2013 Fiscal Year Research-status Report
気候変化が外来植物の生物学的侵入に与える影響に関する生物地理学的研究
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24700946
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
吉田 圭一郎 横浜国立大学, 教育人間科学部, 教授 (60377083)
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Keywords | 外来植物 / 乾湿傾度 / 生物地理 / 小笠原諸島 / ハワイ諸島 |
Research Abstract |
小笠原諸島では20世紀後半から気候の乾燥化が顕在化しつつある.この気候変化は小笠原諸島の生態系に深刻な影響を与えると考えられ,特に,乾燥環境に適応した外来植物の分布拡大による生態系への影響が危惧される.そこで本研究では,(1)北西太平洋島嶼を対象として,乾燥した地域を起源とする侵略的な外来植物ギンネムの生物学的侵入による在来植生への影響を把握する.また,(2)生物地理的な比較から,ギンネムによる影響の地理的差異と乾湿傾度との関連性を明示する.そして,それらの結果に依拠して,(3)小笠原諸島において今後予想される気候変化がギンネムによる生態系への影響をどのように変化させるのか?について明らかにする.平成25年度は以下のような調査・研究を遂行し,成果を得た. (1)外来植物ギンネムの分布拡大パターンの解析 GISを用いた解析の結果,小笠原諸島では比較的湿潤な場所において遷移が進行し,ギンネムは他の樹種に置換されることが明らかになった.ハワイのオアフ島では,ギンネムは年降水量1000mm以下の地域に分布しており,詳細な空中写真判読にから,成立後30年以上経過した場合でも,ギンネムの優占する群落は維持更新されていることが分かった. (2)ギンネム優占林の地理学的な比較 30年以上経過したギンネム優占林について,琉球列島,小笠原諸島,およびハワイ諸島とで比較した.その結果,湿潤な気候条件にある島嶼ほどギンネム優占林は他の植生に置換され,相対的に乾燥環境となる島嶼ではギンネム優占林が維持更新されていた.このことは,外来植物の生物学的侵入に地理的差異がみられることを示しており,ギンネムは太平洋島嶼において遷移初期に優占林を形成してきたが,本来の分布域と類似する気候条件下において維持更新することができ,在来生態系に強く影響すると考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究協力者(ハワイ大学Daehler教授)の協力を得て,ハワイ諸島における現地調査を順調に行うことができ,植生調査データを得ることができた.また,小笠原諸島父島・母島およびハワイ諸島オアフ島におけるギンネムの分布パターンに関する解析を進めることができている.既存のデータを含め,これらの解析結果の取りまとめを開始しつつあり,「おおむね順調に進展している」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度以降には以下のような調査研究を行う予定である. 1.生物地理的な比較による解析:各島嶼内で検討したギンネムの生物学的な侵入による影響について,分布パターンの時間変化や遷移系列に着目し,北西太平洋島嶼間での生物地理的な比較を行い,水文気候条件に沿った外来植物の生物学的侵入による影響を評価する.その際,ギンネムの本来の分布域における気候条件に着目し,ニッチの保守性(niche conservatism)を考慮した解釈を加え,外来植物による生物学的侵入の地理的差異について考察する. 2.気候変化との関連についての解析:小笠原諸島における気候の乾燥化について予測するとともに,それにともなうギンネムによる生物学的侵入がどのように変化するのか?について解析し,在来植生への影響評価を行う. 3.成果の公表等:2014年7月にハワイ大学で行われるIsland Biology 2014への参加を通じて,研究協力者や関連研究者とこれまでに得られた成果について議論し,さらなる解析へとつなげる.そして,これらの研究を取りまとめ,国際的な学術雑誌にて積極的に公表する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度において,ハワイ諸島での調査許可申請が遅れたため,現地調査が十分に行えず,平成25年度に予算を繰り越した.平成25年度は当該予算分を使用するため,調査補助者と同行させた小笠原諸島やハワイ諸島での現地調査や過去の空中写真のGISで解析するための処理などを行ったものの,繰り越し分を十分に消化することができず,平成26年度へと繰り越すこととなった. 平成26年度にはこれまでに得られたデータを用いた解析とその取りまとめを精力的に行うことと平行して,現地(ハワイ諸島および小笠原諸島)での再調査を行い,調査データを補強する.また,研究協力者とともにハワイ諸島で開催される国際会議(Island Biology 2014)に出席し,外来植物に関連する調査結果を報告する予定である.研究成果をまとめる過程では,現地の調査協力者(ハワイ大学Daehler教授)との打ち合わせを秋以降に行い,質の高い研究成果発表につなげたいと考えている.
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Research Products
(1 results)