2012 Fiscal Year Research-status Report
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24700939
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
清 拓哉 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (40599495)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 保全遺伝学 / トンボ類 / 博物館資料 |
Research Abstract |
絶滅のおそれのある生物は過去から現在に向かって遺伝的多様性が減少してきたと考えられる。博物館にはそういった絶滅危惧種の標本が収蔵されている場合があり、過去にどのような遺伝的多様性が保持されていたかを推定する材料として活用することができる。本研究ではベッコウトンボをはじめとした、日本国内で絶滅のおそれが指摘されているトンボ類について、過去に採取された標本から遺伝的な情報を抽出して、現在の遺伝的多様性と比較することを目的としている。特に国立科学博物館には多数の絶滅危惧種のトンボ類標本が収蔵されており、それらを活用しようとしている。博物館に収蔵されている標本は燻蒸処理や経年劣化等からDNAを抽出しても、遺伝子配列の決定が困難な場合が多く、遺伝情報を取得するための手段として利用されることが比較的少ない。こういった問題を克服することも今度の博物資料の活用にむけた重要な取り組みであると考えている。 平成24年度はベッコウトンボの遺伝的多様性について研究をおこなった。静岡県桶ヶ谷沼産のベッコウトンボの抜け殻(脱殻)からDNA抽出を試み、ミトコンドリアのハプロタイプの決定をおこなった。COI遺伝子の後半約700塩基対の配列決定を行った結果、20個の抜け殻から10個のハプロタイプが検出された。少なくとも10個の母系列が維持されていることになる。また、ベッコウトンボの生体ではなく、抜け殻から遺伝情報が取得できたため、生体を傷つけて生存能力に影響を与える必要がなくなった。トンボ類の絶滅危惧種全般の遺伝的多様性を探るための手法としても有用であると考えている。また、すでに絶滅していると考えられている地域集団から過去に採取された標本からもDNAを抽出して、ハプロタイプを決定することにも成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究成果として一番大きいのは、抜け殻からDNAを抽出し、遺伝情報を引き出すことに成功したことである。これは、博物館に収蔵されている資料の活用だけでなく、トンボ類の絶滅危惧種の保全遺伝学について有用な手法である。ただ、泥などの混入により、DNAサンプルのコンタミネーションが生じている場合が多々あったため、改善の余地が有る。博物館に収蔵されているその他のベッコウトンボ標本についても、DNA抽出を行い、ミトコンドリアのハプロタイプ決定を行なっている。現在のところ、標本の採集時からの経年の度合いにより、実験の成功度が大きく違っており、DNAの断片化が進むためと考えている。アガロースゲルによる電気泳動を行って、長い断片を抽出した場合、成功度が若干向上する。今後はゲノム増幅試薬などを用いて検証を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、すでに絶滅していると考えられている地域のベッコウトンボ標本をもちいて、ミトコンドリアのハプロタイプの決定を行う予定である。ただ、平成24年度の結果を踏まえると、個体数に対するハプロタイプ決定の成功率は、このままの方法でいくと、それほど高くないものと考えられる。そこで、ゲノム増幅試薬や、PCR産物の大腸菌を用いた分離などを行うことを計画している。最終的には現存するベッコウトンボ集団の遺伝的多様性と、集団の絶滅により失われた遺伝的多様性とを比較することを考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ほとんどが遺伝子実験のための薬品やチューブなどの消耗品費として使用される。
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