2012 Fiscal Year Research-status Report
筋損傷時における両側性運動機能低下のメカニズムの解明
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24700612
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Research Institution | Uekusa Gakuen University |
Principal Investigator |
遠藤 隆志 植草学園大学, 発達教育学部, 講師 (80510594)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 皮質運動野 / 両手運動 / 半球間抑制 / 両側性機能低下 / 運動誘発電位 / 経頭蓋直流電気刺激 / 経頭蓋磁気刺激 / 運動制御 |
Research Abstract |
本研究では片手の筋において筋損傷を受けた際の両手同時運動の運動制御機構について明らかにすることを目的にしている。 本年度は、片手に筋損傷を引き起こした後、様々な両手同時運動が受ける影響について明らかにすることに従事した。左の第一背側骨間筋(FDI)への伸張性運動(ECC)の前および約2時間後に両手および片手の把持運動(母指と示指による)において、最大筋力(MVC)発揮課題、MVCの50-5%の目標に力を合わせる力調整課題、および30秒間MVCを維持する疲労運動課題を行った。この結果、ECC後の両手によるMVC中において、両側同時の方が片側のみよりも発揮筋力が低下する両側性機能低下が有意に亢進した(p<0.05)。両手での力調整課題では、ECC前に比して右手の把持力の増大が認められ、健側が筋損傷側を補助する傾向が認められた。両手での疲労運動課題では、両手ともに発揮した筋力がECC後でECC前より早期に低下する傾向が認められ、筋損傷の影響を受けて健側においても中枢性に疲労が亢進することが考えられた。 また、皮質運動野に対する経頭蓋直流電気刺激が皮質運動野の興奮性に与える影響に関する基礎研究も行った。右側(陽極刺激)、左側(陰極刺激)および左右両側(右側が陽極、左側が陰極)の3条件で皮質運動野に経頭蓋直流電気刺激(1.5mA、15分間)を与え、その前後における経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(FDIより導出)の変化を記録した。その結果、片側および両側同時刺激ともに、刺激後に陽極の直下の皮質運動野の興奮性は有意に増大し、一方陰極の直下の皮質運動野の興奮性は有意に減少した(p<0.05)。また、半球間抑制も皮質運動野の興奮性の変化と同調して有意に変化した(p<0.05)。これらのことより、経頭蓋直流電気刺激を用いて、半球間の皮質運動野のバランスを修飾可能であることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した計画通り、前年度において片手の筋損傷が両手同時運動に与える影響に着手し、筋損傷後において両手同時運動中に両側性機能低下が亢進すること、健側が筋損傷側の力の低下を補償すること、および健側において中枢性疲労の亢進することなど、片手に筋損傷がある際の様々な両手運動中における力制御の変化を明らかにすることができた。また、経頭蓋直流電気刺激を用いた基礎研究についても当初の予定より前倒しして開始し、経頭蓋電気刺激を用いることで、皮質運動野の興奮性および半球間抑制を修飾可能であること、さらには両側同時の皮質運動野刺激より、半球間の興奮性バランスを大きく修飾可能であることを明らかにすることができた。これらの研究結果を基に当初の計画通りに、次の片手に筋損傷がある際の両手運動中の運動制御機構の解明、さらには筋損傷後の経頭蓋直流電気刺激による半球間の興奮性バランスの修飾が運動に与える影響について検討する予定である。 前年度末において、研究に使用していた刺激装置およびA/Dコンバータが破損するという予期しないトラブルがあり研究の遂行できない時期が生じたが、経頭蓋直流電気刺激を用いた研究を予定よりも前倒しして行っていたこともあり、現在のところ全体的な研究の進捗状況・目的の達成度としてはおおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究より、片側に筋損傷がある際には、両側性機能低下の亢進など両手同時運動は様々な影響を受けることが明らかにされた。その要因の一つとして、片側の筋損傷後の皮質脊髄路の興奮性増大による両半球間の興奮性バランスの変化が考えられた。また、経頭蓋直流電気刺激を用いた両側同時の皮質運動野刺激より、半球間の興奮性バランスおよび半球間抑制を修飾可能であることを明らかにした。そこで、本年度は当初の研究計画通り、経頭蓋直流電気刺激を用いて両半球間の興奮性バランスを修飾し、その修飾された半球間バランスが両手同時運動に与える影響について研究を進める。また、この研究結果を踏まえて、筋損傷によって興奮性の変化した皮質運動野に経頭蓋直流電気刺激を与えて、その興奮性および皮質内抑制を修飾し、この介入による両側同時運動中の反対側(健側)の運動機能の変化を検証すると同時に片手の筋損傷時の両側性運動の機能低下のメカニズム解明についてより強固な証拠を掴むことを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
これまでに末梢神経刺激に使用していた刺激装置が経年使用のために破損し、使用ができない状態になった。本研究においても、経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位評価などの際に、末梢神経刺激による運動誘発電位(M波など)記録は欠かせないものであるため、早急に購入する予定である(約60万円)。 また、実験データの取得に使用しているA/Dコンバータも破損した。このA/Dコンバータは、筋電図や力のデータ取得には必要不可欠なため、早急に修理を依頼した(約10万円)。 その他として、研究発表用の旅費(約10万円)、実験の被験者・協力者への謝金(約10万円)、データ公表のための英語論文執筆時の英文校正費(約10万円)、および実験の消耗品費(ディスポ電極など;約5万円)に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)