2014 Fiscal Year Research-status Report
鋼製ワイヤーを用いた歴史的レンガアーチ橋の補修方法の確立に向けた研究
Project/Area Number |
24700929
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
岸 祐介 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 助教 (50613999)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 近代化遺産 / 文化財 / レンガ造構造物 / 地震 / 破壊強度 / 補修 / 補強 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は,レンガ造要素実験の結果に基づき,数値解析における破壊強度基準の定式化に取り組んだ.本研究は,歴史的レンガアーチ橋に対する補修・補強方法の考案を目的としている.本研究の対象は,我が国において文化財的価値および社会基盤としての重要性の両点を有する.これらを後世により良い状態で受け継いでいくためには,工学的見地から補修・補強の技術を確立することが重要である. レンガ造のような組積構造の破壊強度については,国際的にはISOをはじめ,ASMEやEURO CODEなどで規定されている.一方,我が国ではレンガ単体の所要の圧縮強度についてはJIS規格が存在するものの,組積構造に対する破壊強度には基準が用意されていない.また,国際基準では主にレンガ―目地間のせん断強度が着目されているが,剥離強度の方がオーダーとしての数値が低く,崩壊開始への影響が大きいと考えられる. 適切な補修・補強方法を確立するためには,対象構造物の残存性能を定量的に評価することが必要であり,破壊基準の設定は残存性能の評価に大きく影響する.これまでに行った実験より,レンガ―目地間の破壊強度について各破壊形式に対応した数値が得られている.この結果に基づいて,まずは数値シミュレーションによる破壊基準の定式化を目指した.破壊強度の算定には,レンガ―目地間の接着面積と,載荷によってレンガ,目地それぞれに生じる内部応力の関係より求められる式とすることを念頭に置いた. 要素実験に用いた試験体を有限要素モデルとして作成し,破壊基準のない状態で試験体に生じる応力の分布を求める数値解析を実施した.解析結果より得られた応力の分布より,試験体に生じる引張応力と圧縮応力の分布について,作用する荷重との関係性について求め,これを破壊基準とするように定式化を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成26年度に行う予定としていた内容は,鋼製ワイヤーによる補強効果確認のための要素実験,レンガアーチ橋全体系の破壊シミュレーションおよび数値解析の結果に基づく補修・補強方法の検討である.これに対し,実際に行うことのできた内容としては,破壊基準の定式化に留まった.以下に,本年度の研究状況について説明する. 実験については,本学の施設を使用して進める予定であったが,他の試験体が占めるスペースとの関係から要素実験に用いる試験体の保管場所を十分に確保することができなかった.また,他の研究者との実験装置の使用時期の調整において,装置の故障とその修理に要した期間などの事情により,実験実施のために十分な時間を確保することが難しい状況であった.そのため,平成26年度中に実験を実施することができなかった.また,他の実験施設の借用を検討したが,試験体数や冶具製作に必要な予算との都合から実施に至ることができなかった. 数値シミュレーションについては,破壊基準の定式化に時間を要したため,全体系について検討を行うための時間を確保することができなかった.これについては,平成25年度の人事異動に伴い,当初の業務内容から大きくエフォート率が変化したことが影響している.現在の所属先においては,業務全体に対して当該研究以外の従事に必要な割合が多く,研究遂行のための時間を十分に確保できていない.これについては,関係者に対して研究内容の重要性について説明を行い,研究活動のための時間確保に努める. 補修・補強方法については,要素実験の計画とともに適用状況についての検討を進めている.ただし,具体的な効果確認ができていないため,実験による検証が必要である.以上より,全体として研究計画の進行状況より後退する状況が続いている.そのため,現在の達成度として「遅れている」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
事業期間の延長が認められたため,平成26年度に実施を予定していた要素実験の実施と数値シミュレーションを中心に検討を進める. 鋼製ワイヤーによる補強効果について,要素実験の実施と数値シミュレーションによって検討を行う予定である.これまでに実施した実験結果より,レンガアーチ橋の崩壊抑制には剥離強度の確保が必要であると予想される.ここで,本研究では鋼製ワイヤーの使用により剥離強度が確保できると想定しているが,荷重作用下におけるレンガ組を囲むワイヤーに張力が働いた状態の挙動については把握できていない.そこで,要素実験によって補強効果の確認・評価を行うとともに問題点の抽出を行い,その上で数値シミュレーションにおいて検討可能となるように定義する. レンガアーチ橋全体系に対する検討としては,定式化したレンガ―目地間の破壊基準を数値シミュレーションに反映し,崩壊開始位置の特定および崩壊挙動の追跡を行う.また,崩壊開始位置および崩壊の進展箇所を対象に補修・補強対策を施す状態を想定し,対策したモデルについても挙動を追跡する.その上で,対策の有無による挙動の変化について確認する. 上記の実験および解析結果を踏まえて補修方法に対して評価し,考案した対策の有効性に関する検討を行う.提案手法としては,鋼製ワイヤーによって囲まれる範囲の重ね合わせにより,レンガ単体の瓦解およびレンガ組みの瓦解を防ぐことを想定しているが,実用性に着目して評価を行うとともに国内外における補修・補強の事例との比較を行う.特に,文化財に対する対策として,不可逆性に着目した評価を行う.以上の検討結果について整理し,本研究の成果として取りまとめる.
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Causes of Carryover |
平成26年度は鋼製ワイヤーによって補強されたレンガ要素試験体を用い,剥離強度に対する抵抗強度について検討を行う予定であった.しかし,破壊基準の定式化とレンガ―目地間の界面のモデル化に,計画していた以上の時間を要した.これらは,レンガ造全体の崩壊挙動への影響が大きいと考えられるため,剥離強度試験の実施に至ることができなかった.これに伴い,要素実験で予定していた材料の購入および冶具の製作を行わなかったため,物品費を使用しない状態となった.旅費においては,当該研究にかかる用務での出張などを行わなかった.また,前年度同様に現在の所属先ではアルバイトの雇用が困難であり,人件費・謝金についても執行がなかった.研究全体として進捗は大きくなかったため,対外的な発表に足る成果を得られておらず,論文投稿などで見込んでいた金額の執行もなかった.これらの理由により,未使用金額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度は予算執行の実績が無いため,当該年度の予算をそのまま繰り越す形となる.そのため,当該年度に予定していた使用計画に基づき執行する予定である.まず物品費については,実験関係で必要なレンガ,セメントなどの材料の購入および実験装置に取り付ける冶具製作のために使用する予定である.また,数値解析の進捗状況によっては解析マシンのメモリ増設を予定している.旅費については,当該研究の成果発表を目的とした出張用務において執行することを考えている.また,実験の実施に伴いアルバイトの確保が必要であり,人件費・謝金についても執行する予定である.ただし,現在の所属先での確保は困難であるため他大学,研究機関への協力の依頼を予定している.最後に,研究成果をまとめて逐次公表するため,学会講演料,論文投稿料としての執行を予定している.
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Remarks |
Researchmapにおける情報公開,URL http://researchmap.jp/disaster_prevention
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