2012 Fiscal Year Research-status Report
文化財保護法の成立過程に関する研究―日本における文化財概念と史跡名勝天然記念物―
Project/Area Number |
24700932
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
Principal Investigator |
境野 飛鳥 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, 特別研究員(アソシエイトフェロー) (80622092)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 文化財保護法 / 史跡名勝天然記念物 / 成立過程 / GHQ |
Research Abstract |
平成24年度は「国家記念物保存法案」とその関連史料の調査を行った。同史料は、文化財保護法の草案で史跡名勝天然記念物の規定が削除されていた時期に作成されたものと推定され、史跡や名勝を文化財保護法とは別の体系で保護することも検討していたことを示す重要な史料である。同史料については、既往の研究でその存在が言及されてはいたものの、これまで系統立てて分析はされてこなかった。そこで、まず、史料を詳細に調査し、18点の草案の作成時期、相違点などを分析した。研究代表者はこれまで、合計11案の日本語で作成された文化財保護法の草案・法案の存在を明らかにした。また、その他にも文化財保護法の起草以前に作成された個人的な改正案の存在を確認した。こうした草案・法案・改正案と比較することにより、「国家記念物保存法案」の位置付けを検証した。 また、文化財保護法成立当時の国際機関や他国の状況を調査し、当時の日本の文化財概念を相対的に理解するために、パリのUNESCOアーカイブズにて、資料調査を実施した。特に、日本の史跡名勝記念物に関連するものとしては、1962年に採択された、景観保護を目的とするユネスコの初めての国際規則である「風光の美と特性の保護に関する勧告」の作成過程に関する資料を収集した。 さらに、「国家記念物保存法案」等の史料が占領期に成立したことを踏まえ、国立国会図書館所蔵の『GHQ/SCAP文書』を調査し、史跡名勝天然記念物と国立公園をめぐる議論に関連する文書を収集した。 その他、次年度の調査に向けて国内外の関係者へのヒアリングを実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、日本の文化財保護法について、これまで二次史料に基づいた概説的叙述が広く受け入れられていた状況を踏まえ、日本の文化財概念の成り立ちを一次史料に基づき改めて実証的に検証するものである。そのため、平成24年度は国内外で新たな一次史料の収集に努めるとともに、既に手元にあった「国家記念物保存法案」等の史料調査を行った。これらについては概ね予定通り、研究を進めることができた。また、平成25年度に予定しているアメリカ調査に係るヒアリングを実施した。こうしたヒアリングを通じて、具体的な調査先としてアメリカ国立公文書館(United States National Archives and Records Administration, NARA)、アメリカ美術アーカイブズ(Archives of American Art)、アメリカ文化財保存修復学(American Institute for Conservation, AIC)等を選定した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、一次史料の収集と分析を実施していく予定である。特に史跡名勝天然記念物にまつわる当時の社会的背景や、関係機関の見解を分析するため、国宝保存会、重要美術品等調査委員会、史蹟名勝天然紀念物調査会、文化財保護委員会等、文化財保護に関する戦前戦後の政府の諮問委員会に所属していた各委員について調査し、これまで利用されていない一次史料の収集に努める。これまでの研究を通じて、こうした専門家の私文書には当時の文化財行政に関わる史料が断片的に保管されていることが多いことを実感している。 また、前述したように平成25年度にはアメリカでの調査を予定している。文化財保護法が成立したのは第二次世界大戦後の占領期であり、同法の起草にあたっては日本の専門家のみならずGHQの専門家も関与していることが知られている。しかし、そうしたGHQの専門家の詳細な経歴や専門分野に関する調査は始まったばかりであると言える。本研究では彼らの背景を踏まえたうえで、国立国会図書館所蔵の『GHQ/SCAP文書』を検証することを目指している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費が若干あるが、これは当該年度の国内調査について、既に手元にあった史料の検証に多くの時間を費やしたことや、近場での史料収集やヒアリングを優先的に行ったことに起因している。次年度以降は近場に限らず、国内で広く調査を行う予定である。 また、平成25年度にはアメリカでの調査を予定しているが、平成24年度の調査やヒアリングを通じて得られた情報を基に、調査を実施することを計画している。
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