2012 Fiscal Year Research-status Report
明治・昭和三陸津波に関する知識・情報・記憶―科学史・科学技術社会論的分析
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24700925
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Research Institution | Hiroshima Institute of Technology |
Principal Investigator |
金 凡性 広島工業大学, 環境学部, 准教授 (30419337)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 三陸津波 / 記憶と忘却 |
Research Abstract |
本研究は、明治・昭和の三陸津波に関する知識と情報がどのように形成され、また伝えられたのかに関して、主に科学史および科学技術社会論の分析手法を用いて考察することを目的とする。特に本研究は、災害体験の「忘却」を単に時間の経過に比例する「記憶の風化」として見なすのではなく、社会・文化的な文脈の中で実際に忘却が行われていくプロセスに注目する点に特徴がある。このような観点から、2012年度においては、1896年、1933年、そして1960年に三陸沿岸を襲った津波がそれぞれ当該地域の文脈においてどのように伝えられてい(なかっ)たのかを確認するため、主に『岩手日報』、『岩手毎日新聞』、『岩手東海新聞』、『岩手報知』など、岩手県内で発行される地元紙の紙面に焦点を当てながら検討を行った。その結果、1)少なくとも1933年の昭和三陸津波と1960年のチリ地震津波に関しては、田中幹人らが『災害弱者と情報弱者―3・11後、何が見過ごされたのか』(筑摩書房、2012年)で指摘しているのと同様、岩手県内の言論空間においても、ローカルな話題が多くの場合東京を発信源とするナショナルな話題に呑まれ、その中で津波関連の報道は遠景に遠ざかっていく傾向が見られた。しかしその一方で、2)同じ岩手県内とはいえども、その「中心」に位置するといえる盛岡と、被災地である三陸沿岸の言論空間の間には、津波に対する関心の温度差も見受けられる。このように、情報発信における「中心」と「周辺」との関係は、単なる「東京 vs. 地方」の構図だけが存在するのではなく、その構造は重層的であることが窺える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度においては、津波に関する情報が発信される社会的な文脈について一定の成果を得た。一方、津波に関する知識の形成および伝達については現在資料の収集と分析を行っているが、Agnotology(詳細については「今後の研究の推進方策」を参照)の分析手法を導入することにより、研究のさらなる効率化が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究と関連しては、Agnotology(無知論)の研究方法が大いに参考になる。Agnotologyにおいては、「無知」を単なる知識の欠如や損失としては見なさず、政治・文化的な文脈の中でダイナミックに形成されるものとして理解している。また、Agnotologyでは「無知」が持つポジティブな機能にも配慮している点に特徴がある。本研究のキーワードの一つである「忘却」は無知の一種として理解することができるが、1)それが政治・文化的な文脈の中で形成されること、また2)それが社会の中で何らかの機能を持っている可能性に着目することによって、どのような知識や情報が形成・伝達されるか/されないのかに関する知見を得ることが期待できる。 その成果については、2013年11月に開催される予定の科学技術社会論学会にて報告するとともに、Cross-Currents誌の特集号(2013年12月発行予定)にも論文として発表する予定である。また、所属機関のホームページ等を利用して一般市民への情報発信も行うことを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度の研究に必要な研究費は、主に資料調査および研究発表に必要な旅費、書籍などの物品費、そして資料のコピー代等である。なお、資料調査は日本国内で行い、海外への情報発信はCross-Currents誌等への論文投稿で行うため、海外旅費は必要としない。
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Research Products
(5 results)