2012 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋加温と電気刺激を併用した糖尿病に対する治療効果に関する実験的研究
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24700568
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Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
岩田 全広 日本福祉大学, 健康科学部, 准教授 (60448264)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 糖尿病 / インスリン抵抗性 / 骨格筋 / 温熱刺激 / 電気刺激 / インスリン感受性 / heat shock protein / glucose transporter 4 |
Research Abstract |
有酸素運動やレジスタンス運動は、2型糖尿病にみられるインスリン抵抗性の改善や進行予防に有効である。しかし、臨床場面では整形外科疾患や心循環器疾患を有する、あるいは体力が低下した等の理由から積極的な運動療法を十分に実施・提供できない糖尿病患者が多数存在し、その代償となる治療法の早期開発が急務となっている。そこで、本研究課題では骨格筋の加温や電気刺激がインスリン抵抗性を示す骨格筋の糖代謝能に及ぼす影響とその作用機序の解明を行い、臨床応用に向けた科学的根拠を集積するとともに、骨格筋の加温と電気刺激を組み合わせた治療介入が骨格筋の質的・量的改善を促すことで、より効果的かつ効率的にインスリン抵抗性を改善させ得るのではないかといった仮説を培養細胞とモデル動物を用いて検証することを目的としている。 まず、C2C12筋管細胞を用いた実験では(1)tumor necrosis factor-α(TNF-α)やdexamethasoneを培地に添加すると筋管細胞のインスリン抵抗性が惹起されること、(2)筋管細胞に温熱刺激または電気刺激を行うと惹起されたインスリン抵抗性が改善するとともに、筋管細胞のheat shock protein(HSP)70発現量が増加すること、(3)両刺激を併用して行うとHSP70の発現時間が延長することを確認した。また、培養細胞実験で得られた結果を基礎資料として、2型糖尿病モデル(高脂肪食負荷)ラットを用いた実験では(4)両側の大腿四頭筋に対する経皮的電気刺激の継続実施によりインスリン抵抗性が改善すること、(5)電気刺激の対象である大腿直筋のHSP70およびglucose transporter 4(GLUT4)発現量が増加することまでを明らかにしている。 今後は、温熱刺激単独、または温熱刺激と電気刺激の併用による治療介入を行い、その効果検証を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、熱や電気などの物理的刺激に対する筋細胞応答に着目し、温熱刺激または電気刺激が糖代謝能に及ぼす影響とその作用機序を解明するとともに、温熱刺激と電気刺激を組み合わせた治療介入がインスリン抵抗性を示す骨格筋の治療において、より効果的かつ効率的に作用するのではないかといった仮説を培養細胞やモデル動物を用いて検証することを目的としている。 培養細胞実験で得られたデータを基礎資料とした動物実験では、電気刺激の継続実施が骨格筋の質的変化を引き起こしてインスリン抵抗性を改善することや、その作用機序のひとつとしてHSP70やGLUT4発現量の増加により、骨格筋でのインスリン作用が促進される可能性を確認できた。 以上の検証は、骨格筋の糖代謝能をターゲットにした培養細胞実験および動物実験に基づくものであるが、その成果はインスリン抵抗性の改善をさせ得る運動負荷以外の新たな治療介入法の開発に向けた基礎的資料につながるものであり、2型糖尿病の効果的な運動療法のあり方にも示唆を与えることができるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、培養細胞実験で得られたデータを基礎資料とし、肥満から2型糖尿病を発症するモデルである高脂肪食負荷ラットを用いて、電気刺激によってインスリン抵抗性が改善できるかを検討してきた。その結果、高脂肪食を3週間負荷したラットは高血糖状態とインスリン抵抗性を示したが、その後、1日30分間の電気刺激を7日間(毎日)行うと、惹起されたインスリン抵抗性が有意に改善することを確認した。しかし、その改善率は約50%にとどまり、糖尿病態を完全に改善させ得るまでには到っておらず、この原因として、電気刺激のみでは有酸素運動様の糖代謝亢進効果は発揮されるものの、レジスタンス運動時に観察されるような筋肥大効果は十分に得られない可能性が考えられた。今後の臨床応用に向けて、骨格筋の質的改善と同時に量的改善を図ることで、より効果的かつ効率的にインスリン抵抗性を改善し得る方法論を検討する必要があり、これには温熱刺激を併用した手段が有効ではないかと考えている。そこで、平成25年度はインスリン抵抗性を惹起した培養骨格筋細胞(C2C12筋管細胞)、ならびに2型糖尿病モデル動物(高脂肪食負荷ラット)を対象に用いて、骨格筋の加温と電気刺激を併用した治療介入がインスリン抵抗性と糖尿病の発症にどのように影響するのかを検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は1,584円であったが、これは消耗品等をキャンペーン価格で入手することができた残額であり、平成25年度の消耗品の購入費に充当したいと考えている。 今後の研究の推進方策で述べたように、平成25年度は培養細胞と実験動物を用いるため、細胞培養や動物飼育等に必要となる消耗品(培養容器・培地・試薬等)の購入経費が必要となる。また、各実験終了後には生化学的検索と分子生物学的検索を各種抗体や試薬、測定キットを用いて実施する。そのため、これらの購入経費が必要となる。 実験技術の一部の協力・支援を東京大学と名古屋大学の知人に依頼しており、出張旅費が必要である。また、情報収集や成果発表のため、国内外の関連学会に参加を予定しており、その旅費が必要である。なお、旅費は公共交通機関利用、宿泊費を含んでいる。本研究に関する情報収集に伴い、会議費や印刷費が必要となる。また、成果発表に際しては、英文校閲料および投稿料が必要である。そのため、これらの費用が必要となる。
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