋萎縮の進行過程に及ぼす影響とその作用機序を解明するとともに,ストレッチと熱刺激を組み合わせた治療介入が,タンパク質の合成能と分解能を相加的に改善することで,より効果的かつ効率的に筋萎縮の進行を抑制するのではないかといった仮説を培養骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)と筋萎縮モデル動物を用いて検証することを目的としている。 平成24年度においては,まず,C2C12筋管細胞を対象に用いて,ストレッチにより筋管細胞が肥大することや,その筋肥大はインテグリンβ1またはβ3を介して引き起こされることを明らかにした。また,熱刺激により糖質コルチコイド誘導性筋萎縮の進行が抑制されるとともに,熱刺激による筋萎縮の進行抑制作用機序の一つとして,Hsp72やHsp25/27発現量の増加を介したFOXOとNF-κBの活性化抑制が関与する可能性を示した。 以上の検証は,培養細胞実験に基づくものであるが,その成果は筋萎縮の改善や予防を目的とした新たな方法論の開発につながる基礎的資料を提供することができるものと確信しており,筋障害に対する安全かつ効果的な治療法の在り方にも示唆を与えることができるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に行ったC2C12筋管細胞を用いた培養細胞実験では,ストレッチにより筋管細胞が肥大することや,熱刺激により筋萎縮の進行が抑制されることなどを確認した。また,現在,筋萎縮の進行に対するストレッチと熱刺激の併用効果を検証する目的で,伸張可能なシリコン培地に培養した筋管細胞に対して糖質コルチコイドを投与し,安定性・再現性高く萎縮を誘導できる培養・刺激条件を検討している。今後は,これらの結果を基に,ストレッチと熱刺激を組み合わせた治療介入が糖質コルチコイド誘導性筋萎縮の進行に対して相加的に作用するかどうかを,組織病理学的,生化学的,分子生物学的指標を用いて検討する。次いで,培養細胞実験で得られたデータを基礎資料として,筋萎縮モデル動物に対して,ストレッチ,熱刺激,またはそれらの併用による治療介入を行い,その効果検証を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の研究の推進方策で述べたように,平成24年度の後半においては,筋萎縮の進行に対するストレッチと熱刺激を組み合わせた治療介入効果を検証する目的で,シリコン培地に培養した筋管細胞を萎縮させることを試みた。しかし,細胞培養ディッシュに培養した時とは異なり,タンパク質分解を亢進する糖質コルチコイドを投与すると筋管細胞が脆弱化し,長期培養が困難であったため,高安定性・高再現性に萎縮させることができる培養・刺激条件を詳細に検討する必要が出てきたことから,当初立案していた実験計画に遅延が生じた。そのため,平成24年度に実施予定であったストレッチと熱刺激の併用効果を探る培養細胞実験に関わる研究費の一部を次年度使用額として繰り越す運びとなった。したがって,平成25年度においては,培養骨格筋細胞と実験動物を用いるため,細胞培養や動物飼育などに必要な消耗品(培養容器・培地・試薬など)を購入する。また,各実験終了後には生化学的検索と分子生物学的検索を各種抗体や試薬,測定キットを用いて実施するため,これらの消耗品を購入する。その他,本研究課題に関する情報収集や成果発表を目的に国内外の関連学会への参加を予定しており,その旅費が必要となる。また,本研究課題に関する研究打ち合わせや研究成果の発表に伴い,謝金,会議費,印刷費,英文校閲料,投稿料などが必要となる。そのため,これらに研究費を充当する予定である。
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Research Products
(8 results)