2013 Fiscal Year Research-status Report
鋼製ワイヤーを用いた歴史的レンガアーチ橋の補修方法の確立に向けた研究
Project/Area Number |
24700929
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
岸 祐介 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 助教 (50613999)
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Keywords | レンガ造構造物 / 破壊強度 / 地震 / 水平力 |
Research Abstract |
平成25年度は前年度に行った要素実験の結果をもとに,想定している各破壊形式に対して,破壊基準に関する定量的な評価を行った. 本研究では,歴史的レンガアーチ橋を対象として破壊基準を定量的に評価することを念頭に置いている.ここで,レンガ造における破壊形式として想定しているのは,せん断方向への変形および曲げ引張によるレンガ-目地境界における引張破壊(剥離破壊)である.地震多発国である我が国において,地震時に作用する水平力はレンガアーチ橋にとって崩壊要因としての影響が大きい.水平力の作用は,橋脚基部にせん断と曲げ引張の両方を生じさせ,レンガ―目地間での破壊を促進させる働きをすることが考えられる.こうした作用に対して,現存するレンガアーチ橋の残存耐力を評価する必要がある. そこで平成24年度に実施した要素実験の結果をもとに,本年度は破壊強度の定量的な評価を行った.剥離強度を比較すると,石灰入りモルタル(明治・大正期の配合を考慮)を用いた場合に比べて,現行基準モルタルを用いた場合の方が1.3倍程大きい値となった.せん断強度においても,現行基準モルタルを用いた場合の方が,石灰入りモルタルを用いた場合よりも1.4倍ほど大きい値となったが,これは目地材における砂の配合質量比の影響により,レンガと目地材の境界面での摩擦力が大きくなるためだと考えられる. 剥離強度とせん断強度を比較すると,いずれのモルタルを用いた場合においても,剥離強度に比べてせん断強度の方が3倍ほど大きい値となった.つまり,レンガアーチ橋の破壊形式としては剥離破壊が先行する可能性が高く,安全性の担保には剥離強度の確保が重要であると考えられる.一方で,要素実験の結果から,現行基準モルタルを用いた場合の方が石灰入りモルタルを用いた場合よりも水平力に対する抵抗が大きく,補修・補強に用いる目地材として適していると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成25年度に行う必要のある内容として,数値シミュレーションによる崩壊挙動の予測を挙げていたが,人事異動に伴う研究環境の変化により研究実施に必要な環境を確保することができず,一定の結果を得ることができなかった.以下に,本年度実施状況に関する理由を述べる. 数値計算の実施において,ワークステーションのメモリ増設を行う予定をしていたが,先述した研究環境の変化に伴って,計算機自体をワークステーションではなくデスクトップPCに変更する必要が生じた.そのため,当初の予定よりも電子計算機能が低下し,有限要素解析による検討を進めたが数値解析モデルの作成および数値計算に要する時間が大幅に増加した.結果として,数値解析ソフトウェアのライセンスを所定の期間レンタルしたが,十分な検討を行うことができなかった. また,異動先において当初予定していた業務以外の業務量が多く,当該年度に予定していたエフォートを確保できなくなったことも影響している.これについては,特に数値計算への影響が大きく,計算結果の確認と次の計算を実施するまでの合間を大きく取ることになってしまった.そのため,当初の予定よりも数値解析の検討数が少なくなってしまった. 最後に,これまで実験や数値解析実施において学生アルバイトを確保することが容易であったが,異動先ではそれが適わず,研究代表者自身で進められる計算量に限界があった.以上のように,当初の研究計画から修正する必要のある部分が多く,研究計画に則った進行状況から大きく後退したと考えられ,現在までの達成度としては「遅れている」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策については研究計画を変更し,次の要点について検討を進めていく.1点目は鋼製ワイヤーによる補強効果に関する要素実験の実施,2点目は数値シミュレーションによるレンガアーチ橋の崩壊挙動の予測,3点目に崩壊予測に基づいた補修・補強方法に関する検討である. まず要素実験の実施については,検討内容の見直しを図った結果,所定の効果の確認,定量的な評価および想定外の問題点の抽出が必要と判断した.前年度の検討により,レンガアーチ橋の崩壊抑制には剥離強度の確保が重要であると考えられる.本研究では鋼製ワイヤーの使用により,剥離強度が担保できると想定しているが,実挙動においては変形させたワイヤーに張力を作用させた場合の挙動など,補強効果以外に問題が生じる可能性もある.そこで,まずは要素実験において補強効果と問題点の抽出を行い,その上で数値シミュレーションによる補修方法の検討を行うこととする. 数値シミュレーションに関して,前年度の内容としてレンガ-目地間での破壊基準の設定について引き続き検討を進める.モデルの妥当性確認のために,実験結果の再現解析およびレンガアーチ橋の全体的な挙動に対する検討を行い,崩壊開始位置の特定および崩壊挙動の追跡について検討する.また,鋼製ワイヤーの挙動についても要素実験の結果をもとに検討を進める. 上記2項目における結果を踏まえた上で,鋼製ワイヤーを用いた補修方法に関して,数値シミュレーションによる検討を行う.鋼製ワイヤーによって囲まれたレンガ組みを重ね合わせる方法により,レンガ単体の瓦解およびレンガ組みの瓦解を防ぐことを目的としているが,その提案手法の有効性について有限要素解析を用いて検討を進める.これらの検討結果から,本研究の成果についてまとめる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,当初計画していた内容よりも研究進捗が遅れる結果となった.これに伴い,予定されていた出費項目のうち,以下の内容において出費を取りやめることとした.まず物品費について,ソフトウェアのライセンス費用が全体の75%となったが,ワークステーションのメモリ増設を行わなかったため,5%が未使用となった.また追加で行う予定をしていた実験については,実験結果より破壊基準の設定についてある程度まとめられたことにより実験環境を確保する状況になかったため,10%が未使用となった.成果発表のための旅費としては,近郊での発表に留めたため出費しなかった.また学生アルバイトについては異動先での確保ができなかったため,謝金として計上していた予算を使用しなかった. 以上の理由により,平成25年度の予算に対して25%を使用できない状況にあったため,次年度に繰り越すこととなった. 平成25年度に割り当てられた予算のうち,未使用になった研究費については平成26年度における要素実験の材料費に割り当てる予定である.本研究では,鋼製ワイヤーがレンガ造の瓦解を防ぐ役割を担うことを想定しているが,実挙動においては目地内に埋め込んだ鋼製ワイヤーがどのように作用するのかを把握していない.数値シミュレーションにおいては,鋼製ワイヤーの挙動について境界条件を予め設定することになるため,想定外の作用に対する検討を事前に行う必要がある. そのため,平成26年度においてはレンガ造に外力が作用した場合における,目地内部での鋼製ワイヤーの挙動について要素実験による確認を行い,補強効果についての定量的な評価を行うとともに問題点の抽出においても検討する.挙動の確認においては,試験体数を十分に確保する必要があるため,平成25年度予算の未使用額を実験材料の購入費用として使用する.
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