2013 Fiscal Year Research-status Report
学校管理下のスポーツにおける死亡・障害事例の分析:根拠に基づく実態解明と安全対策
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24700648
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
内田 良 名古屋大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (50432282)
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Keywords | 学校安全 / リスク / 学校事故 / スポーツ事故 / 頭部外傷 / 熱中症 / ラグビー事故 / 柔道事故 |
Research Abstract |
本研究の目的は,次の2 点である。(1)学校管理下のスポーツ事故,とくにその死亡事例と障害事例について,過去29年間の事例を数量的に整理したうえで,競技種目別に事故実態を解明・比較し,安全対策の要点を導出する。(2)得られた知見を日本語と英語に て,迅速にウェブサイト上に公開し,一刻も早い安全対策の検討を国内外に向けて呼びかける。これらの目的を達成するために,今年度は具体的に「スポーツ時の死亡に関する全事例の集約・整理」と,「情報発信のための資料作成」に重点的に取り組んだ。 前者「スポーツ時の死亡に関する全事例の集約・整理」では,主として次の2つの作業をおこなった。第一に,部活動と授業(体育科,保健体育科)における死亡事故の全事例を一覧表にまとめた。死亡事例数は,過去29年間に小中高で部活動中が約900件,授業(体育科,保健体育科)中が約1200件にのぼる(現在,事例の過不足について最終的な確認作業の段階である)。そして死因の多くが,頭頸部外傷/熱中症/突然死のいずれかであることがわかった。 後者「情報発信のための資料作成」については,上記スポーツ中の死亡事故全事例の公開に向けて資料を整理したことにくわえて,とくに柔道とラグビーの死亡事故については詳細な分析をおこなった。分析の結果は,柔道については,単著『柔道事故』(河出書房新社)にまとめあげ,またラグビーについてはウェブサイト「学校リスク研究所」(http://www.dadala.net/)に日本語版・英語版の両方を公表した。また,イギリスやフランスの柔道関係者ならびにラグビー関係者と意見交換をおこない,安全対策の留意点について示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」に示したとおり,2013年度の作業課題は,「スポーツ時の死亡に関する全事例の集約・整理」と,「情報発信のための資料作成」であった。 前者「スポーツ時の死亡に関する全事例の集約・整理」では,数千件にのぼスポーツ時の死亡事例を抽出・分類することができた。精度を高めるために現在確認作業をおこなっているものの,部活動と授業(体育)の死亡事故の全体像を把握できたことの意義は大きい。 後者「情報発信のための資料作成」については,研究の成果を一つひとつ論文・著書ならびにウェブサイトに公刊することができた。とくに柔道事故については,日本のスポーツ界や医療界における頭部外傷や脳震盪への関心を呼び込むことになり,重大事故防止にいくらかの貢献ができたのではないかと考える。また海外の柔道やラグビー関係者との意見交換からは,柔道やラグビーそのものの問題ではなく,日本のスポーツ文化そのものが抱える精神主義の問題が明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は,次の2つの課題に取り組む。一つが,ラグビー事故防止の啓発である。2019年には日本でアジア初のラグビーワールドカップが開催される。それに向けて現在ラグビー協会は,競技人口拡大の策をとっている。重大事故抑制するために,研究の成果を積極的に世に発信していきたい。その際には,英語版の資料も作成し,世界的な視野からの働きかけを呼び込みたい。 もう一つの課題は,スポーツ時の死亡事故の分析から,競技別の事故の特徴を描き出し,各競技における事故防止の留意点を引き出すことである。現在,柔道の頭部外傷に大きな関心が集まっているものの,他競技,あるいは身体の他の部位にも注目しながら,重大事故抑制の動きを加速させていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は,4年計画から成っている。死亡事故だけでも千件単位の事例があり,それを一定の精度でもって処理していくためには,多くの労力と時間が必要である。2014年度も引き続き,事故事例そのものの整理を継続する必要がある。また整理されたものから順に,分析をおこなっていくことも不可欠である。そして分析の先には,得られた知見をウェブサイトや研修会・講演会にて発表(日本語・英語)するということも,本研究は企図している。このような理由から,2014年度も継続してこれまでの研究を進めていきたいと考える。 2014年度も助成金の多くは,アルバイト謝金と海外渡航費に使用する。アルバイト謝金は,数千件単位の事故事例の入力ならびに整理の作業のために,また海外渡航日は,スポーツ事故関係者(大学教員,指導者)との共同研究のために充てたい。
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Research Products
(7 results)