2012 Fiscal Year Research-status Report
単一ニューロン記録法・標識法を用いた食行動を呼び起こす味覚神経回路の解析
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24700833
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
岩井 治樹 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (30452949)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 味覚 / 神経回路 / 単一ニューロン / ジャクスタセルラー記録法・標識法 |
Research Abstract |
本研究は、食行動の原動力となる味覚神経回路が単一の味覚ニューロンの集合からなるという視点から、未だ明らかにされていない単一味覚ニューロンの構造と機能を明らかにし、食行動のメカニズムの解明に向けた味覚の神経回路学的基盤を確立することが目的である。本研究期間内では、味覚刺激の入口である脳幹味覚野の単一味覚ニューロンの構造と機能を明らかにすることを目標とし、平成24年度は、①「ジャクスタセルラー記録法・標識法の装置の構築」、②「単一ニューロンの神経活動の記録および標識物質注入による可視化」、③「組織切片を基にした単一ニューロンの再構築像の作製」を行った。 ①「ジャクスタセルラー記録法・標識法の装置の構築」:ジャクスタセルラー記録法・標識法は、これまでの細胞内あるいは細胞外記録法やパッチクランプ法といった電気生理学的手法では不可能だった個体レベルで単一味覚ニューロンの長距離投射を可視化できることが特徴である。この装置を構築することにより、実際に単一ニューロンの神経活動を記録し、さらにこのニューロンに標識物質を注入し可視化することが可能となった。 ②「単一ニューロンの神経活動の記録および標識物質注入による可視化」:前述した装置で実際に単一ニューロンの神経活動の記録が得られ、さらにこのニューロンに標識物質を注入することにより単一ニューロンを可視化できることが確かめられた。 ③「組織切片を基にした単一ニューロンの再構築像の作製」:前述の方法で可視化した単一ニューロンの組織標本が複数の切片からなることから、これらの切片を画像編集ソフトに取り込み、そして繋ぎ合わせ、単一ニューロンの樹状突起、細胞体、および軸索を同一画像上で見られるように再構築を行った。これにより、単一ニューロンの神経終末の形態、空間的な位置、および神経終末の分布領域の検討が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度の研究計画は、①「ジャクスタセルラー記録法・標識法の装置の構築」、②「単一味覚ニューロンの同定および可視化」、③「単一味覚ニューロンの3次元再構築像による形態、空間的な位置、および神経終末の分布領域の検討」を予定した。 ①「ジャクスタセルラー記録法・標識法の装置の構築」:脳幹味覚野の単一味覚ニューロンの神経活動の記録および標識物質を注入し可視化するため、ジャクスタセルラー記録法・標識法の装置を実際に構築した。現在、この装置を味覚実験に最適化させる作業をしている。 ②「単一味覚ニューロンの神経活動の記録および標識物質注入による可視化」:前述した装置で実際に単一ニューロンの神経活動の記録が得られ、さらに標識物質を注入することにより単一ニューロンを可視化できることが確かめられた。現在、味覚における単一ニューロンの可視化を試みている。 ③「単一味覚ニューロンの3次元再構築像による形態、空間的な位置、および神経終末の分布領域の検討」:前述の方法で可視化した単一味覚ニューロンの組織標本が、複数の切片からなることから、これらの切片を画像編集ソフトに取り込み、そして繋ぎ合わせ、単一ニューロンの樹状突起、細胞体、および軸索を同一画像上で見られるように再構築を行った。これにより、単一ニューロンの神経終末の形態、空間的な位置、および神経終末の分布領域の検討が可能となった。現在、味覚における単一ニューロンの再構築を試みている。 以上のように、ジャクスタセルラー記録法・標識法の装置を用いて、実際に単一ニューロンの神経活動の記録、標識物質注入による可視化、および再構築が可能であることが確かめられたが、現在、味覚における単一ニューロンの神経活動の記録、標識物質注入による可視化、および再構築を試みている段階にあるので、自己点検による評価では「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、平成24年度に課題となった味覚に特化した実験系を構成した後、①「単一味覚ニューロンの神経活動の記録および標識物質注入による可視化」、②「単一味覚ニューロンの3次元再構築像による形態、空間的な位置、および神経終末の分布領域の検討」を予定している。 ①「単一味覚ニューロンの神経活動の記録および標識物質注入による可視化」:脳幹味覚野において、単一味覚ニューロンの形態の全体像を把握するために、ジャクスタセルラー記録法・標識法を用いて、舌を味物質(スクロース、塩化ナトリウム、グルタミン酸、クエン酸、およびキニーネなど)で刺激した後に発生するニューロンの電気的活動から、単一味覚ニューロンを同定し、さらにこのニューロンに標識物質(ビオチン化デキストランアミンなど)を導入し、単一味覚ニューロンの全体を可視化する。 ②「単一味覚ニューロンの3次元再構築像による形態、空間的な位置、および神経終末の分布領域の検討」:ニューロンの特性は情報を受け取る樹状突起、情報を他のニューロンに分配する神経終末の大きさや量といった形態に反映されている。例えば、5つの基本味に反応する単一味覚ニューロンの間の樹状突起の太さや広がりの差は、味覚刺激に対する鋭敏さの違いを表し、神経終末の分布領域の差は、味覚刺激が影響を及ぼす脳領域の違いを表していることが考えられる。これらのことから、5つの基本味に反応する単一味覚ニューロンの形態、空間的な位置、および神経終末の分布領域をそれぞれ詳細に明らかにするために、単一味覚ニューロンを可視化した後、3次元再構築像を形成する。さらに、この構築像を基に神経終末の分布領域ごとの量を定量的に解析する。最後に、本研究で得られた成果をまとめ、学術雑誌に投稿するとともに学会発表などを行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
顕微鏡改修費用(14,386円)が残っているが、改修作業が年度をまたいだため、支払いが次年度に繰り越しとなった。次年度の研究費は、基本的なジャクスタセルラー記録法・標識法の装置は構築済みであるため、実際の実験に必要な①「実験器具および実験試薬の費用」、②「実験動物の購入費用」、および③「研究成果発表費用」への使用を計画している。 ①「実験器具および実験試薬の費用」:単一ニューロンの可視化に必要なトレーサー(ビオチン化デキストランアミンおよびテトラメチルローダミン等)、血清、二次抗体(抗テトラメチルローダミン抗体等)、およびアビジン・ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体の購入費用、ニューロンの機能の同定に必要な一次抗体(小胞性グルタミン酸トランスポーター1および2抗体等)および蛍光二次抗体(アレクサフローラ等)等の購入費用、ウェルプレート、遠沈管、およびエッペンチューブなどのプラスチック実験器具の購入費用として使用する。また、前述した顕微鏡改修費用としても使用する。 ②「実験動物の購入費用」:ジャクスタセルラー記録法・標識法実験で使用するラットの購入費用として使用する。また、ラットの飼育に必要なラットの飼料費用、床敷費用、およびケージ費用として使用する。 ③「研究成果発表費用」:本研究の研究成果を学術論文に投稿するために、英文校正費用および投稿費用として使用する。また、学会発表するために、旅費として使用する。
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