2012 Fiscal Year Research-status Report
PTPRZ1による肺小細胞がん幹細胞維持および分化の分子制御機構解明
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24700990
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
牧野嶋 秀樹 独立行政法人国立がん研究センター, 臨床開発センター, 研究員 (30510573)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 幹細胞 |
Research Abstract |
受容体型チロシンフォスファターゼPTPRZ1が、肺小細胞がんを含む神経内分泌腫瘍で高率に発現していることを見出した。さらに、PTPRZ1遺伝子のノックダウン系の確立、がん細胞表面へのPTPRZ1発現、カルモジュリンのチロシンリン酸化制御、マウス移植モデルにおける腫瘍促進機能を証明した。これらの研究成果は、平成24年11月に英雑誌BMC Cancer に論文発表した。また、平成24年9月に札幌で開催された第71回日本癌学会学術総会にて、ポスター発表を行った。研究の目的および平成24年度の研究実施計画に従い実験し、現在まで得られた知見および問題点を下記に述べる。 平成24年度には、PTPRZ1を標的にフローサイトメトリーとマグネットビーズカラムでがん細胞を分離・回収し、PTPRZ1陽性細胞とPTPRZ1陰性細胞が、がん幹細胞の概念に合致する性質を保持するか検証した。最初に、肺小細胞がん細胞株の細胞表面に発現しているPTPRZ1を、現在使用している抗体を用いてフローサイトメトリーで検出可能であることが確認できた。抗PTPRZ1抗体で染色し、(1)ソーティングにて肺小細胞がん細胞を単離、(2)磁気ビーズカラムを使用して肺小細胞がん細胞を単離する実験系を確立した。マーカーであるPTPRZ1の発現をRNAおよびタンパク質のレベルで解析した結果、PTPRZ1陽性細胞が確かに濃縮されている結果を得た。しかし、単離後の細胞の培養を試みたが、細胞は育たずに死滅してしまった。この原因として、2点考えられる。1点目は、細胞単離時に、過剰なストレスがかかってしまい、細胞が死滅してしまう可能性である。2点目は、シングルセルとなった肺小細胞がんの特性による可能性がある。今後、これらの問題点を解決し、研究目的を達成する計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度には、PTPRZ1あるいはがん幹細胞マーカーを使用して、肺小細胞がん幹細胞を単離・回収する系の確立を目指していた。これまでに実験系は確立できたが、単離・回収した細胞が死滅してしまう問題点が明らかとなった。研究の当初から、PTPRZ1が肺小細胞がん幹細胞のマーカーとならない結果は想定していた。他の幹細胞マーカーを使用して肺小細胞がん幹細胞を単離する方法を試みているが、単離後の細胞が死滅してしまう問題は、PTPRZ1陽性細胞の単離時と同様であった。技術的な理由ではなく、シングルサスペンションで培養不可能な結果が肺小細胞がん細胞の特性であるならば、他の手法を用いて幹細胞を単離・回収する必要がある。研究の計画当初では予想できなかった結果であるが、肺小細胞がん幹細胞を単離・同定し、がん幹細胞に特徴的な分子機構解明を達成するために、以下の研究を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
肺小細胞がん細胞単離後に、通常の培養条件では細胞が死滅してしまい、その後の実験が不可能であった。この問題を解決する目的で、培養液の組成の変更と、3次元培養等の成体幹細胞の培養条件を試みる。肺小細胞がん細胞が単離・回収後に培養可能になるならば、当初の計画通り、がん幹細胞の定義に当てはまる細胞を肺小細胞がん幹細胞として単離する実験系を確立させ、肺小細胞がん幹細胞の特性を生化学的および分子生物学的な手法を用いて解明する。マーカー陽性細胞と陰性細胞に分離後、免疫不全マウス皮下に、移植する細胞数を減少させて、分離マーカー陽性あるいは陰性のどちらの細胞群が高い腫瘍形成能を保持するか検証する。また、トランスクリプトーム解析やプロテオーム解析を行い、肺小細胞がん特異的な分子発現プロファイルを作製する。その他、代謝産物を網羅的に解析するメタボローム解析、糖鎖修飾などの網羅的な解析、DNAのメチル化解析やヒストンの修飾解析などのエピジェネティックな解析も試みる。肺小細胞がん幹細胞と非幹細胞間で遺伝子発現や修飾状態が異なる分子を同定し、他臓器由来のがん幹細胞とも比較して、神経内分泌腫瘍特異的な分子などにも着目して発現プロファイリングを構築する。 既存の計画と並行して、新たな下記に示す研究も行う。肺小細胞がん細胞を単離せず、つまりシングルセルサスペンションを介さずに、幹細胞を濃縮する方法を試みる。これまで知られているがん幹細胞の特性は、高い腫瘍形成能に加えて、高い薬剤耐性能と解糖系の低下した代謝状態である。がん幹細胞は高い薬剤耐性能を保持すると考えられているため、肺小細胞がん治療に頻繁に使用される薬剤を使用して、肺小細胞がん幹細胞の濃縮を試みる。また、肺小細胞がんの解糖系を含む代謝変化を解明し、がん幹細胞単離への応用を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品は、140万+40.4万円程度を考えている。内訳は、培養細胞、抗体、細胞培養試薬(基本となる培地、血清、サプリメント、サイトカイン、増殖因子、抗生物質等)、細胞生物学試薬(フローサイトメトリー関連試薬、マグネットビーズ、細胞分離カラム、抗がん剤)、分子生物学に必要な試薬(プラスミド、核酸精製キット、PCR用酵素、制限酵素、核酸修飾酵素、RT-PCR試薬、大腸菌関連、マイクロアレー、エピジェネティクス解析試薬)、タンパク質解析関連試薬(抗体、ゲル、ウェスターン用試薬、免疫沈降法用試薬、2次元電気泳動装置、放射性同位体)、免疫染色試薬(抗体、緩衝液、発色液、染色液)、乳酸等の代謝産物解析試薬、プラスチック器具(培養皿、ピペット、マイクロプレート等)核酸カスタム合成である。その他、英文校正、論文投稿費、書籍等で10+11万円、旅費として20万円の使用を計画している。
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Research Products
(2 results)