2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24700669
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中嶋 哲也 早稲田大学, スポーツ科学学術院, 助手 (30613921)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 柔道 / 競技化 / 学生 / 文化史 |
Research Abstract |
当該年度は、まず柔道競技化の歴史的前提として幕末から明治期にかけての乱取稽古の成立について考察した。その結果は2012年6月8-10日、イタリアのジェノバで開催されたInternational IMACSSS Conferenceに於いて“Formation of jujutsu sparring“Randori” in 18th century :Analysis of jujutsu treatises in Tokugawa era”と題して発表した。 次に学生柔道に関する先行研究および諸文献を収集し、全国各高等学校柔道大会(以下、「高専柔道大会」と称す)が開始される大正3(1914)年以前の学生柔道の実態を整理することから着手した。その成果は2012年7月9-13日にブラジル・リオデジャネイロで行われたISHPES(国際体育スポーツ史学会)にて“Emerging process of the competitive spirit in student judo: From self-discipline to competition”と題して発表した。 さらに、2012年8月には高専柔道大会開催に関与した第六高等学校の柔道部およびそのOB達の実態を検討するため岡山大学附属図書館に赴き、「校友会会誌」の残存状況を調査し、必要箇所を複写した。また、高専柔道大会を主催した京都帝国大学の学友会誌も調査し、必要箇所を入手した。 これらの史料と科研費助成以前に入手した第三高等学校(以下、「三高」と称す)、第四高等学校(以下、「四高」と称す)の校友会雑誌を用いて、原著論文「高専柔道大会の成立過程:競争意識の台頭と試合審判規定の形成過程に着目して」を作成し、日本体育学会に投稿し、3月22日付で受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度研究実施計画では「もともと修養的性格をもつ講道館の柔道の中からいかに競技志向的性格を有する学生柔道が台頭したのか、そのプロセスを追うため、二高の校友会雑誌を中心に検討する」ことを研究目標とし、具体的には2012年6月8-10日、イタリアのジェノバで開催されたInternational IMACSSS Conferenceおよび2012年7月にブラジルのリオデジャネイロで開催されるISHPESでの発表および、論文作成を計画していた。 まず国際会議での研究発表であるが、これは予定通りに進んだ。一方、二高の校友会雑誌の分析はできなかった。投稿中の高専柔道大会成立に関する論文が受理されず、再度提出に臨んだためである。しかし、この再投稿の過程で多くの発見があった。 再投稿した拙稿では主に学生柔道における競争意識(研究計画では競技志向的性格としたが、論文作成段階で変更した)の台頭プロセスを明らかにしたが、競争意識の台頭の社会文化的背景として日露戦後に顕著となる日本海側地域と太平洋側地域の間で顕れた経済格差とそれを表す「裏日本」観念の形成に見出した。つまり、最初に競争意識を顕在化させたのは第四高等学校であり、太平洋側地域の三高に対する日本海側地域の四高の競争意識の台頭が「裏日本」観念の形成と軌を一にした現象であったと指摘した。これは計画段階で予定していた1918年前後の二高の競争意識の分析を行う上で重要な史的前提を明らかにできたものといえよう。 さらに本研究の計画段階では予想していなかったが、高専柔道大会が既に大会成立時より独自の審判規定を策定していたことが明らかとなった。研究計画段階の先行研究では当初、高専柔道大会は講道館の審判規定を用いていたが、1930年に独自の審判規定が制定されたといわれていた。これが拙稿によって覆されたのである。これは予想外の研究の進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の研究実施計画では「1920-30年代における学生柔道界の改組とそれに伴う試合審判規程の変容について検討する」という研究目標を掲げた。これは講道館と学生柔道界が試合審判規定をめぐって軋轢を起こしつつ、講道館が関わる大会に多くの学生が参加するという事態の中で学生柔道が「柔道総体の競技化に与えた影響がいかなるものかを検討するため」に掲げた目的であった。 しかし、拙稿で明らかにしたとおり、高専柔道大会が大会成立時に既に独自の審判規定制定を定めていたことを鑑み問題を学生柔道の試合審判規定制定過程を検討するだけではなく、戦間期(1919‐1937)の学生柔道界と講道館との関係を中心に、柔道のスポーツ化を競技化と同義に捉える言説がいかに形成されたのか、その歴史的な形成過程を明らかにしたいと考える。 この問いに応えるため、本研究では①講道館が戦間期の日本社会のなかでどのような存在だと位置づけられるのかを考察し、②講道館から自立化する学生柔道自身が自らの行っている柔道をどのように自己規定していったのかを講道館との関係から考察する。そして、③柔道のスポーツ化を競技化として捉える言説がいつどのように生まれたのかを検討し、その歴史的意義を考察する。 仮説として学生柔道は講道館が実施する武術性にも立脚した柔道からスポーツとしての柔道へと転身を図ったものと考える。この作業仮説に沿って、史料収集および論文作成を行うことを今後の研究推進方策としたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の主な研究費の使途は史料収集である。特にこれまで学術誌レベルでは取り扱われてこなかった第二高等学校の校友会雑誌の調査、収集に研究費を充てたい。さらに高専柔道大会を主催する主体が京都帝国大学から東京帝国大学、九州帝国大学、東北帝国大学の四大学共管に移行する1926年以降の学生柔道の状況を把握するために各帝国大学の新聞を収集したい。特に復刻版を含め史料が確実に残存する東京帝国大学と京都帝国大学の新聞資料を収集することに次年度の研究費を充てたい。
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Research Products
(3 results)