2012 Fiscal Year Research-status Report
同一課題を行う他者のパフォーマンスの影響:他人のエラーは伝染するか?
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24700608
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 匡樹 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (40392196)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 個人間コミュニケーション / 運動学習 / 運動適応 / システム同定 |
Research Abstract |
本研究の目的は、二人以上で行うゴール指向性課題において、周囲で同様の課題を行う他者のエラーがどのように自身のエラー修正過程に影響を及ぼすかを明らかにすることであった。本年度用いた実験課題のゴールは親指と人差し指のつまみ力を標的力に合わせることで、二人組にて同時に行われた。個々のつまみ力を標的力に合わせる個別課題では、二人の力が共に提示される条件(複数提示条件)と、自身の力のみが提示される条件(単独表示条件)の2条件が課された。複数提示条件において、パートナーの力信号にはシステム同定評価のため平均値・振幅が一般被験者とほぼ同等の白色雑音が用いられた。2つのグループが複数提示・単独提示いずれかの条件で個別課題を行った後、共同課題が課された。この課題のゴールは2人の力の平均値を標的力に合わせることであったが、個別課題と同様、実際には平均値・振幅がほぼ一般被験者と同様の白色雑音がパートナーの力信号として用いられた。両課題ともに、パートナーの信号が偽信号と気づいた被験者は皆無であった。個別課題の分析では、自身のエラーに対する応答だけでなく、パートナーの力信号として提示された白色雑音信号に対する応答がシステム同定によって評価された。共同課題では、共同エラーに対する応答の大きさが個別課題時の2条件間で比較された。 その結果、個別条件における相手エラーの影響は、複数提示条件と単独提示条件で有意差がなかった。しかしながら、共同課題においてはエラー修正の修飾に有意な差がみられ、パートナーのエラーを確認しながら課題を遂行した複数提示条件グループは単独提示条件グループよりも大きめに共同エラーを修正する傾向にあった。この度合いの増大は適切なエラー修正範囲よりも大きく、修正過多によるエラー増大を引き起こすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の推進計画予定であった「同じ課題を同時に行う他者エラーの影響を実験的に検証する」という点において、個別課題中の直接的な影響は見られなかったものの、その後の共同課題エラー修正過程に事前の他者エラーの観察が影響を及ぼしうる点を確認できたことは大きな一歩であった。この結果は、他者エラーの存在が事後的かつ潜在的にその後のパフォーマンスに影響を及ぼしうることを示唆しており、我々がこれまで行ってきた実験結果とも矛盾しない内容であった。今後より具体的な検証を重ねることで、本研究の最終的な目的である集団行動前の適切な個人練習法の提案等に繋げることができる成果と考えられる。共同課題における他者エラーの影響は次年度の計画には入っていなかったが、次年度計画がうまく機能しなかったときの次善策として常に念頭におきつつ研究を進めていきたい。 一方で、同課題同時遂行中の他者エラーの影響が同定に至らなかった点は仮説と異なる点であった。この結果は本質的なものであるかもしれないが、一方で他者のエラーに対する注意度の欠落、またはそれを招く実験設定等が悪影響を及ぼした可能性は十分に考えられる。エラーフィードバックの提示法、データ数など実験設定の細部に関してもまだ議論の余地はあり、本年度中に十分に検討しつくしたとは言い難い。実験課題的にも内容的にも次年度の研究計画におおいに関連するので、次年度も同時進行的に引き続き検討していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として、当初の計画だった「共同運動学習時の他者エラーの影響」を検討するとともに、本年度の課題として残った「同課題同時遂行中の他者エラーの影響」も引き続き検証していきたい。以下に詳細を述べる。 【共同運動学習時の他者エラーの影響】本年度対象としたのは、パフォーマンスとしては定常状態に到達しているような比較的簡易な課題であり、そのような課題において試技毎に行われる自身のエラー修正の際にどの程度他者のエラーが影響を及ぼすかを検討してきた。次年度は、新規課題を学習する際の他者エラーの影響を検討する。例えば、ダーツ投げを新たに学習する際、常に狙った標的から右にずれてしまうタイプの人と左にずれてしまうタイプの人がいたとする。もし二人同時に練習させるとしたら、同じエラー傾向の人同士で練習した方がよいだろうか、それとも全く反対のエラー傾向をもつ人同士で練習した方がよいだろうか?この疑問を実験的に検証し、運動学習時の他者エラーの影響に関するモデル化を試みることが今後の研究の狙いとなる。この狙いのため、どの被験者にとっても新規な運動環境を構築しやすい、視野変換設定下での上肢到達運動課題を用いる。この設定下で実験的に特定方向へのエラー特性を各被験者に割り当て、どのようなエラー特性のペアの組み合わせが運動学習を促進させるか、どのようなエラー処理がペア間で為されているかを同定する。 【同課題同時遂行中の他者エラーの影響】上記にも記したように、この研究課題の遂行は本年度を中心に行う予定であったが、同課題同時遂行中の他者エラーの直接的な影響は同定されなかった。しかしながら、この影響は運動学習時のエラー修正にも関連するため、より詳細に検討する必要がある。次年度は視覚フィードバックの方法や試技数の増大など状況を変え、上記課題と同時進行的に検討を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、本年度に構築された実験実施のための環境補強の他、学会発表・論文投稿など結果の公表化に関わる部分に重点を置く。 実験環境の補強に関しては、運動学習課題を実施するための上肢到達運動課題環境の整備(上体固定が可能な椅子、データ収集環境の強化等)を主に行う。視野変換設定のためにやや複雑なデータ処理やプログラミングが必要となるため、プログラミングソフトの新規導入を行う。また、本年度と同様比較的多めの被験者が必要となるため、被験者謝金も十分配備する。 結果の公表に関しては、国内外の学会に参加して成果に関する議論を積極的に行い、内容の是非を吟味したい。そのための旅費、学会参加費等を配備する。また、成果を出版するための資料費、英文校正費、投稿費用等が新たに必要となる。近年増大しているOpen Access(インターネット上で無料で論文を閲覧可能)の雑誌は比較的高額の掲載料が必要となるが、成果の波及という点では有効な選択肢の一つと考えられるため、より認知度・難易度の高い国際雑誌への挑戦と平行して積極的に利用したい。
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