2012 Fiscal Year Research-status Report
超音波エラストグラフィを用いた筋硬度定量法の確立と筋コンディション評価への応用
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24700695
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千野 謙太郎 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (30443245)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 超音波エラストグラフィ / 筋硬度 / コンディショニング |
Research Abstract |
本研究の目的は超音波エラストグラフィを用いて筋硬度を定量する方法を確立し、その方法を運動による筋コンディション変化の評価に応用することであるが、今年度は方法の確立に取り組んだ。申請者らは2種類の参照体を用いることで、超音波エラストグラフィによって筋硬度を定量する方法を考案していた。そこで、2種類の参照体の硬さや厚さを様々なものに変え、測定に最適な参照体の組み合わせを検討した。その結果、硬さ30kPa、厚さ5mmの参照体の上に硬さ7kPa、厚さ10mmの参照体を重ねる組み合わせが最適であることが明らかになった。そのような組み合わせの参照体を用いて、硬度既知の様々な参照体の硬度を測定し、この方法の妥当性および再現性を明らかにした。 筋コンディションの変化を評価する場合、筋硬度と併せて他の筋コンディション指標を測定することが望ましい。筋コンディション指標である筋形状(筋厚、羽状角および筋束長)は、超音波エラストグラフィの歪み画像と並んで表示されるBモード画像によって分析することができる。しかし、歪み画像を得るために筋に加えられる軽度の圧迫によって、Bモード画像の画質が低下したり、筋厚を過小評価したりする可能性がある。そこで、歪み画像と並んで表示されBモード画像から筋形状を分析し、それらの妥当性および再現性を検討した。その結果、単独で取得したBモード画像に比べて歪み画像と並んで表示されるBモード画像の方が、筋形状を分析した際の再現性が有意に低かった。しかし、両画像から得られた筋形状の値そのものには有意差がみられなかった。これらの結果から、歪み画像と並んで表示されるBモード画像の分析から得られる筋形状は、低い再現性を示すものの、妥当な値であることが示された。つまり、超音波エラストグラフィを用いて、筋コンディションの指標である筋硬度と筋形状を同時に測定できる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
エラストグラフィとは、外力によって弾性体内部に生じた変位や弾性波の速度を観測および計測する画像技術である。加える外力の種類によって超音波エラストグラフィは、Strain elastography、Shear wave elastography、Trainsient elastography、ARFI elastographyに大別される。今年度の前半はStrain elastographyを用いて筋硬度の測定を行っていたが、今年度の後半からShear wave elastographyを用いて筋硬度の測定を行うこととした。Strain elastographyは超音波プローブを通じて検者が加えた圧迫を外力として利用する方法であるため、検者の手技による外力が測定の妥当性や再現性に影響を及ぼす。また、申請者らが考案したStrain elastographyによって筋硬度を定量する方法は、2種類の参照体を重ねて皮膚上に置き、その上から超音波プローブによる圧迫を加える方法であるため、より高いレベルの手技が必要となる。一方、Shear wave elastographyは超音波プローブが誘発するせん断波を外力として利用する方法であるため、外力が測定の妥当性や再現性に影響を及ぼすことはない。妥当性や再現性の高い測定をより簡便に実施するため、筋硬度の測定に使用する超音波エラストグラフィをStrain elastographyからShear wave elastographyに変更することを決断した。本実験を実施する前に、Shear wave elastographyの特性などを確認する予備実験を実施したため、当初の計画よりも研究の進展がやや遅れる結果となってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
まずはShear wave elastographyを用いた筋硬度の測定が高い再現性で実施できることを確認する。その後、数十名の一般成人を対象に筋硬度の測定を行い、様々な筋の標準的な筋硬度を把握する。このような基礎的な測定によって、Shear wave elastographyを用いて筋硬度を定量できることを確認する。 次に、Shear wave elastographyを用いた筋硬度の測定が運動による筋コンディション変化の評価に応用できるかを検討する。繰り返しのカーフレイズ運動による筋疲労あるいは筋損傷によって腓腹筋内側頭の筋コンディションを変化させ、その変化をShear wave elastographyによって測定した筋硬度で評価する。また、生体組織硬度計を用いた筋硬度やBモード超音波法を用いた筋厚、血漿クレアチンキナーゼ活性値、MRIのT2緩和時間、Bモード超音波画像のエコー強度、筋力などによっても筋コンディションの変化を評価する。それらの変化とShear wave elastographyによる筋硬度の変化を比較することで、筋疲労あるいは筋損傷による筋コンディション変化をShear wave elastographyによる筋硬度で評価できるかを検討する。 伸張性運動は短縮性運動や等尺性運動に比べて発揮される張力が大きいが、張力発揮に関与する運動単位は少ないため、活動している筋線維一本あたりの相対的負荷が大きく、筋損傷が引き起こされやすいと考えられている。したがって、伸張性運動によって生じる筋損傷は筋全体に均等に生じるものではなく、同一筋内においても部位差が生じるものと考えられる。そこで、腓腹筋内側頭の筋硬度を近位、中間位および遠位において測定し、同一筋内あるいはShear wave elastographyの関心領域内における筋硬度の部位差についても検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究で使用する超音波エラストグラフィは国立スポーツ科学センターの備品であるため、測定の実施場所は国立スポーツ科学センターとなる。今年度の測定において、得られたデータをその場で入力したり、分析したりするためのパーソナルコンピュータの必要性を感じた。そこで、測定実施場所への持ち運びに便利なノート型パーソナルコンピュータを購入する予定である。 今年度の後半から使用を開始したShear wave elastographyの妥当性や再現性を確認するため、様々な硬さや厚さの軟部組織模倣体を購入する。また、Shear wave elastographyを用いた筋硬度の標準値を得るため、多数の被検者からデータを取得する。よって、今年度よりも多くの測定協力謝金および交通費を次年度の予算に計上する。 超音波エラストグラフィを用いて測定した筋硬度が運動による筋コンディション変化の評価に応用できるかを検討する際には、被検者に筋損傷が生じるような運動を行わせ、運動後数日間に渡って測定を実施する。このような負担の大きな測定に参加する被検者に対しては、通常よりも高額な協力謝金を支払う必要がある。また、筋コンディションの指標として血漿クレアチンキナーゼ活性値を測定する予定だが、そのためには採血を行う必要がある。よって、採血の資格を有する検者に対する協力謝金および交通費を予算も計上する。 超音波エラストグラフィに関する最新情報を得たり、自身の研究成果を発表したりするためには、情報交換会や学会大会に参加する必要がある。また、海外の学術雑誌に研究成果を発表する際には、英文校正費や投稿料、掲載料が必要となる。したがって、情報交換会や学会大会の参加に必要な経費や論文発表のために必要な諸経費も次年度の予算に計上する。
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Research Products
(2 results)