2012 Fiscal Year Research-status Report
トップアスリートの競技力向上に寄与する心理的変容過程の機序
Project/Area Number |
24700690
|
Research Institution | National Agency for the Advancement of Sports and Health |
Principal Investigator |
武田 大輔 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター, スポーツ科学研究部, 契約研究員 (10375470)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | トップアスリート / 心理変容 / 競技力向上 / 身体 / 臨床学 |
Research Abstract |
アスリートへの心理サポートの実践が増える一方で,彼らが継続的な心理サポートを受ける過程で,どのような心理的変容をきたすのか,そして彼らのパフォーマンスの向上に心理サポートがどのように貢献するのかについて,そのメカニズムに迫る研究は少なく,特にトップレベルのアスリートに関する報告は極めて少ない.そこで本研究では,トップアスリートの心理サポート体験過程の資料を用いて,彼らの体験する身体をキーファクターとし,心理的変容が競技力向上に寄与するメカニズムを明らかにすることを目的とした. 本年度の具体的な取り組みは,次の通りである.1)資料収集:分析対象としてロンドン五輪出場を目指すアスリートで個別心理サポートを実施している者を選定した.具体的には心理サポート実践の資料(選手の語りの逐語記録,適宜実施される心理検査結果(風景構成法作品))が分析対象となった.約60名の風景構成法作品は延べ約120作品であった.2)資料整理:先述の資料について,身体をキーワードにした心理特性を読み取るための指標を整理した.標準化された指標がないため,先行研究を参考に約100項目の指標を作成し,それに照らし合わせて本資料を整理した.記述統計から得られた結果を概観し,アスリート特有の表現からアスリート心性を見出すことが可能であることを示唆した(関連学会にて発表).これらの資料から身体体験に特徴のある個別事例を数ケース抽出し,次年度において事例検討を実施するケースを抽出した,次年度は,アスリートの成熟とパフォーマンス変容に対する身体体験の意味を探る予定である. トップアスリートへの支援実践から得られる資料は貴重であり,彼らの心理的変容と競技力向上との関係に迫る研究の積み重ねは,競技に専心するアスリートに望ましい環境作りへの知見を提供できる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,心理サポート実践から資料を得るためその収集は極めて難しい.それに対し,専門家による協力を得ながら得られた資料は十分な数であり,その中には長期にわたる心理サポート実践の資料を含むなど,資料の価値は十分に高いと言える.また,風景構成法作品は客観的評価が難しいが,それを可能とするための試みを行うことができた.限られた時間の中で,目的を達成するための資料収集,資料整理が行われたことは評価でき,次年度に十分な考察を行うことを可能とした.また,得られた結果の一部をすぐに学会発表にて報告し,本研究を洗練するためのコメントを積極的に求めたことも評価できる.さらに,次年度における国際学会発表に向けても準備が進められており,国内だけでなく国際的な知見提供を目指している. 研究費の使用についても,本研究に必要な物品の購入,資料収集,学会発表における旅費など,適正に使用されている.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後においては,当該年度に一部実施していた事例検討と風景構成法作品の統計的分析を中心に進める. 事例検討については,逐語資料の整理が必要なため,そのための時間を十分に費やし,協力者を交えての事例検討から,アスリートの心理的変容,競技力向上に関わる身体体験の役割,意味等について明らかにする. 風景構成法の分析は,得られた選手の特徴からカテゴリー化した分析を行う予定である(たとえば種目差など). また前年度の結果を中心に国際学会にて発表する.これはアスリートへの心理サポートの実践が増えているが研究は少ないという国際的な事情に加え,本邦における取り組みの紹介が極めて少ないことにも因る. 年度末には学術論文への投稿を行う予定である.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は,旅費と人件費の割合を多くする予定である.これは事例検討における協力者への謝金や資料整理の補助者への謝金である.また,各種学会での発表や,本研究をまとめるにあたり,最新の情報を得るための情報収集のための旅費である.さらに,国際学会発表における資料には専門家の校閲を受けるため,その費用も計上する. 当該年度に5000円ほどの未使用額が発生したが,これは経費削減への努力によるものである.これは次年度の国際学会用の資料の英文校閲に充てる.
|