2012 Fiscal Year Research-status Report
鋼製ワイヤーを用いた歴史的レンガアーチ橋の補修方法の確立に向けた研究
Project/Area Number |
24700929
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
岸 祐介 関東学院大学, 工学部, 助手 (50613999)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 文化遺産防災学 / 補修・補強 / 構造工学 / 耐震工学 / 減災 |
Research Abstract |
平成24年度はレンガ造の破壊強度に着目し,構成則把握のための強度試験を実施した.具体的には,レンガと目地から構成される2種類のレンガ構造試験体を作製し,各々の物性試験を行った. レンガアーチ橋の被害事例を調べると,圧縮によるレンガのはく落や目地切れが生じているケースも存在するが,多くの場合において破壊の生じる原因となり易いのは,せん断方向への変形および曲げ引張によるレンガ-目地境界における引張破壊(剥離破壊)である.地震時に橋梁に作用する水平力は,せん断と曲げ引張の両方を生じさせる.日本におけるレンガ造構造物の衰退の要因として,濃尾地震,関東地震での被害が大きく関わっていることから,せん断と曲げ引張に対する強度基準を把握することが必要である. まず使用する目地材に関しては,JIS規格の配合を行ったモルタルと石灰を配合したモルタルの2種類のモルタルを用意した.明治・大正期には,レンガ同士の凝結剤として石灰入りモルタルが使用されおり,既往の研究より得られている配合を参考に,最も代表的な配合質量比を用いて石灰入りモルタルの練り混ぜを行った.レンガ造試験体の剥離強度試験では,現行基準モルタルを用いた試験体の方が,石灰入りモルタルを用いた試験体より剥離強度が大きかった.ただし,結果のばらつきも大きく安定した値を得ることはできなかった. せん断強度試験においては,剥離強度試験と同様に現行基準モルタルを用いた場合の方が,せん断強度が大きくなった.また,現行基準モルタル,石灰入りのどちらを用いた場合も,レンガ-目地境界の法線方向に作用する拘束荷重が大きくなるに伴い,せん断強度が大きくなった.さらに,拘束荷重とせん断強度の回帰分析を行った結果,どちらのモルタルを用いた場合も回帰直線が拘束荷重ごとの平均値上を通っており,構造物の死荷重とせん断強度との線形範囲における関係性について導くことができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に行う必要のある内容として,まずはレンガ構造試験体を用いた破壊実験を実施し,破壊基準を導くことに関して,一定の結果を得ることができた.また実験の結果から,剥離破壊,せん断破壊ともに靭性の乏しく,せん断破壊に比べて剥離破壊はより脆性的な破壊形態であることを確認した.破壊基準や破壊形態の把握に関しては,当初の計画に基づいて進めることができている. 目地材の配合に関しては,代表的な配合質量比を既往の研究報告から求めて採用した.目地材の種類については,当初の予定よりも少ない種類によって検討することとなったが,試験体の保管環境と作製する必要のある試験対数の都合上,今回の実験で用意した以上の数を用意することは困難であったため,剥離とせん断のパラメータ取得を優先した.モルタルの物性試験の結果から,石灰が強度に及ぼす影響は小さいと考えられるが,歴史的構造物を検討対象としていることから,経年変化による影響を別途検討する必要があると考えられる. 剥離強度の把握に関しては,試験体ごとの破壊強度のばらつきが大きく,追加で実験を行う必要があると考えられる.この剥離強度のばらつきは,レンガの組成が大きく影響していると考えられ,本研究の遂行によって確認できたものである.そのため,JISの規格や統計量として,事前に準備していた試験体の数が不足していたことに起因するものではない.一方,せん断強度に関しては,鉛直方向に作用する荷重とせん断強度との関係性について,一定の値までの結果を得ることができた.この結果については,今後の数値シミュレーションに破壊基準として取り込むことが可能であり,有限要素解析に反映させるべく数値モデルの作成を進めている. 当初の研究計画から修正する必要のある部分も存在するが,大枠としては研究計画に則った進行状況であると考えられ,「おおむね順調である」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策について,大枠としては次の3点について検討を進める予定である.1点目は数値シミュレーションによるレンガアーチ橋の崩壊挙動の追跡,2点目は崩壊予測に基づいた補修・補強方法に関する検討,3点目は提案手法に関する実験的検証である. まず数値シミュレーションに関して,レンガ-目地間での破壊基準の設定について検討を進める.平成24年度に行った実験結果より,レンガ-目地間での破壊はせん断と引張による破壊が主であると仮定し,破壊基準のモデル化を行う.モデルの妥当性確認のために,まずは実験結果の再現解析を行い,その上でレンガアーチ橋の全体的な挙動に対する検討を行い,崩壊開始位置の特定および崩壊挙動の追跡について検討する. 次に鋼製ワイヤーを用いた補修方法に関して,数値シミュレーションによる検討を行う.本研究では鋼製ワイヤーによって囲まれたレンガ組みを重ね合わせる方法により,レンガ単体の瓦解およびレンガ組みの瓦解を防ぐことを目的としているが,その提案手法の有効性について有限要素解析を用いて検討を進める.強度のみに着目すれば,繊維ロープなど,鋼製ワイヤー以外の材種でも十分に強度を有するものが存在するが,剛性に乏しいという物性を有している.レンガの瓦解を防ぐには,初期剛性が大きい材質が望ましいと考えられ,これについても検討を行う必要がある. 最後に補修方法に関する実証実験を行う.実験においては,提案手法を施したレンガ造試験体を作製して載荷試験を行う.ただし,実際のレンガアーチ橋サイズの試験体を作製することは困難であるため,数値解析のモデル,実証実験用の試験体ともに再現可能な試験体サイズで検討を行うものとする.提案手法の解析結果と実証実験の結果を整理し,両者について比較を行った上で本研究で得られた成果についてまとめる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まずは数値シミュレーションの実行環境を整えるため,ワークステーションの処理容量の確保および解析ソフトのライセンス確保に対して,研究費を割り当てる必要がある.数値シミュレーションに関しては,有限要素解析および骨組構造解析を行う必要があり,それぞれ汎用解析ソフトを使用することによって検討を進めることを考えている.そのため,ライセンスへの費用配分に関しては次年度予算の70%を割り当てる必要があると考えている.一方,ワークステーションの処理容量に関して,具体的にはメモリの増設による処理容量の確保を考えており,これに対して次年度予算の10%が必要であると考えている. また,剥離強度のばらつきが大きかったことから,追加で実験を行いデータの標本数を増やす必要があると考えている.そのため,実験材料の購入に研究費を割り当てる必要がある.ただし,追加で行う実験は,平成24年度に実施した実験の一部を追加するといった限定的な内容に留まるものである.そのため,次年度予算からの配分は10%を予定している. 最後に,成果発表のための旅費と,実験および解析の実施にあたって学生による補助が必要であるため,これらに対して研究費を割り当てる必要がある.成果発表に関しては,東京以外での場所へ向かった場合に必要であり,次年度は1回を予定している.旅費に対しては,次年度予算より5%が必要であると考えている.また,実験および解析の補助として学生アルバイトを雇う必要があり,これに対して次年度予算より5%が必要であると考えている. 以上が,次年度予算の各使用用途に対する配分予定である.
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