2012 Fiscal Year Research-status Report
精神的ストレス応答システムHPA経路に基づくがん発症・進展メカニズムの解明
Project/Area Number |
24700756
|
Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
渡邉 映理 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20433253)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | HPA経路 / がん発症・進展 / 精神的ストレス / 糖質コルチコイド / がん関連遺伝子 / GCR / 腫瘍細胞株 / フィードバック機能 |
Research Abstract |
HPA経路は精神的ストレスに関わる最も重要な経路であり、がんの発症・進展にも関与すると考えられている。本研究では、HPA系とがん進展のメカニズムの関連を探ることを目標とした。 HPA経路には糖質コルチコイドレセプターを介したフィードバック機能が備わっており、健康な状態ではストレス刺激に対するHPA経路の反応が過剰にならないようになっている。健康成人にCRHを投与してもACTH、コルチゾール分泌反応は起こらないが、うつ病患者ではコルチゾール濃度が増加し、HPA経路のフィードバック機能が低下していることが確認されている。我々が過去に調査した健康成人集団でも、慢性ストレスが強い者ほどこのHPA経路のフィードバック機能低下が起こり、通常の状態でコルチゾールレベルが高くなっていることが考えられる。 糖質コルチコイドは細胞内で糖質コルチコイドレセプター(GCR)と結合し,種々の遺伝子の転写制御を行っている。GCRは通常は非活性な状態であるが、HPA経路のフィードバック機能低下により高コルチゾール値が持続すれば、細胞質に存在するGCRが活性化し続け、細胞内情報伝達系や核内転写制御に影響し、様々な遺伝子発現に影響すると予測される。 精神的ストレス→HPA経路→GC→GCR→がん進展・抑制因子→細胞がん化のメカニズムは現在非常に注目されているが、HPA経路が、がん発症・進行に関与する分子生物学的メカニズムの解明には到っていない。精神的ストレスとHPA経路、がん進展の分子メカニズムが解明されれば、現在までに蓄積された精神的ストレスとがん進展に関する疫学的・臨床的証拠を遺伝子レベルで理解できるとともに、臨床的にがんの予防的措置やがん患者への治療にその結果を役立てることができると考えられる。本年度は全計画のうち、まず基本となるマウス腫瘍細胞、およびヒト腫瘍細胞株による検討を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画を提出した時点で考えていた、マウスへの拘束ストレス、または腫瘍細胞にグルココルチコイド添加⇒放射線照射⇒グルココルチコイド増加⇒グルココルチコイドレセプター(GR)⇒グルココルチコイド誘導タンパクキナーゼ増加⇒MDM2⇒P53の減弱⇒発ガン、のメカニズムの解明は、2012年6月にProc Natl Acad Sci U S A. 2012 May 1;109(18):7013-8. Epub 2012 Apr 16. Chronic restraint stress attenuates p53 function and promotes tumorigenesis. Feng Z, Liu L et al.でその機構が既に発表されてしまい、もはや申請者が新たに解明すべき課題ではなくなってしまった。そのため、研究課題に関する別の計画を考える必要が生じている。 昨年度はまず、マウス腫瘍細胞(マウス肺がんLL2, マウス結腸癌MC38)を使用し、VITROの実験を行った。糖質コルチコイド(GC)によって、糖質コルチコイドレセプター(GCR)が活性化し、がん細胞・腫瘍増殖が起こるかどうか調べるために、まず細胞増殖試験を行った。LL2、MC38にDOSEを変えたコルチゾール、および合成糖質コルチコイドであるデキサメタゾンを添加し、24, 48, 72, 96hで増殖させた。その結果、LL2、MC38を24時間コルチゾール添加培地で培養すると、いずれもコルチゾール濃度が1×1/5-9μg/mlのときに、通常培地と比較して最大の1.3倍の増殖率を得た(LL2: p<0.001, MC38: p<0.001)。デキサメタゾン添加、48h後も同様の結果になった。なお、これ以上の濃度では逆に増殖が抑制され、腫瘍細胞増殖に適した糖質コルチコイド濃度が存在するという結果が示された。
|
Strategy for Future Research Activity |
腫瘍細胞に糖質コルチコイドを添加すると、ある濃度で増殖することが確認された。今後は、「腫瘍細胞にグルココルチコイド添加⇒GR⇒SGK1(グルココルチコイド誘導タンパクキナーゼ)⇒HIF1、VEGF(p53との関連) ⇒解糖系因子(乳酸脱水素酵素LDH、GAPDH)への影響⇒腫瘍細胞増殖」のメカニズムについて研究を進めたい。ガン増殖促進に慢性ストレスが関係していると考えられ、実際、昨年度の研究より低濃度のグルココルチコイドで腫瘍細胞が増殖する事実が判明したため、慢性ストレスにより、がん関連因子の発現が変化している可能性が考えられる。がん増殖はATP産生を解糖に依存しているという特性があるが、慢性ストレスによる細胞内の微小環境の変化により解糖がさらに促進されるのではないかと想定される。具体的には、一般的な肺がん、大腸がん、胃がんなどヒト腫瘍細胞でも、グルココルチコイドにより増殖する濃度を見つけだし、PCR、ウェスタンブロッティング法で、ガン関連因子p53、HIF1、VEGF、MDM2のどれが関連しているか絞込みを行い、解糖との関連因子(乳酸脱水素酵素LDHなど)を、コルチゾール無添加および最も増殖したときの濃度で、比較することを検討している。さらにグルココルチコイドのシグナルを抑制した場合、増殖、各因子が変化するかどうか、「(1)GRのアンタゴニストRU486でGRを抑制し、因子への影響を遺伝子、タンパクレベルで確認 (2)GRをsiRNAでノックダウンし、因子への影響を遺伝子、タンパクレベルで確認 (3)Luc-GRを導入した細胞を作成し、GRへのシグナルと因子の発現に関連があるかタンパクレベルで確認 (4)低酸素下、高グルコース下、低温度下での増殖と関連因子の検討」を予定している。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下の試験を行うため、腫瘍細胞維持のための培地や抗生物質、プラスチック製品の購入、および試薬、キットの購入、機器使用料等(物品費等)が必要である。 (1)コルチゾール・デキサメタゾンを添加したときのGCRの発現、GCRがどれだけGCと結びついてグルココルチコイド応答配列に結合し、下流遺伝子の転写を開始できるか活性を確認する。(1-1)GCRの発現をRT-PCRで調べる(うつ病患者でGCR mRNA発現が落ちる報告あり)(プライマー、プローブが必要) (1-2)ELISAかウェスタンブロッティングでGCR活性を測定(それぞれkitが必要) (1-3)GCRレポーターアッセイ用(デュアルルシフェラーゼアッセイ)のプラスミドを、2つの腫瘍細胞にエレクトロポレーションでトランスフェクションして使用、シングルクローンを作成して解析に使う(専用プラスミドが必要) (2)コルチゾール・デキサメタゾンを添加したときの腫瘍細胞のがん進展・抑制因子(p53, リン酸化p53, VEGF, NFκB)の発現を調べる。 (2-1) PCRを行う(プライマー、プローブが必要)(2-2) ELISAかウェスタンブロッティングでタンパクレベルの発現を測定(それぞれkitが必要) (2-3)または、GCRの抗体を付けてフローサイトで測定(抗体が必要) (3)抑制試験 (3-1)siRNA、shRNAまたはGCR阻害薬(RU486(ミフェプリストン))でGCRを抑制(キット、試薬が必要) (3-2)抑制試験を行いながら、(1)(2)を調べる。
|