2012 Fiscal Year Research-status Report
気候変化が外来植物の生物学的侵入に与える影響に関する生物地理学的研究
Project/Area Number |
24700946
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
吉田 圭一郎 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (60377083)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 外来植物 / 乾湿傾度 / 生物地理 / 小笠原諸島 / ハワイ諸島 |
Research Abstract |
小笠原諸島では20世紀後半から気候の乾燥化が顕在化しつつある.この気候変化は小笠原諸島の生態系に深刻な影響を与えると考えられ,特に,乾燥環境に適応した外来植物の分布拡大による生態系への影響が危惧される.そこで,本研究では,(1)北西太平洋島嶼を対象として,乾燥した地域を起源とする侵略的な外来植物ギンネムの生物学的侵入による在来植生への影響を把握する.また,(2)生物地理的な比較から,ギンネムによる影響の地理的差異と乾湿傾度との関連性を明示する.そして,それらの結果に依拠して,(3)小笠原諸島において今後予想される気候変化がギンネムによる生態系への影響をどのように変化させるのか?について明らかにする.平成24年度は以下のような調査・研究を遂行し,成果を得た. 1.小笠原諸島におけるギンネムの分布拡大パターンの解析 過去の空中写真判読から判読したギンネム分布図を地理情報システム(GIS)に入力し,予察的な解析を行った.その結果,分布拡大には人為的な撹乱の有無が強く関係していること,また,比較的湿潤な場所において,遷移後期に出現する他の移入種により置換されていることが示唆された.今後は,さらに解析をすすめ,ギンネムの分布変化パターンを明らかにし,乾湿傾度との関連性について検討する. 2.オアフ島におけるギンネムによる在来植生への影響 ギンネム優占林が成立して30年以上経過した二次林を対象に植生調査を行い,既存データと合わせ計28カ所のデータを得た.解析の結果,オアフ島ではほとんど全ての地点でギンネムが優占したままであり,遷移後期種はほとんど出現しなかった.琉球列島や小笠原諸島との生物地理的な比較から,ギンネムの生物学的侵入による影響は島嶼間で異なることが示唆された.今後は,さらに解析をすすめ,ギンネムによる影響の地理的差異と乾湿傾度との関連性について検討する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現地での研究協力者を通じたハワイ諸島における調査のための許可申請が遅れ,現地調査が当初予定していた平成24年7~8月から12月へと変更せざるを得なかった.また調査時期が年末にずれ込んだため,調査期間が短くなり,さらに予定していた調査補助者が現地に赴くことができなかった. 上記の状況から,現地調査データが十分に取得できたとは言えず,解析も予定したものに到達していないことから,「やや遅れている」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降には以下のような調査研究を行う予定である. 1.外来植物ギンネムの分布変化についての解析:小笠原諸島を対象としたギンネムの分布変化についての解析を進めるとともに,オアフ島における過去のギンネムの分布図を作成し,地理情報システムを援用して小笠原諸島と同様の解析を行う.これらから,外来植物ギンネムによる在来植生への影響を島嶼スケールで明らかにするとともに,ギンネムの分布変化と乾湿傾度との関連性を検討する. 2.ハワイ諸島における現地調査の継続:平成24年度に行った現地植生調査を継続する.特にハワイ諸島では島嶼内での乾湿傾度が大きいことから,調査地域をさらに拡大し,ハワイ諸島の乾湿傾度上に成立した外来植物ギンネムの優占林を対象に植生調査を行う.このことにより,ギンネムによる在来植生への影響と乾湿傾度との関連性を検討する. 3.生物地理的な比較による解析:各島嶼内で検討したギンネムの生物学的な侵入による在来植生への影響について,北西太平洋島嶼間での生物地理的な比較を行い,水文気候条件に沿った外来植物の生物学的侵入による影響を評価する.そして,この結果に依拠して,乾燥化が進行しつつある小笠原諸島での今後のギンネムの分布変化やその在来植生への影響評価を行う. 4.成果の公表等:上述した研究を研究期間中随時取りまとめ,国際学会や国際的な学術雑誌にて公表していく.また,小笠原諸島で今後予想される乾燥化を想定し,外来植物の適切な管理策やその影響に対する具体的な保全策を世界自然遺産の科学委員会などを通じて提案していく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
達成度が遅れてしまった原因となった許可申請については,現地の研究協力者を通じて,既に終えており,平成25年度は研究計画上の遅れを取り戻すべく,精力的な現地調査を行う予定である.すなわち,ハワイ諸島での調査は当初2回(8月と12月)を予定していたが,これを3回(6~7月,9月,12月)に増やし,全ての調査に補助者を依頼する.また,現地調査に合わせ,現地の研究協力者や関連する研究者との議論を行い,国際的な会議での発表や学術雑誌への投稿への準備を行う. これら,ハワイ諸島での調査に加え,当初の予定通り小笠原諸島においても現地調査を継続し,植生データを取得する予定である.また,地理情報システムを援用した解析を効率的に行うため,データ入力等の作業に関する解析補助を依頼する.これによりさらに解析を進め,現地調査データと合わせ,より高度な解析結果を得ることができると考える. こうしたことにより,遅れを取り戻すだけでなく,研究をさらに進展させるべく研究費を効果的に使用していく予定である.
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Research Products
(1 results)