2014 Fiscal Year Research-status Report
鉄欠乏により誘導されるアディポサイトカインの変動および耐糖能低下機構の検討
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24700850
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Research Institution | Jin-ai University |
Principal Investigator |
池田 涼子 仁愛大学, 人間生活学部, 准教授 (80352805)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 鉄欠乏性貧血 / 耐糖能異常 / 酸化ストレス / β-カロテン / 生体内相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄欠乏食を投与した幼若ラットでは、高インスリン血症を伴わない血糖値の上昇とともにインスリン感受性を促進するアディポサイトカインの減少、ならびにインスリン抵抗性に関与する炎症性サイトカインの増加が観察される。炎症性サイトカインの増加要因として生体内の脂質過酸化が知られていることから、鉄欠乏により亢進する生体内脂質過酸化が炎症性サイトカインの増加を介してラットの耐糖能異常に関与する可能性が示唆された。これより、本課題では抗酸化性物質であるβ-カロテンの経口摂取が生体内脂質過酸化を抑制し、鉄欠乏ラットの血糖上昇を抑制しうるとの仮説のもとに「食餌性β-カロテンが鉄欠乏ラットの耐糖能異常に及ぼす影響」について検討した。なお、抗酸化成分としてβ-カロテンに着目した理由として、過去の研究において鉄欠乏ラットの生体内脂質過酸化の抑制に対する有効性を観察した実績があること、緑黄色野菜をはじめとした食品中に広く分布しており機能性成分として一般的であることが挙げられる。 H25年度の実験により、β-カロテンの経口摂取による鉄欠乏ラットの血中アディポネクチンの回復および血糖値の低下が観察されたが、炎症性サイトカインであるTNF-αについては顕著な変動は認められなかった。本年度は、β-カロテンの耐糖能に及ぼす影響についてその再現性を確認したところ、β-カロテン投与による血糖値の有意な改善は認められなかった。ただし、このときインスリン抵抗性サイトカインの一つであるレジスチンがβ-カロテン摂取により有意に低値を示した。食餌中のβ-カロテンは小腸で吸収される際に一部がビタミンAに転換され、残りはβ-カロテンのまま生体内に分布するして生理機能を発揮することから、β-カロテンもしくはその代謝物であるビタミンAが脂肪組織におけるレジスチン合成を抑制する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題の推進において、初年度に実験設備の都合により研究開始が遅れたことが全体の進捗に大きく影響している。昨年度、本年度と研究実績は積んでいるものの動物飼育室の使用状況等の諸問題により、平成26年度に予定されていた2回の実験のうち1回分が未消化となり補助事業期間の延長申請に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は期間延長の承認を受けた補助事業の残額を最大限に活用し、予定していた残りの実験を遂行し、研究の推進を図る。 本年度の実績から、β-カロテンの経口摂取が鉄欠乏ラットの血中レジスチン濃度を低下させることが観察された。これまで本研究における鉄欠乏ラットの血中レジスチン濃度は正常ラットと比較して有意な増加もしくは増加傾向を示しており、鉄欠乏における血糖値上昇の要因の一つと考えられるとともに、その機序について詳細な解明が望まれてきた。前述の食餌性β-カロテンによる血中レジスチン濃度の低下は、鉄欠乏ラットと正常ラットの双方で観察されており、高血糖やインスリン抵抗性の亢進といった糖代謝の不全に起因するものではなく、単純にβ-カロテンもしくはビタミンAをはじめとしたカロテノイドの代謝物がレジスチンの発現に関与した可能性が示唆されている。レジスチンの遺伝子発現に関与するPPARγはレチノイン酸の核内受容体と二量体を形成することから、ビタミンAおよびその前駆体であるβ-カロテンがこれらを介してレジスチンの転写調節に関与する可能性は十分に考慮される。しかし、現在のところその機序を説明しうる既存の報告は極めて少なく、今後はin vivoにおけるこの現象の再現性の確認および詳細な機序の検討が必要である。 以上より、平成27年度の実験は鉄欠乏ラットにおける各アディポサイトカインの変動について再現性を確認するとともに、β-カロテンの経口摂取がレジスチン発現に及ぼす影響について検討する。また、鉄欠乏では肝臓から血清へのビタミンA放出が滞ることが知られていることから、Ⅱ型糖尿病を遺伝的背景に持つ動物のβ-カロテンおよびビタミンA代謝についても分析する予定である。カロテノイドと耐糖能異常の関係性について検討した報告は非常に少なく、本研究を通して当該分野の更なる発展が期待される。
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Causes of Carryover |
当初の計画に対し研究の進捗に遅れが生じ、予定額を消費できなかったことから、平成26年度末に補助事業期間延長を申請した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の研究に使用する消耗品(具体的には実験動物、実験飼料および各アディポサイトカインの測定に用いるELISAキット)の購入に充てる予定である。
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