2012 Fiscal Year Research-status Report
大震災被災地の住環境汚染真菌の危害性評価と予防衛生学的研究
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24700795
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
渡辺 麻衣子 国立医薬品食品衛生研究所, 衛生微生物部, 室長 (00432013)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 住環境汚染真菌 / 大震災 / 感染 / アレルギー / マイコトキシン産生 |
Research Abstract |
被災者が居住する住居の屋内において、住環境の真菌調査を行った。調査対象としては、宮城県石巻市内の津波による浸水被害を受けた一般家屋とし、持ち家と賃貸住宅を含めた。気候的に真菌増殖が多いことが知られる梅雨、秋季、冬季を中心にサンプリングを行った。具体的には、2012年7月に持ち家7件・賃貸住宅5件、8月に持ち家1件・賃貸住宅3件、10月に賃貸住宅3件、2013年3月に賃貸住宅4件、以上延べ23件から、エアサンプラーを用いた空気浮遊真菌のサンプリングを行った。 採取したサンプルを培養し、空気1m3あたりの真菌生菌数(CFU=胞子数)を測定して室内真菌汚染度を評価した。その結果、持ち家では最高値16,880 CFU/m3、最低値380 CFUであり、賃貸住宅では最高値163,200 CFU、最低値720 CFUとなり、被災していない一般家屋の真菌汚染の指標とされている1,000 CFUを大きく超える住居があることが確認された。また、持ち家と賃貸住宅両方からのサンプリングを行うことができた7月および8月における10,000 CFU/m3を超えた件数の割合を比較したところ、持ち家で50.0%、賃貸住宅では87.5%となり、賃貸住宅で高かった。また、持ち家・賃貸住宅を区別することなく7月から3月の間の同様の件数の割合を比較したところ、7月で66.7%、7月で66.7%、8月で75.0%、10月で33.3%、3月で0.0%となり、7月・8月で高かった。このことから、賃貸住宅および梅雨・夏季に真菌汚染が著しいことが示された。 さらに、H25および26年度に行う予定の、Aspergillus fumigatusのアレルゲン遺伝子Af1、Af2およびAf3の多様性について、変異と分離源との関連とエピトープへの影響について調べ、基礎研究を行い、学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
拭き取りキットを用いた壁・床の付着真菌、および家庭用掃除機を用いたハウスダストの採取に関しては、1世帯にかけられるサンプリング時間や調査に参加できる調査員人数等、サンプリング対象世帯の事情により不可能だったため、サンプリングをあきらめざるを得なく、研究計画を変更して調査対象から外すこととした。 持ち家/賃貸住宅、およびサンプリング時期が真菌数に影響を与えている原因については、温度、湿度等が異なるためと考えられるが、それを引き起こす要因を明らかにするべく、現在解析を行っているところである。これは、H25年度に行う住宅汚染真菌叢の同定結果と合わせて解析し、H26年度までにその真菌汚染が生じた原因の考察を行い、真菌制御方法を考案する予定であるため、この点については計画通りである。 また、この際形成された、全体のうち占有率の高かった菌種のコロニーを釣菌して分離し、保存しているところである。現在までに、約500株の菌株保存が完了した。菌株の分離・保存・同定のためには実験量が多く必要であり、H25年度にも引き続き行う予定であったため、この点については計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度に分離した真菌株について、培養集落および顕微鏡観察像を中心とした形態学的指標、およびリボゾームRNA遺伝子塩基配列相同性を中心とした分子生物学的指標を駆使し同定を行う。真菌の同定では、特に形態学的手法と遺伝子塩基配列相同性検索結果の評価において、熟練技術や深い見識が必要であるため、申請者、および研究協力者の東京都産業技術研究センター住環境研究室・小沼ルミ氏が担当する。得られた真菌生菌数の推移と分離菌株同定結果をもとに、真菌叢の空間的・経時的変遷について解析を行う。この解析結果はH26年度の真菌制御方法の考案に必要不可欠である。 同定済みの分離菌株を用いて、H25からH26年度にかけて、真菌の住環境からの吸入暴露による危害性の有無を検証する。吸入暴露による危害性報告の有無および発生頻度の観点から、検証対象とする菌種は以下のとおりとする。感染性:Aspergillus属菌、アレルゲン性:Aspergillus属菌・Penicillium属菌、マイコトキシン産生性: Styachybotrys chartarum (サトラトキシン類)、Aspergillus fumigatus (グリオトキシン類)、Aspergillus versicolor (ステリグマトシスチン類)。 その後、それまでに得られた、真菌叢の空間的・経時的変遷についての解析結果、および感染性・アレルゲン性・マイコトキシン産生性に基づく危害性評価結果等を統合して、被災者住環境を汚染する真菌の健康リスクについて、総合的に評価する。また、特に吸入暴露による危害性の高い真菌の消長に着目しつつ真菌叢の変遷の要因を生態学的に考察し、それら危害性真菌の制御方法を考案する。研究期間を通じて、学会発表および誌上発表等を行い、得られた研究成果について積極的に公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度は、感染性およびマイコトキシン産生性の検証に着手する予定である。感染性の検証では、マウス感染実験(真菌胞子の経気道投与)後、経時的に肺組織のサンプリングを行って病理切片を作製し、病理学的に感染の有無を判定する。病理学的診断に際しては、岩手大学農学部獣医学科・鎌田洋一教授の協力を得る。マイコトキシン産生性については、適した液体培地で各菌株を培養し、TLCまたはELISA等によるマイコトキシン産生性の判定を行い、産生菌株をスクリーニングする。その後、適当な有機溶媒・精製条件にてマイコトキシンの単離・精製を行い、LC-MS/MSにて該当菌株のマイコトキシン産生性の定量的評価を行う。この際、国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部・吉成和也博士の協力を得る。 上述のように、H25年度は、H24年度と比較して、サンプリングの頻度は減り、ラボワークが研究の中心となる。動物実験および微量分析実験では、動物の購入および維持、病理切片作製の外部発注、LC-MS/MSでのマイコトキシン単離・精製用カラム等に費用がかかる。そのため、H24年度の使用状況と比較して、旅費を減額し、消耗品費およびそのほかの費用を増額する必要がある。
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Research Products
(3 results)